昨日の続き。
何度教えても理解しない一年生のMちゃんに対し、常に脳みそが沸騰しているあくっまさん。
今まで「まだ一年生だし、可愛いもんだ」と思っていたものが、改めて一般的な一年生・Sちゃんの存在により、Mちゃんの特異性が際立ってしまった。
それが合宿では、顕著に目立つ。
しかし、まだ19歳の未成年に26歳のあくっまさんがいきり立つというのも、恥ずかしいものと、反省はしている。
が。
アーチェリーの醍醐味の一つに「点数」というのがあると思う。
矢を射つと毎回己の得点が出てくるアーチェリーは、努力と結果が直結するスポーツだ。
前回よりも一点でも点数を上げるために、アーチャーは練習を重ね、フォームを改良し、弓具を買い足し、小手先技術を覚え…(悪いアーチャーの見本)
とにかく点を上げるための努力をする。ただ漫然と射つだけよりも、点が高いほうが断然楽しい。
一日目の行動では書き忘れたが、Mちゃんは初めて弓を持ったときから、「点数」へのこだわりがあった。
点数へこだわること自体は、非常にいい事だ。
しかし彼女は、点数をあげるプロセスに関してはどうでもいいように見受けられた。
射形を注意しても直らないのは仕方が無い。こういうのは一長一短だ、すぐ直るのなら誰も困らないものだから。
しかし、何度注意しても意識する気配が殆ど見られないのはおろか、何故注意されているのか理解できていないのは困る。
例えば弦サイト(懐かしい人手をあげて!)
アーチェリーでは弓を地面と垂直に保つ為に、アーチャーはまっすぐ弦を引いてこなくてはいけない。その為に弦を顎の下まで引いた後、アーチャーは弓がまっすぐになっているかどうか、チラッと目で弓本体を見て確認する。
その一連の動きを「弦サイト確認」という(で、いいのかな?)
ある日Mちゃんの弓が斜め十五度ほど左へ傾いていたので、弦サイトを注意しているか尋ねた。すると彼女は「大丈夫です!」と答えた。
しかし初心者だと、自分の顔が斜めに傾いていて、弓も同じように傾けてしまい、気づかない事はよくある。そこであくっまさんは、注意深く彼女が弦を引く様子を観察した。
すると、彼女の弓は最初から傾いていた。あくっまさんは弓のある部位を指しながら、一番最初に教えた通りにちゃんとココをチェックして弦サイトを確認しているか尋ねた後、もう一度弦を引かせて聞いた。
あくっま「どうだった?」
Mちゃん「やっぱり傾いています」
あくっま「やっぱり、ということは、さっきのも傾いていたの?」
Mちゃん「はい」
あくっま「でも、さっきは傾いていないって言ったよね」
Mちゃんは答えず、押し黙った。そのままだんまりを決め込むので、あくっまさんは彼女に練習を続けるよう促した。
ああ、思い出した。
似たような事は他にもたくさんある。
例えば、ある日突然矢が的から外れ、左の畳の縁ばかりに集中した時があった。
こういう時は何か原因がある。あくっまさんと同期のKは彼女に「利き目で狙っているか」尋ねた。
利き目というのは的を狙うのに使っている自分の目の事で、右利きの人は大抵右目が利き目となっている。
Mちゃんも利き目は右目なのだが、突然大きく左にそれるということは、今までとは大きく違う射ち方をしているということだ。それで初心者で最も考えられるのが、「自分がどっちの目で的を狙っているか混乱してしまう」事だった。
Mちゃんはハッキリと「右目で狙っています」と答えた。
あくっまさんは「本当に?」と疑うと、「本当です」と答えた。
しかし、彼女の射ち方を観察すると、狙い始めた瞬間から矢が的から的の遥か左を狙っていた。
こういう動きは、左の目で狙っていると起きる。Kは引き戻させて言った。
K「Mちゃん、やっぱり左目で狙っているよ。一度左目を閉じて射ちなよ」
Mちゃんは左目をウィンクさせながら射つと、矢は綺麗に真ん中へ飛んでいった。
K「やっぱり左目で射っていたんだね」
Mちゃん「ええ、今まで左目で射っていました」
K「…あれ、Mちゃんは右目で射っていたんじゃないの?」
Mちゃん「ええ、右目で射っていました」
Kは何か言いたそうな顔をしたが、黙った。
あくっまさんは混乱したまま、その場を離れた。
そういえば、合宿初日にもそういう押し問答はあった。
Mちゃんが練習用の木の弓を組み立てるのを観察していると、あくっまさんはその弓が普段Mちゃんが練習で使っていた弓よりも、ポンドが軽い(弱い)木の弓だということに気付いた。
あくっま「あれ、Mちゃん。それはいつも使っている24ポンドの弓じゃないよ。(チェックして)ほら、18ポンドだからずっと軽い」
合宿の前の週に指導をしたM先輩は、それを聞いて慌てて駆け寄ってきた。どうやら先週の練習でそれを使い、そのまま分解して持ってきたらしい。
M先輩「ああ、ごめん。気付かなかった!これじゃせっかく合宿に来たのに弱い木の弓で練習させちゃうから、意味ないね。今日から自分の弓(木の弓よりもずっと強いアルミの弓)で練習しないと」
Mちゃん「分かりました」
M先輩「でも、先週この弓使っていて軽かったでしょ」
Mちゃん「はい」
M先輩「…それなら言ってくれればいいのに。換えたから」
Mちゃん「……」
M先輩「本当は気付いていなかったの?」
Mちゃん「はい」
M先輩「……」
その後、ウォーミングアップということで、とりあえずその弱い木の弓で1R(36本)うたせた。
あくっま「軽い?やっぱり普段より6ポンドも低いと」
Mちゃん「はい!」
あくっま「先週も軽く感じた?」
Mちゃん「はい!」
あくっま「あ…でも先週は弓が違うのに気付かなかったんだよね」
Mちゃん「はい」
あくっま「…軽く感じなかったんだっけ?」
Mちゃん「はい…」
あくっま「……」
ああ、書いている本人が混乱しているのだから、読んでいる人はもっと混乱しているだろう(特にアーチェリー用語乱発している話だし)。
ただ、これらの話で読み取っていただきたかったのは、
「人の話を頷いて聞いている人に対し、理解しているかどうか疑う」なんて経験をした事がある人は、皆様あるだろうか?
何度細かく説明しても「はい、わかりました」と答えるのに、冗談抜きで一分も経っていないのに真逆の質問をしても肯定するMちゃんに対し、あくっまさんは精神的な疲労を感じる。
こんな調子なので、Mちゃんは正直なところあまり上手とは言えない。
しかし彼女は人一倍点へのこだわりがあった。
丁度合宿初日の終盤に差し掛かり、疲れがピークに達して弓を持つ手も震えるほどになった頃。
Mちゃんは指導者に何も言わず、勝手にそれまで使っていた自分の強いアルミの弓を置いて、弱い木の弓でアーチェリーをやり始めた。
そう、弱い弓を使えば手が震えて矢が外れる事は無いからだ。
…練習の意味は全く無いのだけれど。
指導をしていたH先輩は愕然とした表情で、注意するタイミングを逸しそのまま弱い弓を勝手に引き続けるMちゃんを見ていた。
こういう後輩に対し、一体どういう指導を行えば良いのか、あくっまさんには分からない。
今までの経験則からいって、こういう子は「アーチェリーやクラブ活動をしたくない」と判断してきたからだ。
しかし、彼女は「クラブは是非続けたい」と言う。
どうすればいいのだろうか?
~続く~
何度教えても理解しない一年生のMちゃんに対し、常に脳みそが沸騰しているあくっまさん。
今まで「まだ一年生だし、可愛いもんだ」と思っていたものが、改めて一般的な一年生・Sちゃんの存在により、Mちゃんの特異性が際立ってしまった。
それが合宿では、顕著に目立つ。
しかし、まだ19歳の未成年に26歳のあくっまさんがいきり立つというのも、恥ずかしいものと、反省はしている。
が。
アーチェリーの醍醐味の一つに「点数」というのがあると思う。
矢を射つと毎回己の得点が出てくるアーチェリーは、努力と結果が直結するスポーツだ。
前回よりも一点でも点数を上げるために、アーチャーは練習を重ね、フォームを改良し、弓具を買い足し、小手先技術を覚え…(悪いアーチャーの見本)
とにかく点を上げるための努力をする。ただ漫然と射つだけよりも、点が高いほうが断然楽しい。
一日目の行動では書き忘れたが、Mちゃんは初めて弓を持ったときから、「点数」へのこだわりがあった。
点数へこだわること自体は、非常にいい事だ。
しかし彼女は、点数をあげるプロセスに関してはどうでもいいように見受けられた。
射形を注意しても直らないのは仕方が無い。こういうのは一長一短だ、すぐ直るのなら誰も困らないものだから。
しかし、何度注意しても意識する気配が殆ど見られないのはおろか、何故注意されているのか理解できていないのは困る。
例えば弦サイト(懐かしい人手をあげて!)
アーチェリーでは弓を地面と垂直に保つ為に、アーチャーはまっすぐ弦を引いてこなくてはいけない。その為に弦を顎の下まで引いた後、アーチャーは弓がまっすぐになっているかどうか、チラッと目で弓本体を見て確認する。
その一連の動きを「弦サイト確認」という(で、いいのかな?)
ある日Mちゃんの弓が斜め十五度ほど左へ傾いていたので、弦サイトを注意しているか尋ねた。すると彼女は「大丈夫です!」と答えた。
しかし初心者だと、自分の顔が斜めに傾いていて、弓も同じように傾けてしまい、気づかない事はよくある。そこであくっまさんは、注意深く彼女が弦を引く様子を観察した。
すると、彼女の弓は最初から傾いていた。あくっまさんは弓のある部位を指しながら、一番最初に教えた通りにちゃんとココをチェックして弦サイトを確認しているか尋ねた後、もう一度弦を引かせて聞いた。
あくっま「どうだった?」
Mちゃん「やっぱり傾いています」
あくっま「やっぱり、ということは、さっきのも傾いていたの?」
Mちゃん「はい」
あくっま「でも、さっきは傾いていないって言ったよね」
Mちゃんは答えず、押し黙った。そのままだんまりを決め込むので、あくっまさんは彼女に練習を続けるよう促した。
ああ、思い出した。
似たような事は他にもたくさんある。
例えば、ある日突然矢が的から外れ、左の畳の縁ばかりに集中した時があった。
こういう時は何か原因がある。あくっまさんと同期のKは彼女に「利き目で狙っているか」尋ねた。
利き目というのは的を狙うのに使っている自分の目の事で、右利きの人は大抵右目が利き目となっている。
Mちゃんも利き目は右目なのだが、突然大きく左にそれるということは、今までとは大きく違う射ち方をしているということだ。それで初心者で最も考えられるのが、「自分がどっちの目で的を狙っているか混乱してしまう」事だった。
Mちゃんはハッキリと「右目で狙っています」と答えた。
あくっまさんは「本当に?」と疑うと、「本当です」と答えた。
しかし、彼女の射ち方を観察すると、狙い始めた瞬間から矢が的から的の遥か左を狙っていた。
こういう動きは、左の目で狙っていると起きる。Kは引き戻させて言った。
K「Mちゃん、やっぱり左目で狙っているよ。一度左目を閉じて射ちなよ」
Mちゃんは左目をウィンクさせながら射つと、矢は綺麗に真ん中へ飛んでいった。
K「やっぱり左目で射っていたんだね」
Mちゃん「ええ、今まで左目で射っていました」
K「…あれ、Mちゃんは右目で射っていたんじゃないの?」
Mちゃん「ええ、右目で射っていました」
Kは何か言いたそうな顔をしたが、黙った。
あくっまさんは混乱したまま、その場を離れた。
そういえば、合宿初日にもそういう押し問答はあった。
Mちゃんが練習用の木の弓を組み立てるのを観察していると、あくっまさんはその弓が普段Mちゃんが練習で使っていた弓よりも、ポンドが軽い(弱い)木の弓だということに気付いた。
あくっま「あれ、Mちゃん。それはいつも使っている24ポンドの弓じゃないよ。(チェックして)ほら、18ポンドだからずっと軽い」
合宿の前の週に指導をしたM先輩は、それを聞いて慌てて駆け寄ってきた。どうやら先週の練習でそれを使い、そのまま分解して持ってきたらしい。
M先輩「ああ、ごめん。気付かなかった!これじゃせっかく合宿に来たのに弱い木の弓で練習させちゃうから、意味ないね。今日から自分の弓(木の弓よりもずっと強いアルミの弓)で練習しないと」
Mちゃん「分かりました」
M先輩「でも、先週この弓使っていて軽かったでしょ」
Mちゃん「はい」
M先輩「…それなら言ってくれればいいのに。換えたから」
Mちゃん「……」
M先輩「本当は気付いていなかったの?」
Mちゃん「はい」
M先輩「……」
その後、ウォーミングアップということで、とりあえずその弱い木の弓で1R(36本)うたせた。
あくっま「軽い?やっぱり普段より6ポンドも低いと」
Mちゃん「はい!」
あくっま「先週も軽く感じた?」
Mちゃん「はい!」
あくっま「あ…でも先週は弓が違うのに気付かなかったんだよね」
Mちゃん「はい」
あくっま「…軽く感じなかったんだっけ?」
Mちゃん「はい…」
あくっま「……」
ああ、書いている本人が混乱しているのだから、読んでいる人はもっと混乱しているだろう(特にアーチェリー用語乱発している話だし)。
ただ、これらの話で読み取っていただきたかったのは、
「人の話を頷いて聞いている人に対し、理解しているかどうか疑う」なんて経験をした事がある人は、皆様あるだろうか?
何度細かく説明しても「はい、わかりました」と答えるのに、冗談抜きで一分も経っていないのに真逆の質問をしても肯定するMちゃんに対し、あくっまさんは精神的な疲労を感じる。
こんな調子なので、Mちゃんは正直なところあまり上手とは言えない。
しかし彼女は人一倍点へのこだわりがあった。
丁度合宿初日の終盤に差し掛かり、疲れがピークに達して弓を持つ手も震えるほどになった頃。
Mちゃんは指導者に何も言わず、勝手にそれまで使っていた自分の強いアルミの弓を置いて、弱い木の弓でアーチェリーをやり始めた。
そう、弱い弓を使えば手が震えて矢が外れる事は無いからだ。
…練習の意味は全く無いのだけれど。
指導をしていたH先輩は愕然とした表情で、注意するタイミングを逸しそのまま弱い弓を勝手に引き続けるMちゃんを見ていた。
こういう後輩に対し、一体どういう指導を行えば良いのか、あくっまさんには分からない。
今までの経験則からいって、こういう子は「アーチェリーやクラブ活動をしたくない」と判断してきたからだ。
しかし、彼女は「クラブは是非続けたい」と言う。
どうすればいいのだろうか?
~続く~