詰将棋の街路樹

自作の詰将棋をはがきに描いて掲載しています。それから詰将棋鑑賞、日記。

終盤の思考 藤井八冠独占の第71期王座戦―再戦へ

2024-09-02 21:49:19 | 特集(将棋タイトル戦)
第72期王座戦挑戦者決定戦が7月22日に行われ、前王座の永瀬拓矢九段が王座24期の羽生善治九段に勝ち、藤井聡太王座への挑戦権を獲得した。藤井挑戦者に1勝3敗で敗れ八冠独占を許した1年後に、再び挑戦者として名乗りを上げた。前期王座戦は勝ち星が逆でもおかしくない名勝負と言われた。結果は第3局、第4局で藤井竜王・名人が終盤で逆転して永瀬王座との五番勝負を制し八冠独占を成し遂げた。

王座戦主催の日本経済新聞社が出版した本で、八冠独占となった歴史的な第71期王座戦を振り返ってみる。
「藤井聡太が勝ち続ける理由 王座戦―八冠の先へ」が、その本だ。



藤井王座のトークショー&自戦解説、観戦記者が語る藤井の素顔&永瀬とのライバル関係、羽生九段などのプロ棋士が語る日経掲載の記事、巻末の「将棋王座戦70年を振り返る」、と興味深いものばかりだが、一番の読みどころは勝又清和七段による5番勝負全4局と本戦準々決勝の藤井竜王・名人対村田顕弘六段戦の解説か。

その本から局面を二つばかり、勝又七段の解説を参考に紹介しよう。

一つ目に紹介する局面は第71期王座戦五番勝負第4局(先手:永瀬拓矢王座―後手:挑戦者 藤井聡太竜王・名人)の終盤122手目55銀までの局面(A図)。

A図


A図は永瀬王座勝勢の局面。藤井挑戦者は馬取りの55金ではなく44に効かせるほうが勝負のあやがあると55銀。これで読み筋を外され既に1分将棋の永瀬九段は、53馬と指してしまい玉が捕まらず逆転負けとなった。A図では42金以下、37の角をを引っこ抜いて勝つ順があったとのこと。また42金以下、難解な詰み手順もあるとのことで調べてみると、42金、22玉は32金、13玉、22銀以下。またA図以下42金、同金以下の主要な詰み手順は、本で解説されているので確認してほしい。
それから詰将棋のような手順で藤井挑戦者が勝った第2局の手順・解説なども必見。

次に紹介する局面は第71期王座戦本戦準々決勝の藤井聡太竜王・名人対村田顕弘六段戦(村田が先手)の75手までの局面(B図)。

B図


B図は村田六段勝勢の局面。このままだと藤井玉は42銀、52玉、51金以下詰まされてしまう(42銀に61玉は51金まで。)。八冠達成に向け挑戦者になるのは、もはや駄目かと思われていた局面。しかし、ここから藤井竜王・名人は8手後に村田玉に約20手の詰みを生じさせ勝利する。分析してみると
藤井76手目 詰めろ逃れ
藤井78手目 詰めろ
藤井80手目 詰めろ(勝又七段指摘の鬼手)
村田81手目 詰めろ逃れの詰めろ
藤井82手目 詰めろ逃れの詰めろ
藤井84手目 詰み逃さず
勝又七段によると詰めろ逃れの詰めろの応酬のところで逆転。直後の難しい詰み手順を逃さず。藤井竜王・名人の終盤の超絶技巧が生んだ渾身の逆転劇だった。手順は本でご確認を。
敗れた村田六段だが、この対局で優勢を築いた新村田システムが脚光を浴び、「新村田システム」の本がマイナビ出版から上肢される運びとなった。また村田システムなど独自の工夫に対して升田幸三賞特別賞も受賞した。

「藤井聡太が勝ち続ける理由 王座戦―八冠の先へ」の中で勝又七段は「詰将棋的終盤思考」の言葉を用いて藤井王座の終盤力を語っている。その終盤力を誇る藤井王座に永瀬九段は、どう挑むのか。藤井王座対永瀬九段の「王座戦ダイレクトリマッチ」となる第72期王座戦第1局は、9月4日神奈川県秦野市「元湯陣屋」で。


連絡先 tsumeshouginogairojyu@yahoo.co.jp

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第36期竜王戦第4局(藤井竜王―伊藤七段)~37手詰を見た藤井竜王の寄せ

2024-02-25 15:52:43 | 特集(将棋タイトル戦)
令和5年の竜王戦七番勝負で藤井竜王が芸術的な詰み手順を披露したので、その局面を紹介する。


第36期竜王戦七番勝負第4局 藤井聡太竜王―伊藤匠七段
主催:読売新聞社・日本将棋連盟


第36期竜王戦七番勝負。竜王は3連覇を狙う藤井聡太竜王。第1局に勝利した数日後に八冠独占を達成している。対する挑戦者は伊藤匠七段。竜王と同じく21歳、タイトル戦は初挑戦だ。同世代対決は第3局まで藤井竜王が3連勝し、防衛に王手で第4局を迎えた。令和5年11月10、11日に行われた第4局の対局場は北海道小樽市の「料亭湯宿 銀鱗荘」。立会人は永世竜王資格者の渡辺明九段。第31期竜王の広瀬章人九段も新聞解説で控室に。藤井竜王の先手。角換わりの戦型から中終盤の折衝を経て竜王勝勢で第1図の112手までの局面を迎えた。

■第1図


第1図の2手前、伊藤七段は73にいた桂を65に跳ねて王手した。その手に68玉で以降、伊藤七段が形作りをする流れと見られていたが、藤井竜王は68玉と指さず、54にいた馬で65同馬と指した。後手玉は詰むのか。伊藤七段が65同歩と馬を取った第1図の局面は先手玉に88角からの詰めろが掛かっている。以降の手順を見ると、藤井竜王が第1図から37手で詰むのを読み切った上で寄せに入っていたことが分かる。

第1図以下の指し手は、72金、同玉、61角、73玉、83角成、同玉、84銀、同玉、76桂、73玉、85桂、72玉で第2図。

■第2図


第2図から詰み上がりまで、まだ25手かかるが、特にここからが詰将棋作品のような芸術的な手順で、高段者の方は盤に並べて長考して頂けたらと思う。盤上で旋律を奏でているかのようだ。第1図は一手違いの美しい局面だ。第2図からの13手は必見だ。投了は129手までの局面。37手詰。強い。将来発刊されるであろう何らかの単行本で詰み手順が掲載される筈だから、そこで確認して欲しい。

と思っていたが、この前、書店で見かけた。「フォトドキュメント 第36期竜王戦七番勝負」(読売新聞社)だ。帯には「新しい時代の扉が開いた!」の文言。



写真集であり同時に観戦記完全収録でコラムもある。37手詰の詰み上がりまでの手順が確認出来る。第四局翌日に藤井竜王が「盤上没我」と揮毫した色紙を掲げている写真もあった。


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