通勤ラッシュの力で発電-JR東日本が東京駅で実験(
SANSPO.COM)
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1人が改札を通過するごとに約70―100ミリワットを発電、改札脇に設けるパネルで実際の発電量を表示する。1日約70万人が利用する東京駅の全改札に設置したとしても発電量は100ワット電球が10分程度点灯する約70キロワットにとどまり、発電効率の向上が大きな課題だ。
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記事で言及されている技術的可能性自体はおもしろいのですが,この記事には,科学的な面で大きな誤りが含まれています.さて,どこが誤りなのでしょう?
答えは,エネルギーの単位です.発電量を表す単位は「ワット」でなく「ジュール」でなければなりません.
これはほとんどの一般人が誤解しているのではないかと思いますが,「ワット」とはエネルギーの単位ではなく,「仕事率」,すなわち単位時間あたりのエネルギー(の発生量または消費量)を表す単位です.
エネルギーの量を表す最も標準的な単位は「ジュール」です.ジュールの正確な定義をわかりやすく説明するのはちょっと難しいですが,たとえば,質量1キログラムのおもりを垂直に1メートル持ち上げるために必要なエネルギーは,およそ10ジュールです.1リットルの水の温度を1度上げるためには,およそ4キロジュールのエネルギーが必要です.
そして,エンジンや発電機が1秒あたり1ジュールのエネルギーを生み出すとき,そのエンジンや発電機の「仕事率」は1ワットであるといいます.逆に,仕事率1ワットの発電機を1秒運転すれば,1ジュールのエネルギーが発生します.
「100ワット電球」というのは,1秒あたり100ジュールのエネルギーを消費するという意味です.
ここまで理解すれば,引用した記事は,次のように書き直さなければならないことがわかるはずです.
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1人が改札を通過するごとに約70―100ミリジュールを発電、改札脇に設けるパネルで実際の発電量を表示する。1日約70万人が利用する東京駅の全改札に設置したとしても発電量は100ワット電球が10分程度点灯する約70キロジュールにとどまり、発電効率の向上が大きな課題だ。
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10分=600秒なので,100ワットの電球を10分点灯させるために必要な電力量は60000ジュール=60キロジュール,ということで,計算が合います.
「改札脇に設けるパネル」で表示するのは,もしかしたら,発電された総量としての発電量ではなく,その時々の発電の仕事率かもしれません.そうだとすると,その単位はジュールでなくワットでなければなりません.
家庭の電力の検針票に書かれている消費電力量の単位は,多くの人は「キロワット」と思い込んでいると想像しますが,実は「キロワット時(kWh)」です.1キロワット時は,1キロワットの仕事率で1時間(=3600秒)に供給されるエネルギーなので,ジュールで表すと,1キロワット時=3600キロジュールとなります.
ところで,「ワット数」について,私も勘違いしていたことをひとつ.電子レンジの「500W」「700W」などの表示は,その電子レンジが消費する単位時間あたりの電力量ではなくて,電子レンジの庫内に向かって照射される電磁波の単位時間あたりエネルギー,すなわち「庫内の食品を加熱する仕事」の仕事率なんですね.我が家の「700W」の電子レンジに記された定格消費電力を見ると1.26kW,つまり,発生させる電磁波のエネルギーの2倍近いエネルギーを消費しているわけです.
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(10月17日追記)
ラッシュの雑踏、省エネに? 東京駅で「発電床」実験(
asahi.com)
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ただ、発電量は1日かけても100ワット電球が1分強点灯するだけ。
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こちらは突っ込みどころのない無難な書き方になっています。