テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

女と男の観覧車

2019-05-03 | ドラマ
(2017/ウディ・アレン監督・脚本/ケイト・ウィンスレット、ジム・ベルーシ、ジュノー・テンプル、ジャスティン・ティンバーレイク、ジャック・ゴア/101分)


 ウディ・アレンの作品は他の映画や小説にインスパイアされて作られたと思えるモノが結構あって、例えば「スコルピオンの恋まじない」はワイルダーの「アパートの鍵貸します」を思い出すし、「ギター弾きの恋」は明らかにフェリーニの「」とテーマが似てる。そして「ブルージャスミン」もテネシー・ウィリアムズの「欲望という名の電車」に触発されて作られたに違いない。
 この「女と男の観覧車」も何かにヒントを得たように見えるんだけどよく分からない。“義理の”とはいえ母親と娘が一人の男を取り合うっていうのは形だけに限定すると「卒業」だし、終盤の元女優と脚本家の卵との関係を見ると「サンセット大通り」も想起する。どっちも確信は持てないから多分僕の知らない何かなんだろうな。

*

 主な登場人物は四人。その中の一人NY大学生で劇作家を目指している青年ミッキーがこの物語の語り部となっていて、ナレーションと共に時々画面に向かって語りかけてくる。
 舞台は1950年代のNY州コニーアイランド。季節は夏。ミッキーは浜辺のライフセーバーのアルバイトをしていた。

 語り部のミッキーは今は寂れてしまっていると紹介したが、ヴィットリオ・ストラーロのカメラが描いたコニーアイランドはまさに避暑地として賑わっていた。
 ヒロインは公園内のレストランのウェイトレス、ジニー、39歳。ジニーの旦那のハンプティはメリーゴーランドの操縦係りで、二人は射的場の上にある部屋で暮らしていた。そこは元々見世物小屋だった建物だが、ハンプティが住居に改装して使わせてもらっているのだ。そして、二人は再婚同士。ジニーの連れ子の小学生リッチーは学校にも義父にも馴染まず、最近はあちこちのゴミに火を点けてはストレス解消しているという問題児だった。
 失意のバツイチ同士が互いを慰め合うようにして結ばれた二人なので、ハンプティはともかく、ジニーはまさに倦怠期真っただ中。おまけにリッチーの事があり片頭痛が絶えないのだった。
 そんな中、ハンプティの前妻との間に出来た娘キャロライナが父親を頼ってコニーアイランドにやってくる。
 父親の反対を振り切ってギャングの一員だった男と十代で結婚し、ハンプティとはもう5年も音信不通だった。病死をしたハンプティの妻(勿論、キャロライナの母親だ)が今際の際に『あのギャングとだけは駆け落ちしちゃだめよ』と言っていたのに、その言葉さえも無視して家を出て行った娘なのだ。
 ギャングに追われているという義理の娘を追い返すわけも行かず、家に連れてくるジニー。案の定、ハンプティは怒り狂ったが、心の底では再会を嬉しく思う所もあった。
 キャロライナの事情はこうだった。
 男とは離婚したんだが、その後警察にしつこく問われギャング団の内部情報を漏らしてしまったのだ。その事を知ったマフィアがキャロライナを抹殺すべく追っ手を差し向けてきたという事。着の身着のままでやってきたキャロライナ。親子の確執を知っているマフィアがここに来ることはない。キャロライナもハンプティもそう断言した。

 さて、ここでミッキーの告白があり、実はジニーとこの夏の初めに知り合い、只今不倫の真っ最中だという。
 落雷が懸念される人気のないある曇り空の浜辺で知り合った、詩人で劇作家の卵と元女優のアラフォー熟女。
 そう、ジニーは元々舞台女優だった。女優をしながらジャズドラマーと結婚し子供まで授かったのに、舞台で共演したハンサムな年下俳優と恋に落ち、それに気付いた夫が家を出たのだ。
 10歳以上の歳の差もなんのその、人妻との恋は初めてじゃないよとジニーの告白を意に返さないミッキーにのめり込むジニー。
 そんな中、避暑地に似つかわしくない厳つい男が二人、コニーアイランドに黒塗りの車でやって来る。マフィアだ。
 更には、ジニーと同じ店でウェイトレスを始めたキャロライナとミッキーが知り合う事になり、ジニーは義理の娘を見つめる恋人の視線にやきもきする。
 人間関係がややこしくなっていく予感と共に、不穏な空気が漂い始め、メロドラマは彼らの嘘や打算を隠しながらクライマックスへとなだれ込んでいく・・・。

*

 自分の過去を反省しながら、ちっとも未来の人生に生かしていないヒロインというのは「ブルージャスミン」と同じですな。
 秘密の恋人であるミッキーとキャロライナが知り合う事により、裏の三角関係ともいうべきややこしさが発生し、そこにマフィアが絡んでどんな悲劇が待っているかと想像しながら観てましたが、なんとも後味の悪い、人間の欲の深さを感じさせる結末になりました。終盤のケイトさんの演技は「ブルージャスミン」のケイトさんに負けていないですね。

 脚本も勿論アレンさん。相変わらず、軽快なジャズを伴奏に軽く語りながら、練られた台詞に人間の不可思議さが表現されています。
 同じシーンの中でも展開に合わせるように照明でムードを変えていくヴィットリオ・ストラーロのキャメラも素晴らしい。

 ハンプティにはジム・ベルーシ。若いジュノー・テンプルがキャロライナで、ジャスティン・ティンバーレイクがミッキーでした。





・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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