

明45治生まれだった亡き母は、私よりずっとお洒落でした。
当時としては珍しいフランス製オーガニック化粧品を使い、
家の中でもコルセット着用「体型を崩さないよう努力しなきゃ」が口癖。
もちろんファッションも常に関心の的、家の中でも小ぎれいなお洒落を心がけていました。
その母が老眼鏡をかけるようになり、もっとも嫌がっていたのが、
眼鏡の跡が鼻に付いてしまうことでした。
鼻柱の根元には、メガネの鼻パットの跡がくっきり。
「あぁ、この跡が嫌なのよ」と、ため息まじりに鏡を見ていたのを思い出します。
母が嘆いていたのは20年以上前のことで、
当時は重いガラスレンズ、鼻パットもプラスティック製でしたから、
跡の付き方はいまよりずっと酷かったのです。
いまはプラスティックレンズが主流となり、鼻受けもシリコン製で、ずっと軽くなりました。
母譲りの鼻の形をした私、老眼鏡をかけるようになると、
当時の母の嘆きがよーく判るようになりました。
10年ほど前、イワキでアイメトリクスを作ったことがあります。
耳に掛けるアームが二重のシリコン製なのでぴたりと耳を捉えて安定感があり、しかも軽い。
特にスポーツ選手に好まれ、古田敦也さん愛用でも知られています。
イワキに眼鏡跡が残らないメガネを作りたいと電話すると、
アイメトリクスより更にお勧めのメガネが2種類あります、という返事でした。
1つはデンマーク製のメガネフレームリンドバーグ。
水谷豊さんが相棒の中でかけているのがこのフレームです。
ネジを使用しない画期的な構造で超軽量。
究極のシンプルデザインが多く、“simple is best”をモットーとする私は、コレだと確信しました。
もう一つの候補は、福井県鯖江市シャルマン株式会社製。
名前はラインアートで、シンプルとはほど遠い。
私好みじゃないのです。
アームにあれこれ飾りを入れたフレームは大嫌いですから、サイトで見ただけで失格。
さて隣町のイワキの店頭で手に取ってみると、両者ともほぼ同量の軽さ。
しかし好みのリンドバーグは、メガネの着脱がスムーズにいきません。
両手でそっと外せばいいのですが、
行動がかなり雑な私のこと、かけたり外したりにかなり神経を使います。
老眼鏡はひんぱんに着脱しますから、その気遣いに戸惑いました。
リンドバーグに後ろ髪を引かれつつ、ラインアートの棚へ。
「同じ超軽量で、ラインアートは大変に使い勝手が良いと評判ですよ」
そのデザインを冷たく一瞥しつつ、とりあえずかけてみました。
おぉ、なんというかけ心地の良さ、しかも着脱は非常にスムーズ。
ラインアートは、新開発のチタン「エクセレントチタン」を使用していて、
このチタンはその特性や独自性が評価され、
「第4回 ものづくり日本大賞 特別賞」を受賞したんだそうです。
シャルマン株式会社と東北大学金属材料研究所とが、
8 年にわたる共同研究を進めて開発したのだとか。
「この3本ラインがデコラティブで嫌だわ」と、不満な私。
しかし、このカーブしている3本の新チタンアームが、
頭部へのホールド感を比類ないものにしているのだとわかるのです。
「プレス加工によって凹凸がつけられた3本のエクセレンスチタンが、
段階的に頭の側面にフィットしてレンズ部分の重さを分散。
見た目以上に軽い掛け心地になっている」のだとか。
この3本のラインとそのカーブ、機能的な意味があったんですね。
頭をいくら振っても位置がずれることは決してありませんが、
フワンと頭部を包み込むタイプのこのシリーズ、激しい運動には向かないかもしれません。
というわけで、デザイン的にしぶしぶ妥協して、
最もシンプルなデザインを選んだのが冒頭のメガネ。
1年間かけてみての感想は、軽さ、かけ心地の快適さ、着脱の楽さとも抜群。
もちろん鼻柱に跡は残りません。
頭部を包み込むホールド感はちょっと信じがたい感触で、眼鏡をかけている感覚がありません。
外したとき、両アームがバネの力でふわふわ~んと跳ね返るのも驚きでした。
その幅は、先のエクセレンスチタンのサイトにあるトップ画像ぐらい。
両レンズの間のチタン部を片手でつまみ軽く前に引っ張ると、スルッと外れます。
私のような乱暴者が扱っても、メガネ自体へのダメージはありません。
だから、このデザインだったのですねぇ。ウムウム。
というわけで先週、一年ぶりにもう一つ作りに行ってきました。
デコラティブと敬遠していたのですが、画期的な新素材と構造による機能性には脱帽。
“simple is best”とはほど遠いけれど、喜んで妥協です。
無駄に見えるデザインも、機能性に裏付けされているのならいいじゃないですか。
デザインにこだわる私をこんなふうに妥協させるなんて・・・・、思いがけない新メガネでした。
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