旅ゆけば

拙い旅の記録とひとりごと

2020-12-05 00:00:00 | 日記
「黒い雨」は、良書であった。被爆により親しい人の死が避けられないことが明確になっても尚、前向きに希望を持って生きようとする主人公(この方も被爆している)、避けられない運命に翻弄された当時の市井の人々の哀しい姿、悲惨な中でも何とか生きていこうとする逞しさが描かれていて心を掴まれた。
ところで私がこの小説の中で特に強く心に残った部分は、当時ほぼ爆心地で被爆し、瀕死の重症を負った徴兵されて広島にいた医師の話だ。数々の幸運と奥さんの必死の看病で再度医者の仕事を再開できるまでに回復したという話である。今、当の本が手元にないので詳細にかけないのだが、記憶で話すと、その方がどの位爆心地に近い所にいたかというと、係留気球を付けた爆弾が飛行機から落とされるのが見えたと言う事である。  
これには驚愕してしまった。それって普通だったら即死ゾーンじゃないだろうか。そんな恐ろし過ぎる場面を目撃した氏は、奇跡的に生きて自宅に辿り着くがもう絶対助からないと思われても不思議ではない。氏は奥さんの必死の看病を受けるのだが、敗戦の何もない時である。有効な投薬や治療などある訳もなくといった所だが、その奥さんが「桃」を大量に食べさせるのだ。確か岡山の人だかなんだか。
多分今の白桃みたいな柔らかい美味しい桃ではなくて、昔からあるゴリゴリした美味しくないやつかなぁと思った。(文中にスリコキでゴリゴリする・・・という一文がある為。)
様々な幸運があった奇跡の人なのだろうけど、その大量の桃のくだりはかなり印象的で確かに桃って昔話などで不老不死の妙薬みたいに言われることあるよな、あの実の中にそんなにも強い生命の源が!!といたく感心した。
その後、母との伊豆旅行で稲取のつるし雛を見に行ったときは迷わず桃の根付を購入した。
こんなふうに読書すると世界が広がったり新しいことを知ったりととても楽しい。

因みに私は一時松本清張の小説も読んでいたが、中でも泣くほど感動したのが、「陸行水行」だ。邪馬台国の在り処を本気で探し当てようとし、当時の行き方を再現してたら死んでしまったという話だ。ごく簡単に言うとそういう事なのだが、これがまた感動的に描かれている。語彙力が無くてかなしーのだが、何と言うか本気で真実を掴もうとした時の人間の純粋な狂気と言うか、強さ、懸命さ、身勝手さ、愚かしさ、哀しさ、滑稽さみたいなものに触れて、何やら感動したのだ。
清張の小説は地名もたくさん出てくるので地図でなぞりながら読むと地名も知ることができる。
あぁ、また読書したいな。