臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

「脳死」は人の死ではありません。「脳死」からの臓器摘出に反対します。臓器移植以外の医療の研究・確立を求めます。

第18回市民講座講演録(2023年5月14日) 2-2 事務局からの報告

2023-08-11 13:24:32 | 集会・学習会の報告

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第18回市民講座講演録(2023年5月14日)2-2

事務局からの報告

 

 

 厚労省は2023年7月より、「脳死が強く疑われる患者の毎月の人数を医療機関から日本臓器移植ネットワークに報告する新制度の試験運用」を始めました。ドナー拡大の為の施策を次々に展開する厚労省。では、実際の臓器移植現場は?その実態について事務局の守田憲二さんが報告しました。以下に、当日の資料を掲載いたします。

 

 

 

「脳死見込みの 71 例当たり 1 例は誤診、作られる脳死、命の選別の実態」(守田憲二)


 脳死または心臓が停止した死後に臓器提供が検討されるドナー候補者において、心臓死が不可避との予測の誤り、または脳死見込み、脳死判定の誤りが、ドナー候補者数の何例に1例発生しているのか検討しました。情報源は臓器移植法を問い直す市民ネットワークが作成した冊子“「脳死」って本当に死んでいるの?「臓器移植推進」って本当に大丈夫?”の5ページから7ページ「各国で脳死ではないことが発覚」の段落に掲載している情報です。(以下5月14日から一部の表現を変えています)
 韓国では5年間の潜在的脳死ドナー8120例のうち1232例が脳死ではなく、さらに親族から脳死臓器提供の承諾を得た2718例のうち33例が脳死ではなく、さらに実際の脳死臓器提供者2400例のうち1例が脳死ではありませんでした。累計で1267例に誤りがあり、これは6.4人に1人(1267/8120)の脳死疑いを誤ったことになります。東京都では22年間に臓器移植コーディネーターが424例のドナー情報を受けて、患者家族341例に脳死後および心停止後の臓器提供について説明したが、このうち5例が植物状態に移行し臓器提供の承諾を得られず、さらに家族が臓器提供を承諾した後に1例が植物状態に移行したため臓器提供に至らなかった(植物状態に移行した時期が不明確なため、スライドでは臓器提供の承諾後と臓器摘出直前の両方に掲載しています)。累計では6例に誤りがあり、これは70.7人に1人(6/424)の死亡予測を誤ったことになります。厚労省資料の「ドナー情報の分析」は、日本全国で5年間に家族から臓器提供の承諾を得られた573名のうち、7名について臓器提供に至らなかった理由を「その他」としています。「その他」が何なのか記載されていませんが573名中7名、1.22%は韓国とほぼ同率です。テヘランでは685人からの脳死臓器摘出直前に1人が脳死ではなかったと発覚したことは、臓器摘出施設に移送された臓器摘出直前のドナー候補者なので誤診が少ないのは当然でしょう。スタンフフォード大の臓器摘出チームが、脳死臓器摘出に出動したのに「早すぎた脳死判定」のため約1%も引き返したのは粗雑な脳死判定が多いためと推測します。

 

 

脳死判定前から患者家族の承諾なしに行われてきた命の選別=臓器提供を見据えた患者管理


 脳死判定を誤ったとの情報があったら、他に誤診していたけれども最後まで発覚しなかった患者がいた可能性、そしてドナー候補者そのものが人為的に発生させられている可能性も検証すべきです。2004年に神戸大学医学部附属病院の鶴田早苗副院長・看護部長は次のように書いています。「筆者は以前勤めていた大学病院で20年前も死亡後の死体臓器移植(主に腎臓移植)にかかわっていました(集中治療室、手術室において)。もちろん“脳死による臓器移植”法のできるずっと前のことです。この時、ドナー側の治療に当たる救急医や脳外科医とレシピエント側の移植医の考え方の違いや移植の進め方に倫理的な問題を感じていました。今は現場の細かなことに直接関与はしていませんが、伝わってくる臨床現場の話のなかで“根本的に今も変わっていないなあ”と思うことがあります。(中略)脳死移植医療においては、例外はあっても、移植医にとっては実績を積んでいくことは重要であるし、一方で脳死判定を受けるドナー側は納得のいく尊厳死のプロセスをとりたいと考えます。移植医にとっては移植できる可能性があれば、脳死判定前からその準備(循環動態のコントロール等)をしていくのは常識であり、そうしなければ成功しません。数日前から情報は飛び交います。しかし表向きはプロトコールにそった移植の流れで進められます。ドナーやレシピエントの家族は、当然このような舞台裏は知る由もありません」(鶴田早苗:高度先進医療と看護、綜合看護、39(4)、47-50、2004)
 2022年3月に日本救急医学会など6学会と日本臓器移植ネットワークは「臓器提供を見据えた患者評価・管理と術中管理のためのマニュアル(以下では同マニュアルと記す)」を公表しました。同マニュアルは、「臓器提供の可能性がある脳死患者管理」について、治療チームが“救命は不可能”と考える場合、患者家族が治療の結果を受け入れ終末期の方針を決定するまでに、多くの臓器が提供できる様に、少しでも良い状態で移植患者につなげる様に患者管理を行う、として臓器提供目的での各種薬剤の投与、各種検査や処置を推奨しています。同マニュアルの研究協力者である渥美医師は「脳保護のための治療では、浸透圧利尿薬を用いて血管内容量を下げ、できるかぎり頭蓋内圧を下げるべく管理する。しかし、臓器保護のためには十分に補液し臓器血流を維持するという、補液の観点からすると真逆の管理を行うことになる」(渥美生弘:臓器提供に関する地域連携、救急医学、45(10)、1270-1275、2021)としていますので、臓器提供を見据えた患者管理が脳保護に反することは明らかです。医師が重症患者について「治療しても重大な後遺症が残りそうだ、再び納税者として復帰できない確率が高い」と判断した場合に、患者本人の意思推測や患者家族への説明・承諾もなく、医師が「臓器を提供して死んでもらったほうがよい」と命の選別を行う、そのような病院を増やすことにつながるマニュアルと懸念しています。
関西医科大学総合医療センターは「脳死ドナー管理経験と蘇生医療の進歩の中でカテコールアミン・抗利尿ホルモン使用により小児・若年者の脳不全長期生存例を経験した」と報告しています(岩瀬正顕:当施設での脳死下臓器移植への取り組み、脳死・脳蘇生、34(1)、43、2021)。移植用臓器を確保する目的で医療従事者が行う処置により、人為的に脳不全を悪化させられて臓器提供を医学的に強要された医原性脳死患者だけでなく、医原性意識障害患者までも発生させ続けているのでしょう。

 


日本臓器移植ネットワークは、本来のあるべきインフォームド・コンセントができない


 生命が危ぶまれる患者の救命に反する処置をすることは傷害です。医師が患者を傷害した後に、そのことを隠して患者家族に臓器提供の選択肢を提示することは、犯罪の隠蔽として厳禁すべきです。
 ここで人体組織を収集している3つの機関のドナー候補者に向けた説明用文書を比べます。
日本赤十字社は「献血の同意説明書」のPDFファイルを同社サイト内で公開しており、献血に伴う副作用等について頻繁に発生する「気分不良、吐き気、めまい、失神などが0.7%(約1/140人)」から、滅多に発生しない「失神に伴う転倒が0.008%(1/12,500人)」まで書いています。
日本骨髄バンクも“ドナーのためのハンドブック”のPDFファイルを同バンクサイト内で公開し、骨髄採取、麻酔に伴う合併症と重大事故を記載しています。死亡例について国内骨髄バンクでは2万5千例以上の採取で死亡事故はないが、海外の骨髄採取で5例、日本国内では骨髄バンクを介さない採取で1例、計6例の死亡例があることを知らせています。
日本臓器移植ネットワークは臓器提供候補患者の家族に提示する文書「ご家族の皆様にご確認いただきたいこと(以下「ご確認いただきたいこと」)」を同ネットワークサイト内で公開していません。しかし2022年9月発行の単行本「臓器移植におけるドナーコーディネーション学入門(へるす出版)」が「ご確認いただきたいこと」を掲載しているので確認できます。この文書は、心臓死予測を誤る確率、脳死判定の誤診率を示していません。医師が患者家族に「脳死とされうる状態なので心停止は避けられない可能性が高い。法的脳死判定を行ったら診断が確定します」と説明する時に「この診断は80例~245例あたり1例は間違える」と言うと臓器を提供する人が皆無になるからでしょう。


 〈質問への回答〉
 チャットに質問「『詐術としてのインフォームド・コンセント』とは、ドキッとする表現。そうでないものにするにはどうしたらいいでしょうか」をいただきました。
 私は、社会の構成員に対する情報提供が正しく行われる・インフォームドされたならば、現在の死後(脳死または心臓死)の臓器提供を許容する法律は制定できなかったと見込みます。立法に至らない、社会に許容されない行為ならば、医療としての存在も許容されないため、詐術を行う機会も生じません。心停止後の臓器提供を許容した角腎法、脳死臓器提供を許容した臓器移植法の制定が誤りだったと考えます。(守田)

 

 

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