音信

小池純代の手帖から

日々の微々 231019

2023-10-19 | 歌帖
  231019


  ・大雪三首・

     閉塞成冬*そらさむくふゆとなる

  いちめんのそら張りつめて裂けにけり散りにけり降りにけり粒雪


     熊蟄穴*くまあなにこもる

  冬の夜の闇とろとろの神となり神まるまるの熊として眠る


     鱖魚群*さけのうをむらがる

  水上へなにたのしくてのぼる魚おまへもおまへも神のたべもの
   水上:みなかみ
    


                       






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雑談57

2023-10-14 | 雑談



・近詠一首・

 目に胸に沁みこんでくる大春車菊をこぼさず還す天体宇宙のなかへ
              大春車菊:コスモス    天体宇宙:コスモス



 †††


 『香貫』本体とカバー

玉城徹『香貫』の終盤に、

 幾夜さの夢の断片にかざられてわれ在り古き櫃のごとくに
        断片:ちぎれ           櫃:ひつ


の一首あり。「あとがき」に次の一齣(ひとくさり)あり。

雑誌掲載時「断片」にルビはなかったそうだ。
で、美学者の佐々木健一氏が作者に読みを問うた。
作者は「ダンペン」と答えた。
それでは音が強すぎないかと佐々木氏は「かけら」を提案した。
「かけら」ではいささか軽いと作者は考え、歌集に収める際に
「ちぎれ」とルビを振ったのだという。

このやりとりは『短歌朝日』(1999年10・11月号)の対談
「二十世紀短歌の定型(一)」に詳しい。
茂吉の「いまだうつくしき虹の断片」の「断片」に
触れたりもしている。

「あとがき」では「ちぎれ」は「まだ試案の域を出ない」、
「はたしていかがであろう。」と読者にボールを投げている。
推敲半ばということなのか。

なにしろ夢の感触なのだから作者にしか分かるまい。
しかしお尋ねなのでお応えする。

初案どおり「だんぺん」と振ればいいのではないかと思うが、
別案として「きれはし」「はぎれ」、ちょっと思い切って
「ぶぶん」などいかがであろうか。「ちぎれ」になった段階で
ルビの可動領域が相当広くなったと思うので。









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日々の微々 231009

2023-10-09 | 歌帖
  231009


  ・小雪三首・

     虹蔵不見*にじかくれてみえず

  光濃く色あざらけき冬の虹つかのま見ゆる天の臓器
                         天:そら 臓器:オルガン



     朔風払葉*きたかぜこのはをはらふ

  風が来てなにも盗らずに去つてつた空の卓布のはためきは無垢


     橘始黄*たちばなはじめてきばむ

  星を捥ぐ代はりにわたしは橘を大層きつい宇宙の香りを
                         宇宙:そら




                        






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日々の微々 231004

2023-10-04 | 歌帖
  231004


  ・立冬三首・

     山茶始開*つばきはじめてひらく

  まんまるの椿のつぼみはつかなる身ぶるひひとつしてのち弛ぶ


     地始凍*ちはじめてこほる

  凍土をみしみしと踏むさくさくと歩くさみしくつよく啼く土
   凍土:いてつち



     金盞香*きんせんかうばし

  夜のいろ冬空のいろくらい部屋ひとりでしんとしてゐた水仙

 
                        






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