蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

素晴らしい「総活躍社会」

2015-12-10 19:28:23 | 日記
「総活躍社会」と首相が言い出した国があった。このような社会をどう実現するか議論の末に、「活躍できる人間だけを残せばいいのではないか」という案が採用された。つまりは、「活躍できそうもない人間」を社会から引き去れば、「総活躍社会」は実現できる。
 いわば、「プロクラテスのベッド」といったものであって、ベッドに寝かせてみて身長が足りない奴は引き伸ばす、ベッドからはみ出す奴は頭なり足なりを切り落としてベッドに人間のサイズを合わせればいいという発想である。
 元気に活躍している人たちのポスターが街中に張り巡らされた。お年寄り、障害者、子ども、男性、女性・・様々な場所で活躍している人たちの笑顔が輝くポスターだった。
 標語も貼りだされた。
 「日ごろの努力を大切に」。「あきらめない人生」。「自分を見捨てない」。「どんな時でも感謝の笑顔」。
 標語は少しづつ変わって行った。
 「闘志無き者は去れ!」。「若い日の努力が輝く老後を作る」。
 小学校では、「キリギリスとアリ」のイソップ版が道徳の時間に使用され、教師用の指導書には、「怠け者にはそれ相応の老後が待っていることを理解させる」と記してあった。
 校外活動では、ホームレスの人たちを訪ねて、なぜ自分がこんな惨めな生活をするに至ったかを聞きとらせる活動が必須となった。
 ただ、そのホームレスの人たちは、劇団に所属している人たちで、シナリオを渡されて、演技指導も受けたプロたちであり、本物の(?)ホームレスの人たちは、夜間、幌付きのトラックに押し込められて、いずこともなく連れ去られた。
 生活保護の窓口では、従来にも増して、「なぜあなたが今のようなみじめな状態になったのか」が根掘り葉掘り訊ねられ、受給者は、住居の玄関に、「生活保護受給者の家」というステッカーを貼ることが義務付けられた。外出時には、「私は生活保護を受給しています」というタスキをかけることが義務付けられた。
 累進課税は、「努力した人間からその報酬を奪う行為である」という最高裁の判断により廃止された。
 マイナンバーをつけられて監視対象となった国民は、年に一度、「活躍できているかどうか」の査定を受け、五段階で評価された。1とか2とかが2年続くと、移送の対象となった。
 遺伝病もチェックの対象となった。重篤であると診断された場合も、移送対象となった。出生前診断は義務制となり、問題ありとされたら中絶が求められた。
 20年経って、「総活躍社会」は実現を見た。
 街に貼られた選挙用のポスターに笑顔で写っている首相の鼻の下には、ちょび髭があった。
 「誰かに似ているなぁ」とそのポスターの前で首をひねっていた人はその場で逮捕され連行された。
 ゴールトンが夢見た理想の社会は、こうして東洋の小さな島国で実現した。