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ピケティの資本論 8: 格差を強固にするもの 1

2015年04月27日 | 連載完 ピケティの資本論

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今まで、現実に起きている弊害(経済悪化、生産性低下)を見てきました。
これからは、経済格差が強化され、より深刻になる状況を見ていきます。

何が格差を強固にするのか

所得の上下自体が悪いわけでは無い、しかしそれが経済的・社会的な力で強化され、復活の道が閉ざされることが問題です。
多くは低所得者(弱者)の境遇が強化され、やがて格差が定着してしまいます。
そのメカニズムは多岐にわたるのですが、二つの例を見ます。
それは結婚と金融危機です。



< グラフ2. 正規・非正規別の結婚している比率(男性雇用者、2002年) >

結婚出来ず家庭が持てない
非正規雇用者は所得が低い為に結婚が困難になります。
これでは家族の為に働くという目標も無くなり、労働意欲は低下します。
支え合う人がいなければ、苦境を乗り切ることや安らぎを得ることは出来ないでしょう。
例え結婚しても、子供に充分な育児環境や教育機会を望めない。
こうして、この人と家族、その子孫は最下層から抜け出すことが困難になり、ますます格差が定着していきます。

このことは日本の低経済成長の最大要因である人口減少に拍車をかけている。

人口減をもたらしたもの



< グラフ3. 日本の人口の推移 >
日本の総人口は2007年まで伸び続け、その後減少に転じている。
一方生産年齢人口(15~64歳)は12年前の1995年に頂点に達し、減少に転じていた。
つまり出生数減は1995年の15年前(生産年齢15歳以上だから)から徐々に始まっていた。
人口減が遅れて生じた理由は、長寿命化により高齢者の数が増えたからです。




< グラフ4.日本の特殊出生率の推移 >
戦後、2回のベビーブームが人口増に貢献していた。
しかし起こるはずの2000年頃に3回目のベビーブームが起こらなかった。
人口減の要因は何だろうか?




< グラフ5. 日本の生涯未婚率 >
1980年代から未婚率が増加しており出生数が減ることは当然です。
これが出生数減少と第3回目のベビーブームが起きなかった原因と思われます。
未婚率の急激な増加は1980年代からの非正規雇用(若年層)の増加に呼応しています。
(連載「4:所得低下と経済悪化1」のグラフ3「正規雇用者と非正規雇用者の推移」に明確)
この結果の生産年齢人口減によって、労働寄与度(生産性)が1990年代からマイナスに転じている。
(連載「4:所得低下と経済悪化1」のグラフ2「日本の成長要因の変化」に明確)

つまり、非正規雇用(低所得層)の拡大が生産年齢人口減を招き、ここでも経済成長を押し下げている。



< 6. 金融危機による失業率 >
解説: 主な金融危機を起こした国の最大失業率とその期間がわかります。

金融危機が招くもの
低所得者層(非正規雇用)は、日頃から将来への不安や医療費の節約で心身共に苦しい状況に置かれています。
その上、不況や金融危機による大量失業、さらに緊縮財政による福祉予算の削減が彼らに追い討ちをかけます。
最近のギリシャなど南欧などがその例ですが、金融危機後、緊縮財政を受け入れる国が多い(IMFの指導によるが正解では無い)。
そこでは失業、医療、健康予防、年金などの福祉予算は大幅にカットされるのが常です。
これによる致命的な被害を受けるのは弱者(低所得層)です。
この削減策により本来防げたはずの自殺、重病、精神疾患、重度障害などが増え、弱者はさらに再起不能に陥り、その数は増大することになります。
こうして、底辺に暮らす人々は更に抜け出せなくなり、また拡大していきます。
また社会全体でみても労働力の低下、必要な医療・介護費用はむしろ増大する。

この問題は、あまり重視されていませんが、現在、世界で金融危機の度に深刻さを増しています。
緊縮政策による低所得者の悲劇について、デヴィッド・スタックラー&サンジェイ・バスは「経済政策で人は死ぬか?」で詳しく分析しています。

結論
こうして、低所得層(弱者)はより底辺に追い詰められ、抜け出すことが出来ず、さらに長期にわたり経済悪化が続くことになるのです。



次回に続きます。



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