音信

小池純代の手帖から

雑談36

2022-04-13 | 雑談
『玉葉和歌集』巻二196 永福門院の一首について追記。
「曙花(あけぼののはな)を」の詞書あり。

  山もとの鳥のこゑごゑ明けそめて花もむらむら色ぞ見えゆく

  山もとの鳥の声より明けそめて花もむらむら色ぞみえ行く

  山もとの鳥の声より 明けそめて、花も むら/\ 色ぞ見えゆく


引用元は上から順に、
塚本邦雄『清唱千首』 三島由紀夫「小説家の休暇」 折口信夫「女流短歌史」

  

「鳥のこゑごゑ」と「鳥の声より」の二通りがあるが、
底本「こゑごゑ」が諸本による改訂で「声より」になっている。

「声より」ならば明け方の時間と空間の綴目が開いていって、
光の色とともに花の姿も色も見えてゆく様子がつよく印象づけられる。
詞書「曙花を」にはこちらが添いやすいのだろう。

「こゑごゑ」ならば孟浩然の「処処聞啼鳥」っぽく、
いろんな種類の鳥の声が聞こえてきそうだ。
鳥の声が空を破ったところから花が開くようにも感じられる。
「むらむら」は「群群、叢叢、斑斑」の字が宛てられる。
どの漢字でもよいし、三種類一度にイメージするのもよいと思う。
せっかくのひらがななのだし。

先生がたの読みをお借りする。

──暁闇の、四方の景色もさだかならぬ頃から、刻一刻明るみ
 まづ山麓の小鳥の囀り、やがて仄白い桜があそこに一むら、
 ここに一むらと顕ちそめる。(塚本邦雄『清唱千首』より)

──山裾の、小鳥のかわいらしい目覚めの声から夜は明けそめ
 て、花も一群また一群と、その美しい色が見えるようになっ
 て行くよ。
  (岩佐美代子『木々の心 花の心 玉葉和歌集抄訳』より)









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