住み心地

2008-03-05 11:33:06 | Weblog
 建築家に住宅の設計を依頼する方は増えるといっても、それはやはり住意識にとくに敏感な、ある意味で選ばれた少数派に過ぎないと思う。しかしそういう方がプレファブや建売に満足できないのは、いわば商品化住宅の宿命である。なぜなら商品化住宅は商品の宿命として一般多数のニーズに応じることを目的としているからだ。それらは多種多様に見えても、その差は商品を上中並、あるいは和定食と洋定食というふうにわかりやすい違いで差別化したものに過ぎない。いやこの喩えは乱暴すぎるかもしれず、商品化住宅の多様化はレストランのメニューよりずっと細かいが、乗用車の多品種化を見ればわかるように、エンジンやシャシーの種類がそれだけあるわけではない。
 個性的なライフ・スタイルを選ぶ方が望む住み心地というものは、こうした「わかりやすい差」よりも、むしろ「わかりにくい差」で決まるものである。つまり表面的な間取りや出窓の有無や屋根の瓦の色などではなく、ちょっとした日差しの加減や質感などからくる家全体の雰囲気が住み心地を左右することはよくある。これらは住み手が必ずしも言葉で言い表せない場合も多く、それを打合せの積み重ねのなかから読み取って形にし、商品化住宅では応じ切れない「わかりにくい差」を実現していくのは建築家の仕事なのだ。

 住まいのつくり方 中公新書 渡辺武信著より

 なるほど そうだ 納得

 


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