あの建物の完成間近の頃に、私は町へやって来た。開業はその後すぐで、その後町を離れてからも、私はあの建物に用事があってたびたび訪れた。建物は變ってゐないが、變ったのはいつでも私の肩書きの方だった。あの建物が完成した日の私が、令和五年現在の私を見たら、必ずや愕然とするはずだ。ただ、肩書きはいつも異なれど、目指すものは何一つ變ってゐないはずだ。それだけは、あの建物の完成を現在(いま)はもふない部屋の窓か . . . 本文を読む
坂道を、何か黒いものが動いてゐるのでよく見たら、尺取り虫らしき近隣(?)住民なり。健氣にも映るその動きに、「あなた、踏み潰されないやうに、氣をつけてね」と、つひ聲をかける。實際、この坂道はヒトや、ヒトが動かす大きな物がちょくちょく通り過ぎて行く。ヒトには平穏に映るこの住宅地も、この小さな生き物の目線で見たら、あちこちにキケンの潜む地帯ではないか。いや、ヒトとても同じはずなのだが──同 . . . 本文を読む