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ピケティの資本論 7: 所得低下と経済悪化 4

2015年04月23日 | 連載完 ピケティの資本論

* 1

これまで、所得低下と雇用形態の変化による日本経済の悪化を見ました。
今回は、これらを正当化するデマを検討します。


たあいないデマ

「能力に合わせて報酬を下げた」とするなら、非正規雇用の増加は、人類の能力が日増しに劣化しているからでしょうか、そうかもしれないが。
もっとも、「今まで、お目こぼしで能力以上に多めに支給していただけさ!」
これでは堂々巡りです。
もっとも小学校の成績表のように相対評価―正規分布のようなランク毎の人数割、であれば文句は少ないでしょうが(笑い)。


* 2

深刻なデマ
「企業が国際競争力を持つにはコストダウンが不可欠で、人件費カットは当然だ」
ここには暴論と勘違いが含まれています。
ここで三つの事に注意しなければなりません。

A: コストダウンだけの競争力は円高になればすぐに消えてしまう。

B: 輸出入のバランスを歪めている日本は円高を招きます。
国内産業保護の為に輸入規制を外さない日本は輸出超過になり円高で苦しむことになります。
さらに日本はインフレを恐れた日銀の通貨発行抑制策と米国を優先する政府のドル安誘導も災いしました(プラザ合意)。

C: コストダウン以外にも競争力を高める方法はあります。
北欧など国民所得の高い国でも競争力のある商品を持っています。
それは価格以外で勝負出来る特色ある製品やサービスを提供することです。

そうは言っても現実に、先進国は大なり小なり、この問題を抱え苦労しています。
多くは為替操作で自国の通貨安をもくろみます、日本も遅ればせながら円安にしようとしています。
これは大企業の輸出に有利ですが、輸入産業は現状で有利なので、急激に行うと弊害が出ます、また他に色々問題が発生します。
ピケティはこのやり方には懐疑的です。

この為替と競争力の悪循環を理解するにはある貿易理論の理解が必要ですが、簡単な実例に代えて説明します。



< 3. 淡路島と本土(上側) >

例、淡路島と本土に橋が架かると経済・産業はどうなったか?

淡路島の人件費は本土の約半分で、両者間の商品流通と通勤はほとんど無かったと仮定します(実際とは異なる)。

明石大橋が架かるとどうなるでしょうか。
淡路島に本土の工場が建設され、また淡路島の人が本土に通勤するようになり、淡路島の人件費は上昇していきます。
本土には、淡路島からの安い製品と野菜が多く出回ります。
しかし本土で、安値だけが強みの企業と労働者は競争にさらされ、廃業や転職が増えます(淡路島も)。

結果はどうなるでしょうか。
賃金上昇と商品価格低下が起こり、双方がメリットを受けました。
社会は犠牲(廃業、転職)を受け入れ、次の段階へと進みました。
この過程で、あることが起きていました。
それは淡路島と本土で、商品やサービスの棲み分けが出来たことです。
淡路島からは農産品(淡路の玉葱)が出荷され、本土からは大型ショッピングセンターと大量の商品がやって来ました。
これがリカードの比較優位(貿易の基本的な経済理論)です。

ここで重要なことは、大して反対や規制、例えば淡路島から本土への玉葱の流通禁止などがなかったことです。
あたりまえのことですが、同じ日本だからです。



< 4. 比較優位の説明図 >
解説: 上図のようにA国とB国には生産性の違いがあるとします。
貿易が始まると、それぞれの国が生産性の高い方にシフトします。
そして両国共に生産量と消費量が増え、総計2700から2900になりました。
この時、産業構造の転換(倒産、失業)を恐れ保護貿易に走ったり、為替を故意に操作したりすると効果は薄れます。
理想は、着実にゆっくりと対応することです。

結論
グローバル化に合わせて国内の産業構造(輸出入の均衡)を転換しない限り悪循環は解消しない。
さらに一歩進んで、経済、金融、税制などをグローバル化しなければならないのです。
この問題は、実は1970年代の欧米諸国が切実に感じていたことで、後に触れます。

次回、所得低下と格差の定着について見ます。



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