エルメスのスカーフ

2012-04-22 10:14:51 | Weblog
 「じゃ、また明日」と、別れるころに雨が降ってきた。彼女は私と握手すると、エルメスのスカーフで無造作に頭をつつんで駈け出した。

 「うわ、もったいない、それ絹でしょう?」と叫んだ私に、彼女はキョトンとした眼で振りむいた。

 「大丈夫よ、家に帰ってアイロンすればピーッとなって新品に戻っちゃうから、高くてもトクよ・・・・」ああ、この確信に満ちた答えかた・・・。

 その語気には、「エルメスともあろうものが、雨くらいでダメになられてたまるものじゃない」という、あるきびしさがあふれていた。「なるほどね・・・」私はフランス女性の、そたたかな根性をみせられた思いで。ちょっと呆然として、タクシーを停めることも忘れていた。

  高橋秀子 暮しの流儀より 新潮社 1600円(税別)


 よく「使わないと価値がないわよ」といわれるが、貧乏性の私なんかはちょっと高いものを買っても「もったいなっから・・・」と箪笥の中にしまったまま、いつしかその存在すらも忘れてしまいます。

 ひとつには、高い(良い)ものというのは、一つだけでは何となく身に付けるのを恥ずかしく感じてしまうからです。モノの値段には、それなりの価値があるというのは、私の経験からでも分かってはいるのですが、普段に使うにはやはり身の丈に合ったものが一番良いのかも・・・