蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

二つの珠

2015-12-22 14:49:13 | 日記
 龍はずっと以前には、世界中に分布していたようだ。特にヨーロッパと中国には多数生息していたようで、龍と戦った話とか、龍にまたがって飛行した話とかは枚挙にいとまがない。
 しかし、龍は徐々にいなくなってしまった。龍というのは不思議な生き物で、その存在を信じる者にしか見えないという特徴があり、見えたからには倒さねばならないという古くからの約束がある。その約束を記した最古の文書は古代アレクサンドリアの図書館に所蔵されていたのだが、紀元前47年のカエサルのエジプト侵攻時に焼失したと伝えられている。
 人間が龍と戦った記録としては、『ニーベルンゲンの歌』のジーグフリートが有名である。血を浴びることによって不死身の身体を手に入れたのだが、一か所だけ血を浴びることのなかった箇所があり、そこを突かれて彼は死ぬ。
 ただ、先ほどの約束を意に介さないものがいたらどうなるか。つまり、見えるのだが、龍と共存しようと思ったものがいる可能性はないかということである。実は私のご先祖様の一人がそのようなへそ曲がりであった。
 ジーグフリートが倒した龍は、実はまだ命があったのである。戦いの現場を見に行っていた野次馬根性旺盛なご先祖様は、従者6人とともに車に乗せて半死半生の龍を自宅に運んだ、ジーグフリートは、血を浴びるのに心を奪われており、ご先祖様たちの行動には全く気がつかなかったそうだ。
 龍はそんなに大きくはない。成長した龍で12mほどにはなるのだが。ご先祖様は周囲の森から木を切りだして来て、龍専用の療養施設を作った。滅多切りにされて身体の中の血の多くを失っていた龍であったが、毎日一頭の牛を食べさせると一月ほどで傷が癒えたという。
 龍は、助けてもらった礼を言い、何か望みがあればかなえようと申し出たそうだ。ご先祖様は、君が元気になることだよ、というと、龍はぽろぽろと涙を流し、その涙はすべてサファイアに変わったという。
 そのサファイアで牛を買い、龍の食糧とした。
 龍はご先祖様を誘って空を飛ぶこともあったそうだ。『ガリヴァー旅行記』で紹介されているラピュタの上空を飛んだり、万里の長城の上も飛んだという。一番遠いところでは月まで行ったというけれど、これは眉唾ものである。
 ある日、龍がぽつんと言った。
 「仲間のところへ帰りたい」
 ご先祖様は、その気持ちはよくわかると言い、帰る前に腹いっぱい食べたらいいと、牛を10頭差し出した。龍は、味わうようにして一頭一頭食べたそうだ。そして、二人の出会いの印として、一つの珠を差し出した。
 「私も同じものを一つ持っている。逢いたくなったらいつでも連絡をくれ」
 「わかった。そちらからも連絡をくれたら嬉しいよ」
 先日、蔵の中の大掃除をしていたら、それらしきものが見つかった。タオルで磨いたら、龍の姿が見えた。奥さんらしい龍と、三頭の子どもの龍が見えた。連絡は取らないことにした。平和な家庭の邪魔をしたくないから。