猫の靴屋さんのドアをトントンと叩く者がいました。開けてみるとカブトムシとクワガタがいました。
「何かご用でしょうか」というネコに対して、カブトムシは、「マントを作ってほしい」と言いました。クワガタも、「俺も」と短く言いました。
「マントはどんな生地がよろしゅうございますか?」
「そうだな、俺たち、羽を広げて飛ぶことがあるから、邪魔にならないような生地ってあるの?」とカブトムシが訊ねました。クワガタも、遅れて「あるの?」と訊ねました。
「そうでございますね、少し考えさせていただけませんか」
「いいけど、防水加工できる?」
「たいていの生地は出来ますよ。他にご注文は?」と訊ねると、カブトムシは靴屋さんの手を引いて、奥の部屋に連れ込んでこう言いました。
「クワガタより立派なマントを作ってくれ」
二人が奥から出てくると、今度はクワガタが靴屋さんの手を引いて、奥の部屋へ連れ込みました。
「カブトより素敵なマントを作ってくれ」
事情は呑み込めました。靴屋さんは、二人の身体のサイズを細かく測り、「一週間で仕上げます」と約束しました。
さて、生地選びと、どんなマントに仕上げるかです。猫の靴屋さんは、三匹の鼠と相談しました。
「お前たち、何か考えはあるかい?」
「切れ込みを入れないといけないでしょうね」と長男鼠が言いました。
「なるほど」
「飛んでいる時は邪魔にならないけれど、地面を歩くときは、切れ込みが目立たない方がいいでしょうね」と次男鼠が言いました。
「なるほど」
「生地は絹がいいかもしれませんね」三男鼠が言いました。
「なるほど、それでいこうか」と猫の靴屋さんは言って、スケッチを描き始めました。三匹の鼠は、そのスケッチを見ながら、自分の意見を言い、猫は、描きなおしたり、描き足したりを繰り返しました。
スケッチが決まったので、絹の裁断に入りました。羽を広げた時に邪魔にならないように、切れ込みを入れるのですが、布がほどけでバラバラにならないように、縁の部分を丁寧に縫いました。
マントの上の部分には金モールをつけ、ボタンで止められるようにしました。
一週間たって、カブトムシとクワガタがやってきました。
「できてるかい」とカブトムシが言いました。
「できてるかい」とクワガタも言いました。
「はい、できておりますよ、では、カブトムシさまから」と猫は、カブトムシを奥の部屋に案内しました。
「クワガタより素敵なやつだろうね」とカブトムシは言いました。
「もちろんでございます」と猫は答えて、カブトムシの肩にマントを掛けました。
「一番苦労しましたのは色でございました。金色の絹を使いました。これは、映えますよ。ぐっとランクが上がります。」
「それから」と一呼吸おいて続けました。
「裏地に銀色の絹を使ってあります。そこに、金の糸で刺繍をさせていただきました。KABUTOと。これであなたは森の王者ですよ」
「うーん、これは気に入った」とカブトムシは言いました。
「羽織られて後に、このボタンを留めてください。金モールが映えますよ」
「良いものを作ってくれてありがとう。お代はどうしよう?」
「気に入って頂けたら、今度、近くにいらっしゃった時で結構です。お気に召した気持ちの分だけ戴ければ結構です。では、こちらからお帰り下さい」
カブトムシは裏口から出て行きました。
つぎは、クワガタです。
「カブトムシより素敵なんだろうね」とクワガタは言いました。
「もちろんでございます」と猫は言って、クワガタの肩にマントを掛けました。
「銀地にねずみ色を混ぜた染料で染めた表地です。これは、渋好みです。」
「そして」と一呼吸おいて言いました。
「裏地は思い切って、金色に仕上げました。そこに、黒糸でKUWAと刺繍をさせていただきました。」
「うーん、この渋さが僕にピッタリかもしれないなぁ。」
「それに、裏地が金というのも、いいと思います。誰にも見せないところに凝るというのが通ですから」
「そうだね。ピッカピカよりいいね」
代金の事については、カブトムシと同じように言いました。
二日後に、カブトムシとクワガタは揃ってやってきました。
「このキノコはね、森の奥に生えていて、とても美味しくて栄養たっぷりなんだよ。今が旬だから、また明日も持ってくるよ」とカブトムシは言いました。
「持ってくるよ」とクワガタも言いました。
「ありがとうございました。本当に素敵なものを。苦労されたでしょうに」
「いやいや、なんてことはないよ、僕たち二人にぴったりのマントを作ってくれたんだから。」
「二人とも気に入っているんだよ」と珍しくクワガタが長くしゃべりました。
「ホントは俺たち張り合っていたんだけど、友達のマントがかっこいいのが素直にうれしくなっちゃって」とカブトムシが言いました。
「時々、かえっこしている」とクワガタが言いました。
キノコを置いて、二人はならんで帰って行きました。
「うちは靴屋なのに、なんでマントなんか注文するんでしょうね」と長男鼠が訊ねました。
「喜んでもらえるんだったら、帽子でも、手袋でも作らないとね」と猫の靴屋さんは言いました。
今度は、どんなお客さんが来るのでしょうか。
「何かご用でしょうか」というネコに対して、カブトムシは、「マントを作ってほしい」と言いました。クワガタも、「俺も」と短く言いました。
「マントはどんな生地がよろしゅうございますか?」
「そうだな、俺たち、羽を広げて飛ぶことがあるから、邪魔にならないような生地ってあるの?」とカブトムシが訊ねました。クワガタも、遅れて「あるの?」と訊ねました。
「そうでございますね、少し考えさせていただけませんか」
「いいけど、防水加工できる?」
「たいていの生地は出来ますよ。他にご注文は?」と訊ねると、カブトムシは靴屋さんの手を引いて、奥の部屋に連れ込んでこう言いました。
「クワガタより立派なマントを作ってくれ」
二人が奥から出てくると、今度はクワガタが靴屋さんの手を引いて、奥の部屋へ連れ込みました。
「カブトより素敵なマントを作ってくれ」
事情は呑み込めました。靴屋さんは、二人の身体のサイズを細かく測り、「一週間で仕上げます」と約束しました。
さて、生地選びと、どんなマントに仕上げるかです。猫の靴屋さんは、三匹の鼠と相談しました。
「お前たち、何か考えはあるかい?」
「切れ込みを入れないといけないでしょうね」と長男鼠が言いました。
「なるほど」
「飛んでいる時は邪魔にならないけれど、地面を歩くときは、切れ込みが目立たない方がいいでしょうね」と次男鼠が言いました。
「なるほど」
「生地は絹がいいかもしれませんね」三男鼠が言いました。
「なるほど、それでいこうか」と猫の靴屋さんは言って、スケッチを描き始めました。三匹の鼠は、そのスケッチを見ながら、自分の意見を言い、猫は、描きなおしたり、描き足したりを繰り返しました。
スケッチが決まったので、絹の裁断に入りました。羽を広げた時に邪魔にならないように、切れ込みを入れるのですが、布がほどけでバラバラにならないように、縁の部分を丁寧に縫いました。
マントの上の部分には金モールをつけ、ボタンで止められるようにしました。
一週間たって、カブトムシとクワガタがやってきました。
「できてるかい」とカブトムシが言いました。
「できてるかい」とクワガタも言いました。
「はい、できておりますよ、では、カブトムシさまから」と猫は、カブトムシを奥の部屋に案内しました。
「クワガタより素敵なやつだろうね」とカブトムシは言いました。
「もちろんでございます」と猫は答えて、カブトムシの肩にマントを掛けました。
「一番苦労しましたのは色でございました。金色の絹を使いました。これは、映えますよ。ぐっとランクが上がります。」
「それから」と一呼吸おいて続けました。
「裏地に銀色の絹を使ってあります。そこに、金の糸で刺繍をさせていただきました。KABUTOと。これであなたは森の王者ですよ」
「うーん、これは気に入った」とカブトムシは言いました。
「羽織られて後に、このボタンを留めてください。金モールが映えますよ」
「良いものを作ってくれてありがとう。お代はどうしよう?」
「気に入って頂けたら、今度、近くにいらっしゃった時で結構です。お気に召した気持ちの分だけ戴ければ結構です。では、こちらからお帰り下さい」
カブトムシは裏口から出て行きました。
つぎは、クワガタです。
「カブトムシより素敵なんだろうね」とクワガタは言いました。
「もちろんでございます」と猫は言って、クワガタの肩にマントを掛けました。
「銀地にねずみ色を混ぜた染料で染めた表地です。これは、渋好みです。」
「そして」と一呼吸おいて言いました。
「裏地は思い切って、金色に仕上げました。そこに、黒糸でKUWAと刺繍をさせていただきました。」
「うーん、この渋さが僕にピッタリかもしれないなぁ。」
「それに、裏地が金というのも、いいと思います。誰にも見せないところに凝るというのが通ですから」
「そうだね。ピッカピカよりいいね」
代金の事については、カブトムシと同じように言いました。
二日後に、カブトムシとクワガタは揃ってやってきました。
「このキノコはね、森の奥に生えていて、とても美味しくて栄養たっぷりなんだよ。今が旬だから、また明日も持ってくるよ」とカブトムシは言いました。
「持ってくるよ」とクワガタも言いました。
「ありがとうございました。本当に素敵なものを。苦労されたでしょうに」
「いやいや、なんてことはないよ、僕たち二人にぴったりのマントを作ってくれたんだから。」
「二人とも気に入っているんだよ」と珍しくクワガタが長くしゃべりました。
「ホントは俺たち張り合っていたんだけど、友達のマントがかっこいいのが素直にうれしくなっちゃって」とカブトムシが言いました。
「時々、かえっこしている」とクワガタが言いました。
キノコを置いて、二人はならんで帰って行きました。
「うちは靴屋なのに、なんでマントなんか注文するんでしょうね」と長男鼠が訊ねました。
「喜んでもらえるんだったら、帽子でも、手袋でも作らないとね」と猫の靴屋さんは言いました。
今度は、どんなお客さんが来るのでしょうか。