あみたろう徒然小箱

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忘れられない人々〔お年寄り篇7〕 創世神話と鍼治療

2018-06-05 | 少数民族あれこれ
柱にしがみついて鍼治療に耐えるお婆さん

ハニ族は稲作がさかんな民族で、もの静かで穏やかな性格の人が多く、どちらかというと日本人には親近感が湧く人たちのような気がします。ごく個人的な印象かもしれませんが、私はハニ族と接しているとなんとなく安心感を感じることが多かったように思います。
一方、首刈り族で有名なワ族の場合は、少数民族の村ではふだん屈託ない子供たちでさえ、じっとこちらを見据えて何を考えているか不安になることがありましたし、もっとも勇壮で戦いに強いといわれるミャオ族の子供たちも気が許せませんでした。
その点、中国のハニ族((=タイでのアカ族)は大人も子供も友好的でホッとする穏やかさをもつ人たちだったと思います。

そのハニ族が住む哈尼田(ハニティエン)村の歌い手(語り部)に、自宅の庭先で創世神話と父子連名を歌ってもらいました。
父子連名とは父親の名前の一部をとってその子供(男子)に命名する方法で、父子の関係を明らかに示す命名法です。これは男系社会である漢民族の影響で、母系社会の少数民族には見られないということです。いまの自分の名前から始まって、父親、祖父、曾祖父、と次々と先祖の名を連ねていきます。
創世神話や父子連名は、結婚式、葬式、祭など行事の時に歌う(唱える)ものですから、歌声を聞きつけ、こんなふつうの日にどうしたのだろうと思ったのでしょう、周囲には次々村人が集まって来て、静かに聞き入っています。
ハニ族以外の少数民族の村でも、老人、大人はもちろん子供たちまでもが創世神話や父子連名、歌垣などに熱心に耳を傾ける光景をよく見ます。こうして民族独特の伝統や習俗は受け継がれ、語り継がれてきたのです。
しかし村に電気が引かれ、テレビが入り、携帯電話が普及し始めて、生活の多様化が進むと、こうした習俗は当面の暮らしの必需品ではなくなり、あっというまに消えていきます。歌を掛け合って恋愛の相手を見つけなくても、町に行けば若者たちがいて、携帯電話の番号を交換すれば、簡単に付き合いを始めることができます。

庭先に集まっていた村人たちの中に、歌が終わるのをじっと待っていたお婆さんがいました。父子連名が終わったあと歌い手に何か言うと、彼は胸ポケットにあった小さな包みを開け一本の針を取り出し老婆のくるぶしに突き刺しました。そばにあった柱にしがみつき、恐怖と痛みを乗り越えようとするお婆さん。思わずこちらまでハラハラして力が入ってしまいました。
針を抜いた後、お婆さんは葉の付いた小枝で傷口を叩き、出血を促しています。葉の付いた小枝は何の木でもよいのでしょうか。その点を聞き落としてしまいました。
農作業の際に鍬を足に当ててしまい、腫れてしまったくるぶしの悪い血を出して、痛みを取る
のだと言います。

創世神話や父子連名の歌い手は、村の民間治療師でもあったのです。 
                             (1996年2月 ハニ族)

 

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