蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

とても大切な選択

2017-12-29 20:01:38 | 日記
この部屋の中で、様々な情報を集めることが出来る。人々の生活状態を知ることも出来るし、その国、地域でどんなことが話題になり、どのように報じられているかも知ることが出来る。半年間ではあるが、現地に滞在することもできる。肌で実感できるとこのシステムは好評だ。
 仲間同士で情報を交換し合ったり、意見の交換もできる。なにしろ重大な決定だから、みんな慎重になっている。
 ただ、各人の決定までのリミットは約10ヶ月と決められている。これだけは上も譲ってはくれない。いい方にとれば、このくらいの期間の方が決定するにはちょうどいいかもしれない。悩みだしたら果てがないんだから。
 「面白いニュースがある」とAが私の方を向いて声を掛けてくれた。
 「なんだい」
 「この国に新幹線が導入されたんだそうだが、開業式の日に、出発時間が10分遅れたんだそうだ」
 「それのどこが面白いんだい」
 「まぁ、聞きなよ、問題はマスコミがどう報じたかだよ」
 「「開業式の日に10分も遅れるとは何事だ!」って批判が集まったのか?」
 「それじゃあ、面白くないだろう。「遅れを10分に抑えるなんてすばらしい!!」とべた褒め」
 「なるほど、いいねぇ。候補にするよ、ありがとう」
 私に残された日にちはあと十日。ただ、余り焦りはない。大体のところは決まっている。報告に行ってこよう。
 ノックをする。
 「入りますがよろしいでしょうか?」
 「どうぞ」といつもの柔らかい声が聞こえる。
 「決まりましたので報告に参りました」
 「あと十日あるのに、いいの?」
 「かなり自分なりに考えたつもりですから」
 「どんなところが決め手になったの?」
 「まず第一に美人が多いことです」
 「体験旅行の時に気持ちが決まったみたいね」
 「そうですね。そして第二に、食べることにみんなが情熱を傾けていることでしょうか」
 「食いしん坊のあなたにとっては大切なポイントね」
 「人生は楽しむためにありますからね」
 「同感よ」
 「では、その線でお願いいたします」
 「出発は早めるの?」
「できれば、二、三日のうちに」
 「そうね。手続きはこちらでやっておくから、準備に入って」
 「ありがとうございます。これまでお世話になりました」
 身の回りを片付けて、友人に別れを告げる。ささやかなパーティーが開かれる。
 カプセルにはいる。カプセル内に水が満たされる。私は、そっと目を閉じて、聴覚に全神経を集中した。声が聞こえる。この声が、これまでの世界と違った世界への扉を開いてくれる。
 いきなり、視界が開けた。 
「男の子ですよ!!まぁ、立派な唐辛子がついてるわ」
 紅潮し、汗まみれの顔が目に入る。泣いてるんだ。気が付いたら私も大きな声を出していた。
 「元気のいい子ねぇ。3200g、はい!」
 私はやわらかい手から、もう一つの柔らかく、汗に濡れた手に渡された。窓から、体験旅行の時に見たことのある高い塔を持つ教会が見えた。しかし、こんな記憶もあと二時間もしたらきれいに初期化されるはずだ。
 こんにちは、スペイン!

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