蝸牛の歩み

「お話」を作ってみたくなりました。理由はそれだけです。やってみたら結構面白く、「やりたいこと」の一つになっています。

場所探し

2015-12-02 13:37:55 | 日記
 イチョウ並木もすっかり色づき、下の方にも黄色くなったイチョウの葉が散り敷いている。
 ドン!と足で地面を踏むと、ハラハラとイチョウの葉が散る。そうなると、ここで「アレ」をやらない手はない。
 まず、準備体操。
 ドン!「絶景かな 絶景かーなー・・・・」もう一度ドン!落ち葉ハラハラ・・。

 少し歩くと、桜紅葉がきれいな樹がある。さて、今日は、ここで本番とするか・・・。

「大江戸八百八町にかくれのねえ、杏葉牡丹の紋付きも桜に匂う仲の町。花川戸の助六とも、また 揚巻の助六ともいう若い者、間近く寄って面像おがみ奉れえ」

 「成田屋!!」

 「あっ、ありがとうございます。ご自分でもおやりになるんですか?」
 「めっ、滅相もない。私なんて、掛け声専門ですよ」
 「いやいや、一つおやりになったらどうですか」
 「恥ずかしいんですよ、とにかく」
 「私もね、最初は恥ずかしかった。・・・でもね、清水の舞台から飛び降りると思ってやってみたら、なんとも気持ちが好くって、この季節と、あと、桜の季節を狙ってやるんですよ。」
 「私でも、できましょうかね?」
 「大丈夫ですよ、掛け声の時の口跡、中々のものでしたよ」
 「えっ、そうですか。恥ずかしいなぁ」
 「そこを思い切って」
 「わたし、仁左衛門が好きでね」
 「ああ、趣味が合いますなぁ。私も大好き」
 「河内山なんかいいですなぁ」
 「とんだところを北村大膳・・・とか」
 「そうですなぁ、では恥を忍んで一つやらせていただきましょうか」

 「いよっ!待ってました松島屋!」

 「エエ仰々しい、静かにしろ……。悪に強きは善にもと、世のたとえにもいうとおり、親の嘆きが不憫さに、娘の命を助けるため、腹に企みの魂胆を、練塀小路に隠れのねえ、御数寄屋坊主の宗俊が、頭の丸いを幸いに、衣でしがお忍が岡、神の御末の一品親王、宮の使いと偽って神風よりも御威光の、風を吹かして大胆にも出雲守の上屋敷へ、仕掛けた仕事のいわく窓、家中一統白壁と、思いのほかに帰りがけ、とんだところを北村大膳」

「松嶋屋!!」

「いやー、気持ちいいもんですなぁ」

 「すみません、そこでなにをしてはるんですか?」

 「い、いや、ちょっと」

 「ちょっと、なんなんですか?」

 「いや、歌舞伎の名セリフを語っていたのですが、なにか?」

 「歌舞伎ですか・・・署の方に通報がありまして、表で変な声が聞こえるから来てくれって」

 「へ、変な声・・・」

 「とにかく、住宅のあるところでは気を付けてくださいよ」

 「まさか、警官が来るとは」
 「変な声・・・ですかね?」
 「いやいや、教養がないだけですよ。わかってくれる人は絶対にいますよ」
 「それはそうとして、あなたはなぜ外でやってはるんですか?」
 「それは決まってますよ、舞台装置ですな、舞台装置。落ち葉と、ハラハラと散る桜。これ以上のものはありませんで」
 「そうですなぁ。いや、私の場合は、家で語っていたんですが、娘から勉強の邪魔になると言われまして。あなたは大丈夫ですか、ご家族の方は何とも云われませんか?」
 「いや、まぁ、喜んで!・・・というわけにはいきませんわなぁ」
 「場所、探す必要がありますね」
 「悪い世の中になりましたなぁ。教養のない人が増えたんでしょうか」
 「また来週、ここでお会いしましょうか」
 「そうですなぁ、今度は、人気の少ないところを探しましょうか」