DALAI_KUMA

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湖の鎮魂歌(33)

2013-07-29 11:14:36 | ButsuButsu


今年の夏は暑い日々が続いている。

私たちの地球はどうかなってしまったのか、と心配するくらいだ。

私の友人であるワーウィック・ビンセント教授(カナダ北極圏研究センター長)の話によると、北極圏最大のワードハント湖では、1953年の夏には4.3メートルの厚さがあった棚氷が、2011年以降、夏季には完全に消えてしまった、という。

冗談ではなく、いよいよ地球温暖化が深刻さを増してきている。

氷や雪があると太陽の入射エネルギーの多くは反射されるが、水では逆にほとんどが吸収されてしまう。

つまり雪氷が融け始めると、水はどんどん暖められることになる。

このことをアイス・アルベド・フィードバックと呼んでいる。

氷と水では、全く真逆のプロセスが進行する。

では、身近な琵琶湖では何が起こっているのだろうか。

水は空気の3333倍の熱容量を持っている。

つまり水は空気よりはるかに多くのエネルギーを蓄えることができるので、暖まりにくく冷えにくいのである。

日本国全体に存在する利用可能な淡水量の約3分の1を貯留している琵琶湖は、したがって大きな熱源であるとも言える。

実際、琵琶湖北湖に注がれる太陽の年間全天日射量は約680兆キロカロリーで、電力量に直すと約7900万キロワット時となる。

これは、滋賀県で年間に使用する電力量125万キロワット時(2002年実績)のほぼ60倍に値する。

また、日本における全発電力量の78%にもなる。驚くほど多くのエネルギーが、太陽から琵琶湖へ注がれていることになる。

琵琶湖に取り込まれる太陽エネルギーのほとんどは、湖水を温めるために使われる。

春から夏にかけて、湖は暖められ水中に熱が蓄積される。

一方、秋から冬にかけて、湖の熱は大気へと伝わり水温は低下する。

こうして暖められた大気は、琵琶湖周辺の気候を穏やかに保つことになる。

実測によると、大気から湖水に入る年間の熱エネルギーは305兆キロカロリーで、湖水から大気へ出る年間の熱エネルギーは303兆キロカロリーである。

したがって、琵琶湖に注がれる全天日射量の約45%が水温上昇として使われていることになる。

加熱と冷却の間に少し差があるのは、湖が少しずつ暖まってきていることを意味している。

実際、過去25年間で琵琶湖内に蓄積した熱量は55兆キロカロリーであり、その結果水温は約2.0℃上昇している。

これは滋賀県の平均気温上昇とほとんど同じであり、琵琶湖の水温変化が地球温暖化傾向と同調していることを裏付けている。

このように地球温暖化が琵琶湖に与える影響を調べるうちに、興味深い現象に突き当たった。

それは、地球全体の気温上昇(過去100年間で0.66℃上昇)より、日本の気温上昇(1.08℃上昇)が高いのだが、滋賀県の気温上昇はさらに高いという点である(1.17℃上昇)。

なぜ滋賀県の気温上昇が高いのだろうか。

このことを解明するために、滋賀県内8ヶ所のアメダス気温データ(1979年~2006年)を解析し、琵琶湖周辺の気温上昇速度を求め、気温上昇マップを作成した(図)。

これによると、虎姫、東近江(蒲生)、今津で気温上昇が大きいことがわかる。

詳細に解析すると、今津や虎姫、東近江では夜間および冬季の気温低下が小さいことが分かった。

つまり、その地域には気温が下がりにくい仕組みが存在するということである。

統計的な解析によると、琵琶湖北湖からの距離と風向が影響していると思われる。

琵琶湖が暖められることによって周辺の気温が下がりにくい傾向があり、このことが北風や北西風の風下にあたる虎姫や東近江の気候を緩和しているようである。

今後さらに温暖化が進行した場合、これらの地域は暑くなりすぎることも考えられるので、何らかの対応策を考慮すべきなのかもしれない。