こちらの(精神的な)コンディション良かったせいなのか
それとも久しぶりのことで新鮮に感じられたのか
いずれにしてもしっかり楽しめた「京都市交響楽団第9回名古屋公演」
会場は名古屋市栄の芸術劇場コンサートホール
プログラムの前半はシューベルトの「未完成」
後半はマーラーの交響曲第一番「巨人」指揮は広上淳一
特にマーラーは初めて生で聴くことになる曲で最終楽章はショスタコーヴィッチの
5番同様に盛り上がることが想像されて、生ならではの思いっきり鳴らし切る心地よさも期待していた
音楽会に頻繁に出かける人は以前に体験した同じ曲の演奏を思い出し比較して批評する
ことができるだろうが、そうでない自分のような立場の人間は演奏の比較というよりは
音楽そのもの(作曲者の意図とか)が気になってしまう
そして聴いた感想というものも、聴いててフト頭に浮かんだ様々な思いの寄せ集めとなる
「未完成」が始まって直ぐに「この音色は好き、、」との思いが頭に浮かんだ
オーケストラ固有の音なのか指揮者の求める音なのかわからないが
個々の楽器が飛び出さず柔らかくブレンドされて品の良い音色で
不意にギュンター・ヴァントの指揮でブルックナーの8番を聴いた時のことを思い出した
あのときもフォルテが過度に刺激的にならず柔らかくブレンドされてとても心地よかった
生は聴き取りやすいせいか最近は同時に演奏されるいろんな楽器の音を注意して聴くようになっている
主なメロディを追うのではなく対旋律や地味な低音部分の下支え、金管の主張や木管の味付け
そうしたものをまとめて聴き取って、以前より緻密な聞き方ができるようになっている(と思う)
ただし問題は、感動する度合いが以前より増したか、、といえば、そこはなかなか難しい判断だ
「未完成」はこんなにいい曲だったのか、、聴き終えて感じたのはこのこと
少しばかり旋律に耽溺してダラダラしたところも感じるが、この演奏では思いの外シンフォニックで
ドラマチックなところも感じられて、シューベルトお得意の微妙な和音の変化ではなにか人に感じさせたり
考えさせたりする静寂な瞬間を生み出していた
余韻とコクのある演奏で演奏が終わった後、しばらく静寂が訪れ直ぐに拍手にならなかったのは
とても音楽的な瞬間だった
後半はマーラーの「巨人」
この曲はフルトヴェングラーとフィッシャー・ディースカウの「さすらう若人の歌」の演奏で
慣れ親しんだメロディーが聴ける
マーラー後期の作品ほど感情の起伏とか変化が激しくなく、まだ前の時代の音楽の良さも踏まえた
しかし、若さとか個性に溢れた作品だ
通して聴いてみると全体の統一を図るために第一楽章や第三楽章のフレーズが最終楽章に現れたりするが
ベートーヴェンの第九の影響は改めてすごいな、、と感じるところ
やはりと言えばやはり、エネルギーに満ちた最終楽章は盛り上がった
終わるやいなやブラボーの声が上がったのは、今度は必然のようでこれも納得いく音楽的な瞬間
だがたしかに盛り上がって自分自身も楽しんでいたにもかかわらず、クライマックスに向けての
心臓が踊るような感情がこみ上げるようなカタルシスはなかった
それは、何故なんだろうか、、といろいろ想像してみた(こういう考える機会を得るのが生の楽しみ)
マーラーの音楽のこの音楽のエネルギーは「若さ」
「さすらう若人の歌」に見られるような、ある時期の人間が誰しも感じるような焦燥感や憧れ
無意識な感情の爆発、、それらが音楽表現としている
そしてこれは時々感じることなのだが、マーラーの音楽は長編小説のよう
長編小説という言葉を思いついたので想像の羽を広げてみるとマーラーの音楽は村上春樹の小説のようだ
独自の世界観があり、少し新しげで
自分の好きなブルックナーはそれと比較してドストエフスキーの小説のよう
読んだ後に何を感じるか、、という点で、村上春樹とドストエフスキーはだいぶ違う
優劣を競うのではなく明らかに違う感動の仕方ということ
そこで盛り上がっていた(しっかり楽しんでもいた)にもかかわらず内的に湧き上がるものが
なかったのは何故かを、こじつけのように想像してみた
一番は自分はマーラーの音楽の信奉者ではないかもしれないということ
そしてこちらの解釈のほうが気に入ってるが、マーラーの音楽は「説明しすぎ」なためではないか
揺れ動く感情の爆発、現代人の不安な心象(私の時代が来るとマーラーは言った)
それをあまりにも雄弁に語るのでこちらは聴いて何かを想像せずとも聴いてるだけで楽しめてしまう
(これはハリウッド映画を楽しむ時と似ている)
前半に聴いた「未完成」はまだ聴いてる人の音楽への参加を要求するようななにかがあるが
言いたいことを完璧に書き込んだようなマーラーの音楽は、聴くという行為だけで完結しそう
もちろんマーラーの大好きな人は全く違うと言うだろう
でも帰りの電車の中で考えついたのはこのことだった
指揮者の広上さんアンコールの前に少しマイクでお話をしたが、とても気さくそうな人で
「次の回の宣伝を、、、、」と笑いをとって、会場は暖かい空気に包まれた
次は秋にモーツァルトとフォーレのレクイエム、合唱はスウェーデン放送合唱団だそうだ
このオーケストラの音色は気に入ったので、これは予定に入れておかねば、、、