「何だ、あれは」
北に向かって500mほど泳いだ時だった。
湖底の割れ目のようなところから白っぽい水煙が噴出していた。
横幅3m、高さ1mほどの大きさだ。
「これは何だというのだ」
いやな予感が男の胸をよぎった。
左手首にはめた耐圧製の時計で日時を確認する。
2009年12月27日10時8分49秒を示していた。
水深は90m。
年も終わりかかった今日、湖底で何かが起こりつつある。
そっと割れ目に近づく。
水煙の周辺には多数のビワオオウズムシがたむろし、水中ではアナンデールヨコエビが浮遊していた。
「どうも彼らが喜びそうなものが噴出しているようだな」
このような現象はこれまでに見たことがなかった。
ふに落ちない様子で男はゆっくりと周辺を移動した。
はっきりとした吹き出しは、ここ一か所で、他には見られないようだ。
今後、少し注意して監視したほうがよいのだろう。
そう心にインプットして男はゆっくりと浮上した。
とりあえずボスに報告しておこう。