音信

小池純代の手帖から

うたつらね 4

2019-03-17 | 日記


桜が咲き始めた。

  命二つの中に生きたる桜かな    芭蕉

※この「命」をずっと生者のいのちと死者のいのちだと 
 思っていた。
 ところがそうではなくて、芭蕉が近江の水口で土芳と
 再会したときの句なのだそうで、
 「水口にて二十年を経て故人に逢ふ」の前書きがある。
 この「故人」は「旧友」の意味。

  太刀は稲妻萱穂のさやぎ     *ルビ:稲妻萱穂 いなづまかやほ 
  獅子の星座に散る火の雨の    *星座   せいざ       
  消えてあとない天のがはら    *天   あま 
  打つも果てるもひとつのいのち        
                (宮沢賢治「原体剣舞連」より)

※「命二つ」から「ひとつのいのち」へ。
 この前の連に「打つも果はてるも火花のいのち」がある。
 太刀を切り結ぶ者が協力して火花を生んでいるようで
 戦闘シーンを模した剣舞ながら、めでたい。 

  別のかたちだけど生きてゐますから   小津夜景

※森羅万象、草木国土悉皆成仏の囁きを拾ったら、こんな声かも。 
 あらゆる季語が春夏秋冬の冠を外して、物象や天象のガウンを
 脱いでくつろぐ楽屋での会話とか。
 あるいは、モナドとモナドがこっそり交わし合う消息文とか。

  モナド越しイデア殺しの夜は更けて   小津夜景




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