音信

小池純代の手帖から

雑談60

2024-04-03 | 雑談


 あたらしき墓立つは家建つよりもはれやかにわがこころの夏至
                  塚本邦雄「幼帝」『緑色研究』


最近、この歌がとても現実的に感じられる。
数十年前にはシニカルでアイロニカルで毒のある歌だと思っていた。
いまはむしろ心象および事象を写実的に表現している歌だと思う。
所謂「魂のリアリズム」って、もしや、これか、とさえ思う。

あたらしい墓とはほんとうに、あたらしい家のことなのだ。
墓石に「なになに家」とあるのは伊達ではない。
はれやかなのも嘘ではない。深い安息と清々しさがある。
そんなことを思う年頃になった。

あたらしい住処を星や月や heavenly bodyに見立てるのも、
また晴れやか。

 天體は新墓のごと輝くを星とし言へり月とし言へり 
    にひはか           葛原妙子「薄暮靑天」『鷹の井戸』








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