臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

「脳死」は人の死ではありません。「脳死」からの臓器摘出に反対します。臓器移植以外の医療の研究・確立を求めます。

改定臓器移植法に関する申し入れ

2009-12-23 18:32:52 | 声明・要望・質問・申し入れ

2009年12月22日

 厚生労働大臣                    長妻昭殿
 厚生労働省健康局 局長            上田博三殿
 厚生労働省健康局臓器移植対策室 室長 峯村芳樹殿

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク
事務局長 川見公子

改定臓器移植法に関する申し入れ

 

 わたしたち《臓器移植法を問い直す市民ネットワーク》は、第171国会で成立した改定臓器移植法を問い直すために結成した市民団体です。「脳死」と診断された子どもと生活する家族、人工呼吸器をつけた子の親の会、全国交通事故遺族の会、宗教法人、医療従事者、障害者団体、患者団体、学生、主婦などの個人・団体で構成しています。
 わたしたちは「脳死」を人の死とすることに反対します。人の死としてはならない多くの事実が存在します。にもかかわらず第171国会では、こうした事実がほとんど検討されることなく法改定が行われてしまいました。
 現在、厚労省は小児脳死判定基準作成のための研究班や作業班を立ち上げ、来年7月17日の改定臓器移植法の施行に向けて作業を進めています。しかしその前に、脳死で長期に生存する事例や「小児の脳死判定」方法の問題点など、まず事実を確認するべきであると思います。
つきましては以下の項目について要望と質問を申し入れますので、回答いただけますようお願いいたします。

【項目】
[要望]Ⅰ 長期脳死生存例の実態調査と報告について
Ⅱ 83例の脳死・臓器移植に関する検証結果の公表について

[質問]

Ⅲ 改定法で「脳死は人の死」としたことについて
Ⅳ 脳死判定に係る事項に関して
(1)脳死判定後の長期間生存例について
(2)脳死判定の不確実性について
(3)その他、判定基準を否定する例について
(4)無呼吸テストについて
(5)中枢神経抑制剤の影響下にある患者の脳死判定について
Ⅴ 臓器移植以外の場面で「脳死=人の死」ではないことの担保について
Ⅵ 被虐待児の見極めについて
Ⅶ 脳死を経由した心停止後の臓器提供について


[要望]
Ⅰ 長期脳死生存例の実態調査とその報告について

 1999年に旧厚生省が小児の長期脳死例をまとめた報告書を出し、それ以降も日本小児科学会倫理委員会の調査報告や医学論文が出されています。これらを含めこれまでの長期脳死生存例を調査し、厚労省研究班としての報告書をまとめてください。


Ⅱ 83例の脳死・臓器移植に関する検証結果の公表について

 これまで脳死からの臓器移植が83例行われていますが、本年6月の時点で検証結果が公表された事例は34例に過ぎません。「ドナーの遺族の承諾が得られない」との理由で多くが非公開となっています。個人情報に係る点を伏せての公表は可能と考えます。原因疾患も含めて公表してください。


[質問]
Ⅲ 「脳死は人の死」としたことについて

 改定臓器移植法では法の枠内に限り「脳死は人の死」と規定されました。これまでは「全脳が不可逆的機能停止に至ると、身体の有機的統合性が失われ、数日以内に心停止する」、したがって「脳死=人の死」であるとされてきました。しかし、移植大国アメリカでさえこの論理は破綻したといわれています(『死の判定に関する論議-大統領生命倫理審議会白書』2008年12月)。体温を保ち、脈を打ち、第二次性徴を迎え成長し続ける長期脳死者の存在は、この有機的統合性を核とする科学的根拠の破綻を示しています。この点について、国会では十分な議論が行われず「脳死=人の死」とされました。これについて、厚労省はどのように考えますか?見解を示してください。


Ⅳ 脳死判定に係る事項に関する質問
(1)脳死判定後の長期間生存例について

  厚生省の『小児における脳死判定基準に関する研究報告書』(2000年:小児における脳死判定基準に関する研究班 主任研究者 竹内一夫 杏林大学名誉教授)では、無呼吸テストと神経学的検査各2回以上を実施した20例において、7日以上生存が14人(70%)、30日以上生存が7人(35%)、報告されています。
①「脳死判定」後にこの20例にどのような治療が行われたのか、詳細な記録を明らかにしてください。
②この20例について、身体の有機的統合性が失われていると考えますか?お答えください。

(2)脳死判定の不確実性について
 次の3つのケースに関して、以下の質問にお答えください。
*広島大学:3ヵ月男児は、脳死判定の3日後に脳血流、6日後に聴性脳幹反応が再開した。脳死判定後22日間生存(『日本救急医学会雑誌』8巻6号P.231~236、1997年)。
*大阪大学:3ヵ月女児は、脳死判定から40日後に自発呼吸が出現した。脳死判定後69日間生存(『日本救急医学会雑誌』2巻4号P.744~745、1991年。Pediatrics vol.96,no.3 P.518~520、1995年)。
*兵庫医科大学:11ヵ月男児は第15病日に無呼吸テスト実施。抗利尿ホルモンを中止したが心停止せず身長が8センチ伸びた。脳死判定後312日間生存(『日本救急医学会雑誌』11巻7号P.338~344、2000年)。
①上記3例について、「脳死判定」以前および以後の詳細な治療経過について明らかにしてください。
②上記3例は、厚労省の「脳死判定基準」を否定するものであると考えますが、見解を示してください。

(3)その他の、判定基準を否定する例について
 以下の5例は、いずれも厚労省の判定基準を否定する実例であると考えられます。見解を示してください。
*公立高畠病院:11歳男児は1993年11月に厚生省脳死判定基準を満たしたと考えられた後に、1994年3月以降に脳波、聴性脳幹反応、自発呼吸あり(『日本小児科学会雑誌』99巻9号p.1672~p.1680、1995年)。
*大阪府立病院:5歳11ヵ月男児は無呼吸テスト実施、厚生省基準を満たした後5日後まで視床下部ホルモン分泌を確認、17日後にCTで脳血流が確認された(『日本救急医学会雑誌』4巻p.655、1993年)。
*大阪労災病院:虐待で頭部打撲の3歳女児は、脳死判定から18日目に脳波・聴性脳幹誘発電位で反応がみられた。脳死判定後30日間生存後に治療は中止され死亡(『大阪小児科学会誌』25巻2号P.8、2008年)。
* 岐阜県総合医療センター:心肺停止にて出生の女児は、小児脳死判定基準を満たした。CT、MRIにより大脳の不可逆的変性が示唆される一方で、生後1年での内分泌学的検査は正常であった。体重・身長が増加した(『日本周産期・新生児医学会雑誌』43巻2号P.463、2007年)。
*奈良県立奈良病院:重症新生児仮死の女児は、小児脳死判定基準(暫定基準案)に基づき脳死判定した。脳死判定後13日後に脳波と痛み刺激に反応した、17日後に脳幹部血流再開、脳死判定後43日間生存(『日本新生児学会雑誌』35巻2号P.290、1999年。 『脳死・脳蘇生研究会誌』12巻p49~p50、1999年)。

(4)無呼吸テストについて
 厚労省基準は、動脈血に溶け込んでいる炭酸ガスの圧力(動脈血二酸化炭素分圧)が60mmHg以上になっても自発呼吸をしなければ無呼吸テストを終了してよいとしていますが、この閾値とされた60mmHgを越えてから呼吸をした下記の患者の報告について伺います。
①以下の事例が示すことは、無呼吸テストでは、自発的な呼吸運動の有無を確認することはできないと思いますが、厚労省の見解を示してください。
【事例】
*1~2:日本大学付属病院では2例、64.7mmHgと72.2mmHgで自発呼吸をした(『脳蘇生治療と脳死判定の再検討』、p.97、2001年)。
*3:帝京大学医学部附属市原病院では、59歳女性が66.4mmHgで自発呼吸をした(『日本救急医学会関東地方会雑誌』8巻2号p.524~525、1987年)。
*4:京都大学付属病院では、86mmHgで自発呼吸をした(『麻酔』37巻10号臨増S66、1988年)。
*5:米国ワシントンDCのChildren's National Medical Centerでは、3歳男児が91mmHgで自発呼吸をした。同日2回目の無呼吸テストでは71mmHgで呼吸をし、その後数日間は人工呼吸の設定を超えて規則的な自発呼吸を始めた。現在、患児は気管切開と胃ろう造設がなされ慢性病棟で介護されている(Critical care medicine vol.26,no.11 p.1917-p.1919、1998年)。
*6:日本医科大学付属病院では、肺胞内二酸化炭素分圧が100mmHgを超えてから自発呼吸をした(人工呼吸器装着時の連続測定で肺胞内二酸化炭素分圧の最高値は、動脈血二酸化炭素分圧よりも1~5mmHg低いとされる。(『救急医学』12巻9号S484、1988年)。
*7:米国ニュージャージー州のCooper Hospitalでは、3歳女児が1回吸気を呈した。その時の動脈血二酸化炭素分圧は112mmHgだった(Journal of child neurology vol.10 no.3 p.245-p.246、1995年)。
*8:公立昭和病院では、呼吸刺激薬ドキサプラムを併用した無呼吸テストで動脈血二酸化炭素分圧119.6mmHgで呼吸をした(『脳死・脳蘇生研究会誌』10巻p.64-p.66、1997年)。
 特に米国ワシントンのChildren's National Medical Centerで、3歳男児が無呼吸テストにともなって自発呼吸を開始し、その後数日間は規則的な自発呼吸を行ったことは、無呼吸テストの限界を明確に示していると思われます。

②そもそも無呼吸テストは、患者にダメージを与える可能性があり、まして血中二酸化炭素濃度を今以上に上げれば、そのダメージはいっそう強いものになります。このような検査はやめるべきだと考えますが、厚労省の見解を示してください。

(5)中枢神経抑制剤の影響下にある患者の法的脳死判定について
 脳死判定の対象外とすべき中枢神経抑制剤の影響下にある患者に脳死判定が行われています。脳血流がある時に、高濃度の薬物が脳の中に溜まり、その後脳血流が低下したら,その薬物はずっと脳の中に残存し続けている現象によって、血液中の薬物濃度と,脳組織内の薬物濃度が同じではない=乖離する現象が報告されています(高知医科大学 守屋文夫「脳死者における血液および脳内の薬物濃度の乖離」〈『日本医事新報』4042巻 2000年〉他)。
検証作業ではこの現象を考慮せず、中枢神経抑制剤を投与した患者への脳死判定を正当としています。以下の事例はこれまでに行われた82例の法的脳死判定の中で検証会議報告書または医学文献で中枢神経抑制剤の使用が報告されているものです。これらは脳死判定の対象外としなくて良いのか、厚労省の見解を示してください。
 [事例]
1例目(高知赤十字病院) 2例目(慶応大学病院) 3例目(古川市立病院)
10例(市立函館病院)   11例目(昭和大学横浜市北部病院救急センター)
31例目(神戸市立中央市民病院) 33例目(聖隷三方原病院)
34例目(横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター)
43例目(帝京大学医学部附属病院) 
47例目(帝京大学医学部付属市原病院-現在は帝京大学ちば総合医療センターに改称)

 

Ⅴ 臓器移植以外の場面で「脳死=人の死」ではないことの担保について
(1)国会審議の中で提案者は「臓器移植以外の場面における脳死判定によって、当然に脳死が人の死として取り扱われることになりません」(2009年6月5日衆議院厚生労働委員会 冨岡勉議員)と答弁しています。これは制度的にはどのように担保されるのか、具体的施策を示してください。
(2)第45回日本移植学会総会(2009年9月16日~18日開催)では、参加した医師たちに、「今回の臓器移植法では、脳死=死は臓器移植の現場で適用されるものであるが、皆さまにおかれましては、おしなべて『脳死=死』ということでお願いしたい」(島崎修次 日本救急医療財団 理事長)と脳死が一律に人の死であることを医療現場で積極的に適用するよう、呼びかけられています。この発言は国会審議を反故にするものです。このように、改定法施行前から、なし崩し的な暴走が始まっています。厚労省は日本移植学会に対して勧告すべきと考えますが、如何ですか。

Ⅵ 被虐待児の見極めについて
(1)改定臓器移植法(検討)で「虐待を受けて死亡した児童から臓器が提供されることがないよう、適切に対応し、必要な措置を加える」(附則第三項関係)ことになっています。しかし以下に示すように、アメリカでは多くの被虐待児がドナーとされています。そのような事態にならないよう被虐待児をどのようにして見極めるのか、方策を示してください。
アメリカのデータでは、小児のドナーの多くが「児童虐待」によるものです。2008年には、1歳未満でドナーとなったのは114人、うち「死の状況」の「児童虐待(child abuse)」が46人で、1歳未満ドナーの40%を占めています。また、1歳から5歳ではドナーとなったのは221人で、そのうち「児童虐待」が62人、28%を占めています(OPTN: Organ Procurement and Transplantation Networkのサイトより)。

(2)小児を臓器提供者とした「心停止後」と称する臓器摘出がドナー数の推計で約200例行われてきましたが、被虐待児対策はどのように行われてきたのか明らかにしてください(心停止後と称する小児からのヤミ脳死臓器摘出についてはhttp://www6.plala.or.jp/brainx/pediatric_harvest.htmに資料をまとめてあります)。

Ⅶ 脳死を経由した心停止後の臓器提供について
(1)心臓が停止した直後の臓器提供のなかで、脳死を経由しながら法的脳死判定が行われないケースが多数あります。このようなケースについても臓器提供に係る検証作業の対象とすべきと考えます。厚労省の見解を示してください。
(2)臓器提供者への生前のカテーテル挿入や臓器摘出目的の投薬(ヘパリン等)は違法性が阻却されない生前処置でかつ患者の人権に対しての侵襲性が高いことは、関西医科大学事件判決(大阪地裁 1998年6月判決確定)でも言及されていることです。したがって、第二回法的脳死判定が終了して脳死が確定した後でなければ行えない処置です。ところが厚労省は、「心停止後」と称する臓器提供において、臓器提供者への生前のカテーテル挿入や臓器摘出目的の投薬(ヘパリン等)を、一般的脳死判定の後に行うことを許容しています。これらの違法性が阻却されない生前処置が、なぜ法的脳死判定手続きを不要(=臓器提供者への死亡宣告を不要)としているのか見解を示してください。
(3)1960年代後半以降、現在まで行われてきた上記のような「心停止後」と称するヤミ脳死臓器摘出の実態を明らかにしてください。

以上

 

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク
連絡先住所:〒169-0051 新宿区西早稲田1-9-19‐207 日本消費者連盟気付
電話:03(5155)4765   携帯:080(6532)0916

〈賛同団体〉(あいうえお順、11月18日時点)
医療被害・薬害をなくすための厚生省交渉団
医療労働運動研究会
医療を考える会
関東「障害者」解放委員会
関西「障害者」解放委員会
現代医療を考える会
宗教法人・大本
人工呼吸器をつけた子の親の会(バクバクの会)
全国肝臓病患者連合会
全国交通事故遺族の会
全国「精神病」者集団
全国遷延性意識障害者・家族の会
東京女子医大被害者連絡会
日本消費者連盟 
日本の医療の流れを変える会
「脳死」・臓器移植に反対する関西市民の会
脳死・臓器移植に反対する市民会議
反優生思想の会
保安処分に反対する有志連絡会

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