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数学研究ピンチ 論文、米の5分の1 博士号は6分の1

2006-05-18 | アカデミック
数学研究ピンチ 論文、米の5分の1 博士号は6分の1 (asahi.com)

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日本の数学研究は、論文の数が世界の6位に甘んじ、研究費の伸びも他分野に比べて低いなど、「じり貧」状態…
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という記事の書き出しを読んで、「おぉ、やっと、数学研究の現実に目が向けられるようになったか!」と期待して読み進めたのですが、結論は
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数学者の活躍の舞台は、大学中心の日本に対し、欧米では産業界への進出が盛んで、日本も数学振興のための産学連携が必要…
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となっていて、「なんでそうなるの?」と、がっかりしました。

産学連携はけっこうなことですが、数学の大部分は、産業とは無縁の純粋な知識探求です。その「大部分」の数学の発展なくして、数学研究全体の発展はありえません。数学研究を振興するために真に必要なことは、次のことだと私は考えます。

-- 学問分野に関係なく(数学に限らず)、大学院生やポスドクの経済的地位と研究者としての活動基盤を保障する(奨学金制度の弱体化や助手任期制はこの考えに逆行する!)
-- 研究資金の分配方法を過度に競争的にせず、研究分野の維持に必要な最低限の資金配分を保障する(数学にふさわしい研究資金配分は「狭く厚く」ではなく「広く薄く」である!)
-- 産学連携できる数学の分野が稼ぎ頭になって、連携による収益を、カネにならない純粋数学に流す(数学研究分野の学問的重要性は「金が稼げるかどうか」とは無関係!)
-- 学部教育の「数学科」をこれ以上つぶさない(アメリカではほとんどの大学に数学科がある、日本は数学科のある大学はたった1割!)

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(5月23日追記)あとで気づいたのですが、「アメリカと日本では『数学』の範囲が違う」という可能性はないでしょうか? どういうことかというと、金融工学やリスクマネジメントなど、産学連携によって研究の活性化が図れる分野の研究が、アメリカでは数学に、日本では工学や経済学に分類されていて、そのために、アンフェアな基準で数学研究の規模が比較されてしまっているのではないかと思ったのです。

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(5月29日追記)職場の関係者から,報告書原文に関する情報を受け取りました。
忘れられた科学 - 数学 主要国の数学研究を取り巻く状況及び我が国の科学における数学の必要性
本文は190ページと長いですが、16ページの概要を読むとわかりやすいです。
asahi.com の記事では取り上げられていなかった「基礎的な数学研究を強力に振興するための政府研究資金の拡充」という提言がしっかり盛り込まれています。