そういえばわたくしはもう何年と、月を見ておりませぬ。
それでも月のあの明るい皓々として照らすすがたを、
わたくしはいつでも存分に想い浮べることができる。
見られないことが、なんにも哀しいことではありませぬ。
わたくしの見る月はいつ見ても、同じほどに美しかった。
それは或る意味、もう見なくても良い物であった。
自然物のそのすべて、見なくても良い物であった。
もう見る必要もなくなったのは、それはいつ見ても美しいものだと知ったから。
わたくしの心は、いつでも哀しかったので、すべては美しく見えてしかたない。
でもそれは言訳で、わたくしの心をいちばん哀しくさせたあなたを知ったから。
あなたを知ったわたくしは、それから残像を見ている。
花は枯れゆく瞬間を繰り返し咲き、その悲鳴を聴く耳朶をわたくしは喪った。
河を流れゆくあなたの亡骸を抱き、その血脈の目を見開き唇へ言葉を注した。
わたくしはそが岸辺に頽れあなたのうしろに手を回し、子宮に命を脱皮した。
いま風上に立ち竦んで自裁する、
白く皓々と暗夜にわたくしを見詰る月魄の残光。
それでも月のあの明るい皓々として照らすすがたを、
わたくしはいつでも存分に想い浮べることができる。
見られないことが、なんにも哀しいことではありませぬ。
わたくしの見る月はいつ見ても、同じほどに美しかった。
それは或る意味、もう見なくても良い物であった。
自然物のそのすべて、見なくても良い物であった。
もう見る必要もなくなったのは、それはいつ見ても美しいものだと知ったから。
わたくしの心は、いつでも哀しかったので、すべては美しく見えてしかたない。
でもそれは言訳で、わたくしの心をいちばん哀しくさせたあなたを知ったから。
あなたを知ったわたくしは、それから残像を見ている。
花は枯れゆく瞬間を繰り返し咲き、その悲鳴を聴く耳朶をわたくしは喪った。
河を流れゆくあなたの亡骸を抱き、その血脈の目を見開き唇へ言葉を注した。
わたくしはそが岸辺に頽れあなたのうしろに手を回し、子宮に命を脱皮した。
いま風上に立ち竦んで自裁する、
白く皓々と暗夜にわたくしを見詰る月魄の残光。