音信

小池純代の手帖から

ぶぶんぶん(9)

2017-12-27 | 歌帖
  『詩経』意訳ノート(9)


  203 「大東」(小雅 谷風の什)

 有饛簋飧 有捄棘匕
 周道如砥 其直如矢
 君子所履 小人所視
 睠言顧之 潸焉出涕

 小東大東 杼柚其空
 糾糾葛屨 可以履霜
 佻佻公子 行彼周行
 既往既來 使我心疚

 有冽氿泉 無浸穫薪
 契契寤歎 哀我憚人
 薪是穫薪 尚可載也
 哀我憚人 亦可息也

 東人之子 職勞不來
 西人之子 粲粲衣服
 舟人之子 熊羆是裘
 私人之子 百僚是試

 或以其酒 不以其漿
 鞙鞙佩璲 不以其長
 維天有漢 監亦有光
 跂彼織女 終日七襄

 雖則七襄 不成報章
 睆彼牽牛 不以服箱
 東有啟明 西有長庚
 有捄天畢 載施之行

 維南有箕 不可以簸揚
 維北有斗 不可以挹酒漿
 維南有箕 載翕其舌
 維北有斗 西柄之揭



  東国

 わが匙は反れて歪めど
 王国の道はまつすぐ
 紛れなき大物たちが
 迷ひなく行き交ふさまを
 見るのみのわれらは小物
 思ふたび思ひ出すたび
 流れ出す涙の糸よ

 ひむがしの国のそこここ
 機織りの音はとだえて
 夏葛のぼろぼろの沓
 そを履きて踏む霜は針
 若殿の軽き歩みを
 見るたびに見るたびごとに
 重くなる涙の束よ

 湧き水よ冷たき水よ
 そのたきぎぬらさぬやうに
 疲れても寝つかれぬ夜
 しんしんと泣くだけの夜
 そのたきぎぬれてしまひぬ
 疲れても寝つかれぬ人
 休みたしただ休みたし

 東国の人の子われら
 働けど報ひなきなり
 西国の人の子かれら
 きんぴかの着物履き物
 王国の人の子かれら
 ふかふかの毛皮の衣
 王国の家来の子らは
 良きに位す

 あの人は酒を飲み干し
 この人は水さへ飲めず
 あの人の帯はあやなし
 この人の帯はみじかし
 大空の星々の帯
 見るほどにかがやきわたる
 織姫は何織らむとす

 日に機に七たび向かへど
 一反も織りはあがらず
 ひこぼしは車をひかず
 ひむがしの明けの明星
 西空の宵の明星
 星々は網をなせども
 なにものも掬ふことなし

 みんなみに箕の星あれど
 篩ふべき一粒もなし
 北の星柄杓をなせど
 汲みあぐる一献もなし
 箕の星の反りに反れども
 柄杓星傾ぎ傾げど
 その柄の指すは西のみ  *柄:へい

 
 
   反歌

 ひむがしの国より仰ぐ王の国天をつらぬく道のごとしも

 地上では役に立たざる物語羽根澄み透る星のかささぎ




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ぶぶんぶん(8)

2017-12-13 | 歌帖
  『詩経』意訳ノート(8)


  56 「考槃」(衛風)

 考槃在澗
 碩人之寬
 獨寐寤言 
 永矢弗諼
 
 考槃在阿
 碩人之薖
 獨寐寤歌
 永矢弗過
 
 考槃在陸
 碩人之軸
 獨寐寤宿
 永矢弗告


  たのしきかなや

 たのしきかなや谷のあひ
 人はおほらかなるが好し
 ねてさめてのちひとりごつ
 これを忘るることなかれ

 たのしきかなや丘の上
 人はおだやかなるが好し
 ねてさめてのちくちずさむ
 これを失ふことなかれ

 たのしきかなや高き原
 人はおほどかなるが好し
 ねてさめてのちまたねむる
 これを誰にも言ふなかれ


 
 
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ぶぶんぶん(7)

2017-12-05 | 歌帖
  『詩経』意訳ノート(7)


  233 「苕之華」(小雅 魚藻の什)

 苕之華
 芸其黄矣
 心之憂矣
 維其傷矣

 苕之華
 其葉青青
 知我如此
 不如無生

 牂羊墳首
 三星在罶
 人可以食
 鮮可以飽


  のうぜんかづら

 のうぜんかづら
 その花きいろ
 心は重く
 胸は砕ける

 のうぜんかづら
 その葉はみどり
 この世のつらさ
 生きるむなしさ

 やせた羊と
 からつぽの梁
 生きたところで
 どこへ行けるの


 
 
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