音信

小池純代の手帖から

雑談37

2022-04-23 | 雑談
あたたかくなってきた。お片づけを始める。
開かずの扉の向こうの、開かずの抽斗のなかの、
開かずの箱。

手書きの明細書とか、
手書きをコピーしたレジュメとか、
中身を呼び出すのも億劫なフロッピーディスクとか。

インターネットが普及する少し前の時代をものがたる物象。
もの言わぬ「もの」の持つ情報の凄さ。
捨てるのも保持し続けるのもはばかられる。

そういったものが多くて、開けるほどにおもしろく、
かつ、おそろしい。

  ひとの生とはなんなのでせう
 何度聞いても怖ろしすぎて
 忘れてしまふむかしのはなし

二十年ぐらい前の旧作「もんどり問答集」より。
七七を詞書にした七七七七。
どういうつもりで作ったんだろう。 

     †
 思ひ出すとは忘るるか
 思ひ出さずや忘れねば  『閑吟集』小歌85

     †

  思い出せるのはふだん忘れているからでしょ。
  忘れなければいつだってすぐそこにあるはず。
  思い出す必要などないはずだもの。

ちょっと理屈っぽいところがコケットな恋の小歌。
とは思うが、
しまい込んだものを片づけるときの小歌とも読める。
あるはずのものを捜すときにも使えるかも。

歌は読み手の現状によって色合いも意味も変化する。






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