音信

小池純代の手帖から

十喩詩 2 かげろふ

2020-01-17 | 日記
空海「十喩詩」より

   二 詠陽燄喩

  
  遅遅春日風光動 陽焔紛紛曠野飛
  挙體空空無所有 狂兒迷渇遂忘帰
  遠而似有近無物 走馬流川何処依
  妄想談義仮名起 丈夫美女満城囲
  謂男謂女是迷思 覚者賢人見則非
  五蘊皆空真実法 四魔與仏亦夷希
  瑜伽境界特奇異 法界炎光自相暉
  莫慢莫欺是仮物 大空三昧是吾妃



翻案八首
    かげろふ

はるの日の風の光のゆるゆるとふるふると野にもゆるかげろふ

そらのほかになにもなけれど迷ひつつ狂ひつつ子は帰らざりけり

走る馬流るる川のひとすぢを掬ひてむすぶむすびて放つ

うつろひのうはの空吹く風のうろそこにひしめくうつくしきひと

たをやめもうすものとしてみやびをもうすものとしてゆらりぬぎすつ

きよらなるそらのまなこにみづみづとほとけほどけてまものたまもの

かげろふもかげもほのほもふたつなきかたちにたちてたちてくづるる

かりそめのそめはそむしむしみとほりしみわたりのちすみわたるかな





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十喩詩 1 まぼろし

2020-01-12 | 日記
空海「十喩詩」より

    一  詠如幻喩


  吾観諸法譬如幻 惣是衆縁所合成
  一箇無明諸行業 不中不外惑凡情
  三種世間能所造 十方法界水蓮城
  非空非有越中道 三諦宛然離像名
  春園桃李肉眼眩 秋水桂光幾酔嬰
  楚沢行雲無復有 洛川廻雪重還軽
  封著狂迷三界熾 能観不取法身清
  咄哉迷者孰観此 超越還帰阿字営



翻案八首
     まぼろし


なにもかもまぼろしゆゑにまぼろしのごとしと言へるものなにもなし

惑へどももどれないまま迷ひをり明けない夜と暮れない夕べ

見るものと見らるるものがみつめあふ水の面の蓮 水の上の城

なづけずによばずに去るにまかせてむわたくしといふこのみづしづく

春の桃 秋の水 手につめたくて 月を呑んだはあれいつのこと

をみなごのかたちの雲がをみなごのにほひの雪をふらせをりけり

ただ狂へ一期の夢のそののちの末期の水のうましくるほし

くらきよりくらきところへうつるかななんのはじめやなんのをはりや






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