この部屋の中で、様々な情報を集めることが出来る。人々の生活状態を知ることも出来るし、その国、地域でどんなことが話題になり、どのように報じられているかも知ることが出来る。半年間ではあるが、現地に滞在することもできる。肌で実感できるとこのシステムは好評だ。
仲間同士で情報を交換し合ったり、意見の交換もできる。なにしろ重大な決定だから、みんな慎重になっている。
ただ、各人の決定までのリミットは約10ヶ月と決められている。これだけは上も譲ってはくれない。いい方にとれば、このくらいの期間の方が決定するにはちょうどいいかもしれない。悩みだしたら果てがないんだから。
「面白いニュースがある」とAが私の方を向いて声を掛けてくれた。
「なんだい」
「この国に新幹線が導入されたんだそうだが、開業式の日に、出発時間が10分遅れたんだそうだ」
「それのどこが面白いんだい」
「まぁ、聞きなよ、問題はマスコミがどう報じたかだよ」
「「開業式の日に10分も遅れるとは何事だ!」って批判が集まったのか?」
「それじゃあ、面白くないだろう。「遅れを10分に抑えるなんてすばらしい!!」とべた褒め」
「なるほど、いいねぇ。候補にするよ、ありがとう」
私に残された日にちはあと十日。ただ、余り焦りはない。大体のところは決まっている。報告に行ってこよう。
ノックをする。
「入りますがよろしいでしょうか?」
「どうぞ」といつもの柔らかい声が聞こえる。
「決まりましたので報告に参りました」
「あと十日あるのに、いいの?」
「かなり自分なりに考えたつもりですから」
「どんなところが決め手になったの?」
「まず第一に美人が多いことです」
「体験旅行の時に気持ちが決まったみたいね」
「そうですね。そして第二に、食べることにみんなが情熱を傾けていることでしょうか」
「食いしん坊のあなたにとっては大切なポイントね」
「人生は楽しむためにありますからね」
「同感よ」
「では、その線でお願いいたします」
「出発は早めるの?」
「できれば、二、三日のうちに」
「そうね。手続きはこちらでやっておくから、準備に入って」
「ありがとうございます。これまでお世話になりました」
身の回りを片付けて、友人に別れを告げる。ささやかなパーティーが開かれる。
カプセルにはいる。カプセル内に水が満たされる。私は、そっと目を閉じて、聴覚に全神経を集中した。声が聞こえる。この声が、これまでの世界と違った世界への扉を開いてくれる。
いきなり、視界が開けた。
「男の子ですよ!!まぁ、立派な唐辛子がついてるわ」
紅潮し、汗まみれの顔が目に入る。泣いてるんだ。気が付いたら私も大きな声を出していた。
「元気のいい子ねぇ。3200g、はい!」
私はやわらかい手から、もう一つの柔らかく、汗に濡れた手に渡された。窓から、体験旅行の時に見たことのある高い塔を持つ教会が見えた。しかし、こんな記憶もあと二時間もしたらきれいに初期化されるはずだ。
こんにちは、スペイン!
仲間同士で情報を交換し合ったり、意見の交換もできる。なにしろ重大な決定だから、みんな慎重になっている。
ただ、各人の決定までのリミットは約10ヶ月と決められている。これだけは上も譲ってはくれない。いい方にとれば、このくらいの期間の方が決定するにはちょうどいいかもしれない。悩みだしたら果てがないんだから。
「面白いニュースがある」とAが私の方を向いて声を掛けてくれた。
「なんだい」
「この国に新幹線が導入されたんだそうだが、開業式の日に、出発時間が10分遅れたんだそうだ」
「それのどこが面白いんだい」
「まぁ、聞きなよ、問題はマスコミがどう報じたかだよ」
「「開業式の日に10分も遅れるとは何事だ!」って批判が集まったのか?」
「それじゃあ、面白くないだろう。「遅れを10分に抑えるなんてすばらしい!!」とべた褒め」
「なるほど、いいねぇ。候補にするよ、ありがとう」
私に残された日にちはあと十日。ただ、余り焦りはない。大体のところは決まっている。報告に行ってこよう。
ノックをする。
「入りますがよろしいでしょうか?」
「どうぞ」といつもの柔らかい声が聞こえる。
「決まりましたので報告に参りました」
「あと十日あるのに、いいの?」
「かなり自分なりに考えたつもりですから」
「どんなところが決め手になったの?」
「まず第一に美人が多いことです」
「体験旅行の時に気持ちが決まったみたいね」
「そうですね。そして第二に、食べることにみんなが情熱を傾けていることでしょうか」
「食いしん坊のあなたにとっては大切なポイントね」
「人生は楽しむためにありますからね」
「同感よ」
「では、その線でお願いいたします」
「出発は早めるの?」
「できれば、二、三日のうちに」
「そうね。手続きはこちらでやっておくから、準備に入って」
「ありがとうございます。これまでお世話になりました」
身の回りを片付けて、友人に別れを告げる。ささやかなパーティーが開かれる。
カプセルにはいる。カプセル内に水が満たされる。私は、そっと目を閉じて、聴覚に全神経を集中した。声が聞こえる。この声が、これまでの世界と違った世界への扉を開いてくれる。
いきなり、視界が開けた。
「男の子ですよ!!まぁ、立派な唐辛子がついてるわ」
紅潮し、汗まみれの顔が目に入る。泣いてるんだ。気が付いたら私も大きな声を出していた。
「元気のいい子ねぇ。3200g、はい!」
私はやわらかい手から、もう一つの柔らかく、汗に濡れた手に渡された。窓から、体験旅行の時に見たことのある高い塔を持つ教会が見えた。しかし、こんな記憶もあと二時間もしたらきれいに初期化されるはずだ。
こんにちは、スペイン!