音信

小池純代の手帖から

雑談52

2023-03-26 | 雑談
玉城徹『近世歌人の思想』は定価九〇〇〇円。
買うときは勇気が要ったが、長年何度も立ち返って
数々の隘路から抜け出したり、また迷い込んだり。
じゅうぶん元はとれたと思う。

十回開けば九〇〇円、
百回開けば九〇円。
買っておいてよかった。今回はこんな詩に目が
とまった。

     うま酒の歌   賀茂真淵

  うまらに をやらふるかねや
  ひとつきふたつき
  ゑらゑらに たなそこうちあぐるかねや
  みつきよつき
  ことなほし こころなほしもよ
  いつつきむつき
  あまたらし くにたらすもよ
  ななつきやつき



出だしの「うまらにをやらふるかねや」が古すぎる
古語でつまずきそうになるが、古語辞典でなんとか
立ち直って読んでゆくと声のいい民謡歌手が朗々と
歌っているような明るさ。詩で歌で詞で唄なのだ。

国会図書館のデジタルコレクション『賀茂真淵集』
(昭和四年)の「美酒の歌」では分かち書きではなく、
読点を打っている。さらに漢字でルビが振ってある。
その漢字を新字で拾ってみる。

  美飲喫哉 
  一杯二杯 
  楽悦掌底拍挙
  三杯四杯 
  言直心直 
  五杯六杯 
  天足国足
  七杯八杯

だいたい次のような内容。難しい話ではない。

 おいしくいただいてます。
  一杯二杯。
 たのしくてうれしくて諸手を挙げて叩いてしまう。
  三杯四杯。
 ことばもまっすぐ、心もまっすぐ。
  五杯六杯。
 天も満足、国も満足。
  七杯八杯。


どんないいことがあったのだろう。








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