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ピケティの資本論 24: 私達の心に潜む厄介な心理 2 

2015年06月09日 | 連載完 ピケティの資本論

< グラフ1. 日本、民間給与所得者の給与階級別人数の推移、国税庁資料 >

前回、未来を見ない中間層の心理を見ました。
今回は、中間層にとって格差はどのぐらい進行しているかを見ます。



はじめに
国税庁のデーターに基づくグラフ1を見てください。
グラフにおいて、所得400万円以下の人々、特に最下層(200万円以下、赤線)では大きく人数が増えている。
逆に、600万円以上の人々の人数は減っている。
しかし、最上位層(1500万円超)の人数だけが増えている。
一方、中間層(400万円以下、500万円以下)はほぼ横這いです。
ちなみに日本の平均年収は、1997年(平成9年)に最高467万円に達し、その後低下し続け、2008年(平成20年)に430万円になった。

皆さんは、このグラフから格差の状況をどのように把握するだろうか?

「低所得層は拡大しているが富裕層も減り、中間層も変わらないので日本の格差は進行していない。」
または
「低所得層は拡大しているが、中間層の私は安泰なようだ。」
多くの方は、おそらくこのように解釈するでしょう。

先ず、米国の格差の状況を見てから、正解を示します。


米国で起きていること



 
< グラフ2.上位10%の所得階層の総所得に占める割合、「21世紀の資本」より >
解説: 1950年代に比べ、富裕層(トップ10%)のシェアは英米2ヵ国で急増し、独仏2ヵ国で横這い、スウェーデン(北欧)は一度低下し、現在戻りつつある。

これは米国の中間層と低所得層にどのような影響を与えているのだろうか?


< グラフ3. 米国、各20%の所得階層毎の所得推移、日本の内閣府資料 >
解説: (1)は名目所得のグラフで、(2)はインフレを除いた実質所得のグラフです。
これから(2)のグラフを見ていきます。
第5分位(青線)が最上位20%の所得階層で、第1分位(青破線)が最下層20%です。
最上位層だけがリーマンショック後、所得を急速に回復中です。
他は、すべて所得が低下し続け、第4、3、2位の所得階層の所得低下は4年間で6~10%です。
階層が下がるに連れ、低下が著しいのが見て取れます。

グラフ2より、同じ時期の最上位10%のシェアは1%未満の増加に過ぎず、さらに過去40年間のシェアは15%(33―48%)に上昇しています。
つまり、最上位層(第5分位)以外の所得は、過去40年間でグラフ3の(2)を遙かに凌ぐ低下があったと推測出来ます。

まとめ
重要なポイントは、格差が進行している時、最上位層だけが急激に富を増やし、それ以外はすべて富みを減らしていることです。
この構造は、現在の先進国にほぼ共通の金融・経済システムによるものです。

次回に続きます。


補足1. 引用したグラフで気づいたことが2点あります。
一つは、グラフ3の(2)の実質所得が格差の進行状況をよく示していることです。
いま一つは、日本のグラフ1に比べ米国のグラフ3の方がはるかに格差がわかりやすいことです。

補足2. 日本と米国の心理の違いについて
心理学調査によれば、米国人は日本人に比べ楽観的であるとされています。
楽観的であることは、失敗を恐れず未来に向けて挑戦的です。
一方、悲観的であることは、慎重で保守的です。
この両方の心理は、人が自然に適応する為に必要だった。
厳しいが広大な環境では、果敢に挑む前者が有利でした。
豊かではあるが限られた環境では、現状維持の後者が有利でした。

しかし、社会自体が徐々に疲弊し始めている時の対応はどちらが有利なのでしょうか?
どちらにとっても、困難な対応を迫られることでしょう。



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