あれは、ヒマラヤの8000m級の山を登っていた時だった。私は若いころから単独行が好きで、30歳を過ぎてからはほとんど一人で登ってきた。7000mを越えたあたりから、厚い氷河の上を踏みしめ、足場を確保しながら、カタツムリのように登って行った。空は雲一つない、滅多にお目にかかることのない好天だった。
まるで子どもの掘った落とし穴に落ちたような感じで、身体が落下した。周りは氷の壁。トンネルのようになっている。傾斜がある。アイゼンやピッケルで身体を確保しようとしたが、おかしなもので、滑って行く快感の方が勝っていた。上を向いて滑って行くのだが、どういうことになっているのか、光が氷のトンネルの中に満ち満ちている。氷河の中を通っているトンネルの中を滑っていることになる。万華鏡のような景色が見える時もある。トンネルは、透明感に満ちた青い色だった。これは、空の色なんだろうか、それとも氷自体の持っている色なんだろうか。滑って行く間に、いろんな思い出が頭をよぎって行った。これが「走馬灯のように」という奴か。あれっ、「走馬灯」って、どんなものだったっけ。
どこまで滑って行くのか、終点はどうなっているのか、そんなことが気になりだした。強い光が見えてきた。穴が開いているのか?
スポーン!と穴から飛び出した。着地したところには草が生えていた。少しはクッションになってくれたと見えて、打ち身はなかった。計測してみたら、穴の出口から着地点まで10mはあった。何秒だったのか、何分だったのか、長いような短いような時間だった。
最近の温暖化で氷河が溶けているようだ。私のような経験をすることのできた人間ももういなくなるだろう。
まるで子どもの掘った落とし穴に落ちたような感じで、身体が落下した。周りは氷の壁。トンネルのようになっている。傾斜がある。アイゼンやピッケルで身体を確保しようとしたが、おかしなもので、滑って行く快感の方が勝っていた。上を向いて滑って行くのだが、どういうことになっているのか、光が氷のトンネルの中に満ち満ちている。氷河の中を通っているトンネルの中を滑っていることになる。万華鏡のような景色が見える時もある。トンネルは、透明感に満ちた青い色だった。これは、空の色なんだろうか、それとも氷自体の持っている色なんだろうか。滑って行く間に、いろんな思い出が頭をよぎって行った。これが「走馬灯のように」という奴か。あれっ、「走馬灯」って、どんなものだったっけ。
どこまで滑って行くのか、終点はどうなっているのか、そんなことが気になりだした。強い光が見えてきた。穴が開いているのか?
スポーン!と穴から飛び出した。着地したところには草が生えていた。少しはクッションになってくれたと見えて、打ち身はなかった。計測してみたら、穴の出口から着地点まで10mはあった。何秒だったのか、何分だったのか、長いような短いような時間だった。
最近の温暖化で氷河が溶けているようだ。私のような経験をすることのできた人間ももういなくなるだろう。