テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

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昔は梅雨が明けると待ちに待った暑い夏!と嬉しくなったもんですが、近頃はさっぱりですな。
この殺人的な暑さに恐怖すら覚えます。
梅雨が明けそうな今日この頃、願うのは曇り空と優しい雨のほうです。

オール・イズ・ロスト ~最後の手紙~

2015-01-02 | アクション・スポーツ
(2013/J・C・チャンダー:監督・脚本、フランク・G・デマルコ:撮影、ピーター・ズッカリーニ:水中撮影、ピート・ボドロー:編集、アレクサンダー・イーバート:音楽/ロバート・レッドフォード/106分)


 追っ手に追われて追われて、まさに崖っぷちの絶体絶命のピンチなのに最後の逃げ道の河になかなか飛び込めなかったカナヅチのサンダンス・キッドが、独りでインド洋をヨットで彷徨うなんてねぇ・・・。

*

 きっかけは大海に浮かんでいた漂流コンテナの角っこがヨットの横っ腹に穴を空けた事でした。
 そう、「ゼロ・グラビティ」と同じく公の場に流れ出した“ゴミ”が原因であります。
 7月のある日の夕方。ヨットの船室で横になっていて、突然ガツンと音がしたと思ったら、ザブザブと海水が・・・。
 
 スマトラ島から3000キロ以上離れたインド洋で、そんな事故が原因で積んでいた電子機器が壊れ、どことも連絡手段が無くなったヨットの独り旅の男が辿る、過酷な運命を描いたサバイバル物語であります。
 出演者はロバート・レッドフォードただ一人。クレジットの紹介は「Our Man(我らの男)」。男の名前も分からないし、ヨットの旅の目的も、どこから出発してどこに向かっていたのかも分からない。最後まで彼の人生の背景は語られないし、推測できるような情報も出てこない。
 オカピーさんの言葉を借りれば“純度の高い”ストーリーですが、も少し情報があったほうが、エンターテインメントとしては面白かったかなぁと思いますがね。
 
 しかも、冒頭に事故後8日目の男のモノローグが僅かに聞こえてくる以外台詞はほぼゼロというのも個性的です。前半で、壊れた無線機が一度微かに復活しかけて「SOS」を発信する時と、終盤に万策尽きて「くそーっ!」と叫ぶくらいしか男の声は聞こえてこない。つまり、映画のほとんどは無言の男がただひたすらにアクシデントに対処し、翻弄される様子が描かれるだけなのです。
 ある意味製作スタイルとしてのチャレンジでしょうか。大いにその精神は買いますが、個人的には内的モノローグなりが欲しかった気がしますな。男の頭の中に論理的な思考が流れていたのは明らかですから、説明過多に気を付けてれば、面白い台詞もあったと思うんですがね。

 お薦め度は★二つ半。おまけして三つというところでしょうか。
 ★半分のマイナスは、最初の事故で空いた船体の補修が、その後の嵐に備えるにしては中途半端だったこと。ベテランで用心深い男の処理にしては如何なものかと、素人目には見えたんです。
 それと、中盤以降の嵐の中でのヨットの転覆やら、救命ボートの転覆など、あれくらいで済むのかなぁと、これも素人の疑問でした。ボートの浸水の件のその後も?マークが付いちゃったかなぁ。

 <監督はデビュー作となる前作「マージン・コール」が各方面から高い評価を受けた注目の新鋭J・C・チャンダー。>(allcinemaの解説より)
 「マージン・コール」は ケヴィン・スペイシーやポール・ベタニー、デミ・ムーアなどが出演する大手投資銀行を舞台にした群像劇みたいで、「オール・イズ・ロスト」とは対照的。この監督はしばらく要注意ですね。

 2013年のアカデミー賞で音響賞(編集)にノミネートされたそうです。
 それにしても、老いたとはいえサンダンスキッドの体力には恐れ入りやした。





・お薦め度【★★★=一見の価値あり】 テアトル十瑠
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グラン・ブルー/完全版

2013-08-03 | アクション・スポーツ
(1988/リュック・ベッソン監督・共同脚本/ジャン=マルク・バール=ジャック・マイヨール、ジャン・レノ=エンゾ・モリナーリ、ロザンナ・アークエット=ジョアンナ・ベイカー/169分)


(↓Twitter on 十瑠 から

リュック・ベッソンの「グラン・ブルー」を観る。132分のつもりで観ていたら、2時間を過ぎた辺りで??DVDジャケットを観たら169分の完全版でした。長い!長すぎる!その後は早送りも交えながら鑑賞。allcinemaの解説氏はべた褒めだが、僕にはただ長すぎるのが気になっただけだが。
 [8月 2日(金) 以下同じ]

ドラマとしては緊張感もなく、男と女の葛藤としても、家庭に向かない男の夢を海に限定しただけで新味なし。コミカルな味のまま終わるのかと思ったら、神秘的な厭世的なムードにもって逝っちゃって・・・。大まかな筋書きは想定どおりだし、個々の緩急の急の部分の描写も大したこと無し。

つまりはお薦め度は★一つ。「お薦めしません」。途中までは★★と思ってたけど、あのラストを観ちゃったら、オリジナル・バージョンでもお薦めは出来ないかな。記憶に残ったのは、ロザンナ・アークエットのナイスバディだけ♪ 結局、ベッソンのベスト・フィルムは「フィフス・エレメント」だな。

*

実在のフリーダイバー、ジャック・マイヨールが主人公だが、本人は2001年に自殺で亡くなっているので、映画のドラマ自体はフィクションのはずだ。ジャン・レノが演じている友達でライバルのエンゾもエンゾ・マイオルカという実在のモデルがいる。

ジャックとエンゾは子供の頃にギリシャの海辺の町で知り合いになったように描かれている。一見同じ町の子供のように見えるが、エンゾはイタリア人という設定なので、たまたま遊びに来て知り合ったんだろう。この辺りも曖昧だった。

ジャックの父親は海産物を潜って獲るのが商売の、いわば男性版海女ちゃん。潜水ヘルメットに空気を送るホースが付いているが、ホースが外れるか破れるかで死んでしまう。ここまでのジャックの子供時代のエピソードはモノクロで描かれている。

ロザンナ・アークエットが扮するのは保険会社の調査員ジョアンナ。大人になったジャックの初登場が南米ペルーの湖で氷の下の何かを調べてる所で、その仕事上のトラブルが保険に関係していて、NYから保障の対象になるかどうかを調査に来たのがジョアンナという次第。彼女の一目惚れでした。
 [8月 3日(土) 以下同じ]

ジャン・レノの初登場は、海辺の海難事故か何かでダイバーが沈没船に閉じ込められていて、ダイバーの雇い主が救助を願い出るエピソード。エンゾはポンコツ車に乗って弟と二人で助けに行く。大金をせしめるわけだが、エンゾは既にフリーダイバーのチャンピオンという設定のようだった。

エンゾはジャックと勝負がしたいと思っていて、フリー・ダイビングのコンテストがあるタオルミナに誘う。このフリー・ダイビングのエピソードが全体のストーリーの軸になっているわけだけど、前夜祭とかも進行も含めて貧相な感じがした。

オリジナルバージョンにはなかったのかな、今回の完全版には日本人チームが出てきて、わいわい大騒ぎして、結局選手が可呼吸状態みたいになって棄権になっちゃうのが、日本人を馬鹿にしているみたいで気分悪し。出てるのもオジサンが多くて、でも、日本語の発音は自然だったな。

タオルミナの試合にジャックが出るのを偶然知ったジョアンナは、タオルミナに事故の案件が発生して調査に行かなければいけないと会社に嘘をついて出かける。この辺の展開も大雑把で、このいい加減な所と終盤のシリアスな部分との混在が味のあるミスマッチ感を出すでもなく、ただ馬鹿にされた感のみ。

「グラン・ブルー」もいわゆるカルトムービーの一つなんだろうか。allcinemaのコメントを見ても好きな人はとにかく好きって言ってるしそんな感じがする。海の色と、海に魅せられたジャックの神秘性に惹かれるんだろうな。中には惹かれたふりをする自分に酔ってる人もいるような気もするけど。

お薦め度を★一つと言っちゃったけど、冷静に考えると、★二つでもいいかなと。但し、オリジナルバージョンに限定しよう。そういいながら、多分オリジナルバージョンも再見することは無いと思うけどネ。作り手の自己満足に酔い過ぎな結末が気に食わん。





テアトル十瑠
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人には二つの人生がある ~ 「ナチュラル」

2011-06-04 | アクション・スポーツ
 バリー・レヴィンソン監督の「ナチュラル (1984)」を観てない方には“ネタバレ注意”です。というか、未見の方には良く分からない内容ではないかと。






『人には人生が二つあるわ。一つは何かを学ぶ人生、もう一つはその後の人生よ』


 どんな映画にも、それぞれに印象に残る台詞があるものですが、「ナチュラル」の中で僕の記憶に残ったのがコレです。
 映画の終盤で、急病で産婦人科病棟に入院したロイをアイリスが見舞った時に、16年前の事件は自分さえしっかりしていれば防げたはずと後悔している彼に対してアイリスが言った言葉です。

 最初に観た時は、これはロイの人生について言っているのだと思いました。16年前の事件で人生の歯車は狂ったかも知れないけれど、その後のあなたは、その失敗を教訓にして立派に立ち直ったじゃないのと言っているのだと。
 だけど、この入院だって、メモっていうバンプ(=男を惑わす妖婦)に毒入りチョコを知らずに食わされたのが原因なんだし、メモと懇ろになった時にはスランプにも陥っちゃってるから、16年後もまた女で躓きかけてるロイって全然過去に学んでないじゃん、なんて一人突っ込みたくもなっていました。

 しかし、再度この場面を観てみると、アイリスが言ったのはロイの活躍に影響されている子供たちの事を言っているのではないかと思ってきました。
 ロイはたくさんのMLBの記録を破れたのに自分の不注意でそれがふいになったと言ってるけど、それに対して、『記録はなくても記憶に残るわ』と言っている。つまり、もう若くはないロイの奇跡的な人生には、学ぶ人が沢山いると言ってるのではないかと。

 "I believe we have two lives. The life we learn with and the life we live with after that."

 原作を読めば何か分かるかも知れません。
 さて、ご覧になった方はどんな風に思われましたか?

 アイリスが自分の人生にとってかけがえのない女性であるというのは、(ロイは)学んだはずですけど・・。







[2011.06.13 追記]
 書店でも古本屋さんでも見つけられなかった原作本を図書館で借りることが出来、斜め読みで該当部分を探し、確認してみましたら、やはり最初に思った方が正解のようでした。
 つまり、ロイ・ハブスは過去の失敗に100%学んではいないという事になりますな。
 原作ではアイリスは幼なじみではなくて、ラストも映画のようにはハッピーエンドではありません。通読してないので推測ですが、この台詞は、映画では印象的に使われていますが、小説の中ではそれ程ではないのかも知れませんね。

 原作を読んだかどうかは分からないとブログには書いたけど、ツイッターでは「映画のストーリーは原作とはだいぶん違っていた、そんな記憶があるんだけど・・・」と呟いている。やっぱ、読んでいたのかも。
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ナチュラル

2011-06-03 | アクション・スポーツ
(1984/バリー・レヴィンソン監督/ロバート・レッドフォード、グレン・クローズ、ロバート・デュヴァル、キム・ベイシンガー、ウィルフォード・ブリムリー、リチャード・ファーンズワース、バーバラ・ハーシー、ロバート・プロスキー、ダーレン・マクギャヴィン、ジョー・ドン・ベイカー、マイケル・マドセン/138分)


 およそ25年ぶりの再会。ツイッターにも書いたように、レッドフォードを撃った女がバーバラ・ハーシーだった事もキム・ベイシンガーが出ていたのも忘れておりやした。野球の天才的な選手が世に出る直前に不幸な事件で挫折するも、三十代半ばにして再デビューを果たし、大活躍をするというストーリーは覚えていたのに。
 再見しながら思い出したのは、グレン・クローズを観たのがこの時が初めてで、レッドフォード扮するロイ・ホッブスの幼なじみで初恋の女性の役なのに、ちっとも美人じゃないと思ったこと。どうやらその辺でこの映画に与えられた記憶の容量が狭められたようです。

 バーナード・マラマッドの長編小説【The Natural(=邦題「汚れた白球」)】が原作。ツイッターには確か読んだはずと書いたけれど、あまり自信はない。十代の頃に読んだ「魔法の樽」という短編集が面白くて、何年も本棚に置いていたのでマラマッドの名前は知っていたし、映画が公開された頃に、レッドフォードがキャッチボールをしている映画のシーンを表紙にした翻訳本が本屋さんに並んでいたのを覚えているので、そんな気になっているのかも知れない。家の近くの書店やブック・オフにも行ってみたけれど、今は「魔法の樽」さえもなかった。「汚れた白球」はマラマッドの処女作との事でした。

*

 1920年代のアメリカ中部。ネブラスカの農場で暮らす少年ロイ・ホッブスは、野球好きの父親に愛され、その才能を認められていたが、父親は若くして急死する。死後しばらくして、父親が亡くなった庭に立つ大木が落雷によって真っ二つに裂け、ロイはその幹を削って一本のバットを作った。ヘッドには「Wonderboy(=神童)」と焼き文字を入れ、いつの日かメジャー・リーグで活躍することを誓った。
 『才能に溺れず、努力を惜しむな』。
 父の言葉を守ったロイには、やがてシカゴの名門チーム、カブスから投手としてお呼びがかかる。
 幼なじみのアイリスに将来の結婚を約束し、老スカウトマンのサムと共に初めての列車に乗り込む。途中でメジャー屈指のスラッガー、ワーマー(ベイカー)と遭遇し、水補給のための休憩駅で彼と対決することになる。三球全てストライクを投げ、それで三振させたらロイの勝ち、一球でも外れれば、また打たれればロイの負けだ。大勢の見物人が見守る中、ロイは勝負に勝つ。
 そんな彼らの勝負を傍らで見守る女がいた。ハリエット・バードと名乗るその美女は、有名なスポーツ選手ばかりを狙って殺害を続けている異常者で、その時はワーマーが目当てだったのに、たまたま居合わせたロイに注目が集まった為に、標的をロイに替えた。
 まさに不意打ちのような事件だった。幸いにも一命はとりとめたが、ベースボールのあらゆる記録をうち破るというロイの夢は崩れ去り、彼が表舞台に辿り着くには、それから更に16年もの歳月が必要だったのだ・・・。


 映画の冒頭、くたびれ果てた様子のロイがプラットホームで列車を待っているシーンをバックに、オープニングクレジットが流れ、続いて少年時代と、狂人に拳銃で撃たれるまでが語られる。そして、その16年後、冒頭に出てきたロイがニューヨークのチームでメジャーに登場してからがメイン・ストーリーである。

 アメリカのスポーツ映画には、スポーツを愛する者と、それを金儲けの種としか考えない者との闘いを描いたもの(例えば「スラップ・ショット」とか)が多いが、「ナチュラル」もそんな一つだ。

 ロイが再スカウトされた球団はナショナル・リーグ東地区のCクラスのチーム、ニューヨーク・ナイツ。コーチのレッド(ファーンズワース)に言わせると監督のポップ(ブリムリー)は野球に身を捧げている男だが、今シーズンの成績如何では引退するしかない状況らしい。オーナーの“判事”(プロスキー)との約束で、今季リーグ優勝が出来なければポップの持つ球団株を“判事”に売り渡すことになっているからだ。
 力のある選手が欲しいというポップの要請に応じて、スカウトが探してきたのがセミプロでしかプレイしたことのない無名のロイ。“判事”の息がかかったスカウトが適当に探してきたのだろうと思ったポップは、ロイを出場させないばかりか、打撃練習さえ許さなかった。
 Cクラスが骨の髄まで染み込んでいるのか、選手のプレーには覇気が無く、凡ミス凡エラーが続く。試合が終われば心理カウンセラーによる集団セラピー。そんな状況に業を煮やしたロイは監督の制止も聞かずにセラピー中のロッカールームを後にする。
 次の日の試合終了後、監督はロイに二軍行きを命じる。しかし、ロイはそれを拒んだ。
 『野球をしに来たんだ、“催眠術”を聞きに来たんじゃない。メジャーに上がるのに16年かかった。今更何もせずに帰れるか!』
 他の選手には無いガッツを感じた監督は、ロイの二軍行きを撤回した。
 『明日、打撃練習に来い』
 『毎日来てるよ』
 いよいよこの後、ロイはその破格の豪打を見せつけることになる。





 スポーツ選手の挫折と復活。金に纏わる駆け引き。ゴシップを狙う記者。愛と別れ。個々はベタな設定だが、ナイツのプレーオフ進出の行方を軸にして、それぞれが収束していく構成がお見事。
 アカデミー賞にノミネートされたキャレブ・デシャネルのカメラは美しくノスタルジックで、要所要所でスローモーションを使い、印象深くなるようにしたのも成功。
 脚本はロジャー・タウンとフィル・ダッセンベリー。レヴィンソンの省略を効かせた語り口も巧い。

 ロバート・デュヴァルはスポーツ紙の記者、マックス役。16年前のロイ対ワーナーの対決を見届けた男で、ロイからみれば野球をくい物にしている連中の一人だ。当初はナイツのロイを、“あの時の青年”とは気付かないのだが・・・。

 キム・ベイシンガー扮するメモはポップの姪。しかし、マックスの親分格の実業家ガスをパトロンにしていて、スポーツ選手にとってはいわゆる“さげまん”。ロイにも近づき、彼女との蜜月の間は、天才も並の選手に成り下がる。

 ガスに扮するのはダーレン・マクギャヴィン。“判事”とも共同戦線を張っていて、ナイツに優勝がみえてきた時にはキーマンのロイに八百長を持ちかける。グラスを片手にささやく彼を、『近すぎて俺の足を踏んでないか?』とロイが一蹴するのが痛快だった。

 グレン・クローズは、82年の「ガープの世界」、83年の「再会の時」に続いて、この映画でもアカデミー助演女優賞にノミネートされた。芯が強く、愛情豊かなアイリスが、初見時の数倍美しく見えたのはコチラの歳のせいでしょうか。

 レッドフォードはこの時すでに40代後半。コロラド大学に野球の奨学金で進んだ程の腕前だが、流石にピッチングフォームは、剛速球投手には見えませなんだ。





追加記事 ~「人には二つの人生がある」

・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】 テアトル十瑠
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スラップ・ショット

2011-01-26 | アクション・スポーツ
(1977/ジョージ・ロイ・ヒル監督/ポール・ニューマン、マイケル・オントキーン、ジェニファー・ウォーレン、メリンダ・ディロン、ストローザー・マーティン、リンゼイ・クローズ、ジェリー・ハウザー/123分)


 ジョージ・ロイ・ヒルはポール・ニューマンとロバート・レッドフォードをダブル主演に据えて、「明日に向って撃て! (1969)」と「スティング (1973)」という傑作を作ったが、その後それぞれを主演に新たに映画を作った。レッドフォードとは1975年に「華麗なるヒコーキ野郎」、そしてその2年後にニューマンと作ったのがこの「スラップ・ショット」だ。

*

 舞台はアメリカ北東部の鉄工業の町、チャールズタウン。
 ポール・ニューマンが扮するのは、ソコを本拠地とする三流アイス・ホッケーチーム、チーフスのコーチ兼プレイヤー、レジー・ダンロップ。
 負け続けているので地元のファンからも『早く引退しろ!』と罵声を浴びせかけられ、最近はストレスが溜まっている。
 レジーの同僚でチームの得点王ネッド(オントーキン)は上流階級の出身でプリンストン大出のインテリだが、同じくイイとこのお嬢さんだった妻のリリー(ディロン)はホッケーが嫌いでチャールズタウンにも馴染めずにいた。お互いに好き合っているのに、顔を合わせれば喧嘩をしている今日この頃だ。
 不況のせいで工場が閉鎖、チャールズタウンの町にも解雇された労働者が一万人を超えたというニュースが流れ、ネッドはチームが近々解散するのではないかとの噂も聞く。レジーは信じなかったが、珍しく遠征に同行してきたマネージャー(マーティン)に問いただして、噂が本当であることを知る。しかも、マネージメントに全然興味の無かったレジーはオーナーが誰であるかも知らないし、マネージャーもその点については黙りを通していた。
 一計を案じたレジーは地元の新聞社に、フロリダの市民団体がチーフスを買収予定であるとのデマを流す。オーナーサイドを情報で揺さぶり、併せて解散話でネガティブになっているチームメイトを鼓舞しようというわけだ。
 別居中の妻フランシーン(ウォーレン)からも『チームが解散したらどうするの? あなたの歳で三流チームのコーチなんて何処にも働き口はないわ』と言われたレジーは、ラフプレイも辞さない試合運びでチームの勝利と観客動員数アップを狙う手段をとった。おかげでケガ人が続出し、レジーは仕方なくマネージャーが安く買い叩いた新人のハンセン三兄弟を使うことにしたが、コレが大当たり。オフには部屋でオモチャのレーシングカーで遊んでいる幼稚な奴らだったが、試合になるとガタイの良さも手伝ってバタバタと敵をなぎ倒し、地元にも熱烈なチーフス・ファンが出来る程になった。
 チームが解散しないためには勝つしかない。
 レジーの策は当たり、チーフスも優勝を狙えるまでに快進撃を続けるのだが・・・。

*

 封切り時の双葉さんの評価は、確か☆☆☆★★★(75点)か☆☆☆☆(80点)の秀作で、とても興味があったのに観れなかった。何年か前にツタヤの棚に見つけてその後消えちゃったが、昨年再度見つけたのでレンタルしてきた。先日発見したツタヤの「100人の映画通が選んだ本当に面白い映画」の中の一品でもある。

 アイス・ホッケーファンではないので、スポーツ映画としてどれくらい本物に近い描写をしているかは分からない。が、分からなくても大丈夫。近年のアクションものにありがちなスローモーションは使わなくてもバッチリとスピード感は出てるし、試合の流れもちゃんと分かる。但し、全体的には勝負の行方に拘ったスポ根映画ではなくて、allcinemaが仕分けたジャンル「コメディ/スポーツ」らしい下品な台詞と描写も満載な、血と汗の匂いもしてくるような馬鹿げた男達のドラマだ。
 選手の奥さん連中の会話も笑わせるし、オープニングロールの前から登場する地元放送局のアナウンサーの解説も笑わせる。
 でも一番笑ったのは、試合前の乱闘騒ぎに呆れて、国歌斉唱中に怒ってしまうチビのレフェリーかな。

 オリジナル脚本を書いたのがナンシー・ダウドという女性なのは色々な意味で驚き。ジョン・ヴォイトとジェーン・フォンダがダブルで主演賞を受賞した、ハル・アシュビーの「帰郷 (1978)」の原案者でもあるらしい。
 レジーの若い同僚、“殺し屋”デイブ役に、「おもいでの夏 (1971)」のオジーだったジェリー・ハウザーが出ていたのが懐かしい発見。

 レジーが敵を騙し、味方も騙して不人気チームを如何にして立て直すか。彼曰く、『ただ勝つんじゃない、敵を怒らせて勝つんだ!』
 ネッドとリリーの愛の行方は。
 そしてレジーとフランシーンのよりは戻るのか・・・。

 お薦め度は★三つか四つか迷った。別の日に観れば四つになったかも知れない。レジーとフランシーン以上に比重が大きいネッドとリリーのエピソードで、二人の(特にリリーの)心情がストンと心の中に落ち着かないので、★一つ分マイナスです。





・お薦め度【★★★=一見の価値あり】 テアトル十瑠
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ベスト・キッド(84年版)

2010-08-29 | アクション・スポーツ
(↓Twitter on 十瑠 から
「ベスト・キッド」がジャッキー・チェンでリメイクされて、今年の夏公開とか。予告編を見ると、主人公の少年は黒人で、舞台は中国。アメリカから母親と二人で中国にやってきた少年が地元のジャイアンに睨まれて・・・というような話。原題「THE KARATE KID」。でもあれはカンフーだな。
 [May 13th webで]

「ベスト・キッド」のTVCMに面白そうと感想を漏らす息子。ずっと前に作られた映画のリメイクなんだよ、というとソレも観てみたいねと。レンタルした時は、一緒に観ようね。
 [Aug 10th webで]

夕方、散歩がてら近所のレンタル屋さんに「ベスト・キッド」を借りに行ったら、4作とも貸出中だった。流石に公開中の新作の元ネタというだけあって、表に出してあったけど、書店の片隅のレンタル・コーナーだから本数が少ないんだよね。残念!
 [Aug 16th webで]

84年板の「ベスト・キッド」を観る。エリザベス・シューが出ていたのをスッカリ忘れてた。モリタさんは5年前に亡くなって、訃報はブログでも記事にしたけど、この映画の時はまだ52歳だったんだねぇ。青春、青春してて流石に気恥ずかしいシーンもあったけど、どうやら息子は気に入ったようだ♪
 [Aug 21th webで]

84年板「ベスト・キッド」について。筋は分かっているから、マッキオ君の成り行きには全然注意がいかなくて、ミヤギさんの方が気になった。段々明らかになる彼の正体やら、コブラ会にどんな風に対処していったか。こっちがミヤギに近い年齢だからかな。
 [Aug 22th webで]

*

 夕べ、返却前に再度鑑賞。主人公の少年(ダニエルさん=マッキオ)と少女(アリ=シュー)の物語はありきたりでなんとも言いようがないが、ミヤギ(モリタ)は観る度に魅力が増してくるキャラクターでありますな。というか、ミヤギがもう一人の主役のように描かれている。
 小出しに登場させて、良い頃合いでの“スパイダーマン”的な活躍の驚かせ方。登場シーンのBGMの独特な雰囲気。オリエンタルでミステリアスなムード。マカロニ・ウェスタンとか、黒澤とか、そんな映画の影響もあるんでしょうな。
 日系人の米軍兵として戦争にかりだされるも、身重の妻は収容所での出産時に合併症で赤ん坊と共に亡くなっていた。中盤で少しだけ明かされる彼の過去も、イイ味わいになっております。

 それにしても、ミヤギさんは何をしてあんな広い敷地に住み、高級車を何台も持っているんでしょう? 仕事はアパートの修理屋さんだけではないはずですよね。

 音楽はビル・コンティ。
 悪役のコブラ会の若者の一人に、マックィーンの息子チャドが出ておりました。





(1984/ジョン・G・アヴィルドセン監督/ラルフ・マッチオ、ノリユキ・パット・モリタ、エリザベス・シュー、ランディ・ヘラー、マーティン・コーヴ、ウィリアム・ザブカ、チャド・マックィーン/127分)


・お薦め度【★★★=ティーンネイジャーには、一見の価値あり】 テアトル十瑠
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ホット・ロック

2009-07-03 | アクション・スポーツ
(1971/ピーター・イエーツ監督/ロバート・レッドフォード、ジョージ・シーガル、ロン・リーブマン、ポール・サンド 、ゼロ・モステル、モーゼス・ガン、トポ・スウォープ/105分)


 厳重な警備がなされている美術館や博物館から高価な宝石や美術品を盗む映画といえば、「トプカピ」や「おしゃれ泥棒」などを思い出しますが、眼目は如何にして犯罪者が警備網をくぐり抜けるか、盗みに成功するかという点。「ホット・ロック」にもそういうハラハラドキドキはあるのですが、先に挙げた二つの映画と違う点は一度では成功しないという所で、かといって全くの失敗でもない。少しずつ少しずつ成功に近づいていき、もはやコレまでかと思われた状況から最後に逆転ホームランをかっ飛ばす。
 ラストで、盗みに成功したレッドフォードが、してやったりの表情で街中を軽快にスキップでもしているかのように歩いているシーンには(クインシー・ジョーンズのBGMも最高!)、こっちまでニヤニヤしてしまいます。

 監督が「ブリット(1968)」、「ジョンとメリー(1969)」のピーター・イエーツで、脚本が「明日に向って撃て! (1969)」、「大統領の陰謀 (1976)」でオスカー2度受賞のウィリアム・ゴールドマン。どんな重厚なサスペンス・ドラマかと思われるかも知れませんが、これはすっとぼけた犯罪コメディです。レッドフォードとしても「裸足で散歩 (1967)」以来のコメディでしょうか。
 ドナルド・E・ウェストレイクの書いた犯罪小説が原作で、レッドフォード扮する“ドートマンダー”を主人公にしたモノはシリーズ化され、この後、別のスタッフ、キャストで2度映画化されているらしいです。

 やり手の盗人(ぬすっと)ジョン・ドートマンダー(レッドフォード)が、服役を終えて刑務所を出てくるところがファーストシーンで、出所直前の彼と刑務官とのやりとりにより、ドートマンダーには刑務所の更正プログラムが全然効いてないのが分かる。
 表に出てきた彼を不気味な車が追いかけてくるが、それが迎えに来た犯罪仲間のケルプ(シーガル)。ケルプはドートマンダーの妹の亭主で、どうやらドートマンダーの刑務所行きはケルプのへまが災いしたらしい。ケルプの車で妹のアパートへ向かいながら、新しい仕事(つまり犯罪)の話を持ちかけられる。さて、その計画とは・・・。

*

 そもそもの依頼者はアフリカ某国の国連大使(ガン)。その国を含む周辺の数カ国により“サハラの石”と呼ばれるダイヤモンドの争奪戦が行われていたが、現在その石は国連預かりでブルックリンの博物館に展示されている。真の所有者は国連での協議により決定されることになっているが、某国大使は先行き不透明な協議の結果を待つよりは、プロフェッショナルによる強奪を選んだというわけだ。
 報酬は一人2万5千ドル。但し、トータル10万ドル以上は出せないので、5人でやれば一人の取り分は2万ドルになる。
 ケルプが集めたのは、運転が得意なカーキチのマーチ(リーブマン)と、爆弾作りが得意なグリーンバーグ(サンド)。これにドートマンダーとケルプが入って4人での犯行となり、詳細な計画はドートマンダーに任せられる。
 “サハラの石”は、強化ガラスで囲まれた箱の中に入っており、箱の四隅に付けられた鍵を開ける必要があるが、解錠のプロがケルプ。ケルプの表の顔が錠前店のオーナーというのが笑わせます。但し、ドートマンダーはあまりケルプの腕を買っていない。
 “サハラの石”の周りに警報装置などはなく、あとは警備員の排除が計画のテーマで、4人のそれぞれの役割分担と演技がモノをいう。ここは見てのお楽しみ。

 記事の冒頭で書いたとおり、最初の計画は予定通りにいきません。石は手にしたものの、グリーンバーグが持って逃げる途中で警備員に捕まってしまい、慌てた彼はソレを飲み込んでしまう。飲み込むところを見られてないので、グリーンバーグは刑務所に入るものの、石は安泰。
 弁護士をしているグリーンバーグの父親(モステル)も巻き込んで、今度はグリーンバーグの脱獄計画が練られます。このオヤジが、見た目通りのくせ者なんですよね~。(笑)
 この後も、一難去って又一難、というか、意志の疎通が悪くて、2度手間3度手間のリカバリー計画が実行される状況となり、ついにはドートマンダーも胃炎になってしまう。

 これ以上はネタバレになってしまうので、止めておきましょう。
 一つだけ書いておきたいのは、「スコルピオンの恋まじない」と同じく、犯罪に催眠術が使われるということ。呪文の言葉は「アフガニスタン、バナナスタンド」。何十年経っても、この言葉だけは忘れませんでした。簡単ですからネ。

 イエーツ監督らしいロング・ショットや遠近法を効果的に使ったスマートな画作りで、カット・バックのサスペンスもお上手。1972年のアカデミー賞では編集賞(Frank P.Keller、Fred W.Berger)にノミネートされたそうです。

 尚、ドートマンダーの妹役のトポ・スウォープ は、ワイラーの「友情ある説得(1956)」などに出演のドロシー・マクガイアの娘さんでありました。あんまり活躍は聞かないですが。




・お薦め度【★★★=一見の価値あり】 テアトル十瑠
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ブルーサンダー

2008-08-31 | アクション・スポーツ
(1983/ジョン・バダム監督/ロイ・シャイダー、ウォーレン・オーツ、キャンディ・クラーク、マルコム・マクダウェル、ダニエル・スターン/109分)


 当時ご贔屓だったジョン・バダムの監督作品。ヘリコプターによるドッグファイトが珍しい趣向で、今見ても楽しめるアクション映画です。【原題:BLUE THUNDER】

 ロイ・シャイダーが扮するのはロサンゼルス市警の航空課、つまりヘリコプターによる市内パトルールが任務の警官マーフィーで、ベトナム戦争にも従軍したマーフィーは戦地でのショッキングな体験がトラウマとなって、今でも時々パニックになることがある。上司の命令により精神科の治療を終えて彼が職場に復帰した所から映画は始まる。

 オリンピックが間近いロス市警では、最新の装備を備えた強大なヘリ「ブルー・サンダー」を導入しようとしており、マーフィーがテストパイロットに選ばれるが、軍よりマーフィーの指南役に選ばれたのがベトナム戦線での上官コクラン大佐(マクダウェル)で、因縁の再会は終盤の対決シーンへと繋がっていく。
 ただの強盗事件と思われた州の女性高官の死が、コクランも絡んだ暗殺事件だと掴むマーフィー。コクランとのロス市上空でのヘリ対決では、ヘリならではのビルの陰に隠れたりするシーンもあり、更には戦闘機も出てきてスケールの大きいアクションシーンが見られます。

 ウォーレン・オーツはマーフィーの上司。懐かしやキャンディ・クラークは元妻という設定。

 同僚ダニエル・スターンが撮影した陰謀の会話が残っているビデオテープを、元妻の協力でマスコミに渡すことにより事件の解決としているわけですが、大金が絡んだ背景があると思われるのに、その辺にあまり触れてないのがちょびっと物足りない。元妻とマーフィーの関係も中途半端な描き方で、昔見たときにはアクションシーンで満足出来たのでしょうが、今回は少し辛目の採点になりました。
 「ブルー・サンダー」の機能の紹介シーンなどはメカマニアには堪えられないのではないでしょうか。

 原案、脚本はドン・ジャコビーとダン・オバノン。

 冒頭のヘリ警官の紹介シーンなど手際の良い上手い編集で、アカデミー賞でも編集賞にノミネートされたそうです。

 尚、今作がオーツの遺作とのことでした。





・お薦め度【★★=悪くはないけどネ】 テアトル十瑠
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突破口!

2008-04-24 | アクション・スポーツ
(1973/ドン・シーゲル製作・監督/ウォルター・マッソー、ジョー・ドン・ベイカー、アンディ・ロビンソン、ジョン・ヴァーノン、ジャクリーン・スコット、ノーマン・フェル、シェリー・ノース、フェリシア・ファー/111分)


 “突破口”じゃどんな映画か分かりませんね。戦争映画(?)
 原題は【CHARLEY VARRICK(チャーリー・バリック)】。もっと分からない?(笑)

*

 ウォルター・マッソー扮する主人公の名がチャーリー・バリックで、元曲芸飛行乗りで今は農薬散布を生業(なりわい)としている彼が、愛妻と二人の男とニュー・メキシコの田舎町の銀行を襲い大金をものにする。田舎町の小さな銀行にあるまじき75万ドルを越える大金で、チャーリーは仲間の若者に『これはマフィアの金だ。あの銀行はマネーロンダリング用のドロップ(=隠し場所)に違いない。返したいがどっちみち命はない。FBI十人の方がましだった』と言う。

 悪者がもっと悪い奴らに追いかけられるという話で、結末も含めて72年の「ゲッタウェイ」と同じ趣向だが、コチラには派手なドンパチは序盤の銀行強盗のシーンしかない。追う側と追われる側を平行して描きながら最後に二人が対面し、その対決がクライマックスになるという定石通りの面白い本(原作:ジョン・リーズ)でした。

 超面白かった「ダーティハリー(1971)」のドン・シーゲルが、後輩のペキンパーに負けじと作ったのではないでしょうか。大昔に観たので内容は忘れてしまいましたが、殺し屋が迫るという設定は、ヘミングウェイの短編が原作の「殺人者たち(1964)」に似ているのかも知れません。

 殺し屋モリーを演じたのは、巨漢のジョー・ドン・ベーカー。大きな声は出さずに腕力と簡潔な脅し文句で迫ってくる所は、「ターミネーター」のシュワちゃんも参考にしたのではないですかな。
 「ダーティ・ハリー」で変質的な犯罪者を演じたアンディ・ロビンソンが、今作ではチャーリーの若い相棒ハーマン役。慎重なチャーリーを腰抜けだと馬鹿にするが、予想通りの惨めな最期でした。
 チャーリーの奥さん役はジャクリーン・スコット。チャーリーと曲芸飛行で知り合った度胸ある彼女も、序盤の強盗シーンでの警官との銃撃戦で重傷を負う。彼女の亡骸に二度もキスをしながらも冷静に後処理をするチャーリーが印象的でした。
 ジョン・ヴァーノンは銀行の頭取役で、「ブリット(1968)」のノーマン・フェルがここでも警官の役。
 シェリー・ノースは偽パスポート作りの女性で、フェリシア・ファーは頭取の秘書シビル・フォート役でした。

 面白かったシーンを幾つかご紹介。
 爆破したつもりの奥さんの遺体の歯型から足がつきそうになったチャーリーが、行きつけの歯科医院に忍び込み奥さんのカルテを盗むところ。ついでにハーマンのレントゲン写真を自分のモノにすり替える。何の意味があるのかなと思ってみていましたが、ラストで合点する。チャーリーの勘というか、先見の明がものをいったという設定ですね。
 ラスト・シーンで、お金を返すからと頭取を呼びだし、殺し屋が潜んでいるとにらんだチャーリーが頭取にしたこと。観てのお楽しみということで、コレは書かない方がよろしいでしょう。

 幾つかパロディっぽいシーンもあって、クライマックスの農薬散布に使う複葉飛行機と殺し屋の車との一騎打ちで思い出すのはヒッチコックの「北北西に進路を取れ」。
 農薬散布の飛行機が出てくるだけでソレと分かりますが、その直前でチャーリーとシビルとのベッドシーンがあり、円形ベッドで色々な向きでお楽しみだった二人の最後の台詞が『今度は“南南西”の向きで・・・』とは、紛れもなく彼(か)の名作へのオマージュに違いありませんね。

 愉快なお顔のウォルター・マッソーが、珍しく冷静沈着な男を演じて、見事英国アカデミー賞の主演男優賞を獲得したとのことでした。

・お薦め度【★★★★=ハードボイルド好きの、友達にも薦めて】 テアトル十瑠
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白銀のレーサー

2008-02-03 | アクション・スポーツ
(1969/マイケル・リッチー監督/ロバート・レッドフォード、ジーン・ハックマン、カミラ・スパーヴ、カール・ミカエル・フォーグラー、ダブニー・コールマン/102分)


 冬のスポーツ映画を観ようと、ジョージ・ロイ・ヒルの「スラップ・ショット」をレンタルしに行ったら、以前見かけた棚に無くなっていた。カウンターの色白の娘っ子店員に聞いたら、『以前あっても、無くなるものもあります』との事。そりゃぁ、そうだが・・・。
 陳列ボツにされないうちにと、VHSのコチラを借りてきた。しかし、よく考えたら「スラップ」はVHSじゃなくてDVDだったから、人気薄のせいで外れたのではなくて、事故で壊れたのかも知れない。

*

 さて、後に「がんばれ!ベアーズ(1976)」で大ヒットを飛ばすマイケル・リッチーの劇場映画デビュー作であります。30か31歳の頃。レッドフォードより二つ年下ですな。
 レッドフォードが「明日に向って撃て!」と同じ年に出演した作品で、自身の製作会社ワイルドウッドの(多分)第一作目ではないかと思います。

 アメリカ・ナショナル・チームのスキー滑降の選手が怪我をして離脱、コロラド州アイダホ・スプリング出身のデイヴ(レッドフォード)に補充の声がかかる。新入りのくせに、滑降の順番が遅いとコースが荒れているから嫌だと勝手にレースを棄権したり、初戦で4位に入ると地元マスコミのインタビューに『次は優勝を狙う』と遠慮がない。そのマイペースの言動にコーチやチームメイトの反感を買うも、着実に成績を上げ、大舞台の冬季オリンピックでも大活躍を見せるという話。【原題:DOWNHILL RACER

 スポ根のヒーローもののように見えますが、レッドフォードがただの二枚目の爽やか青年を演じるわけはなく、デイヴは女にも手が早く、ヤな野郎という印象の方が強い。オフ・シーズンには年老いた父親が一人で暮らしている田舎に帰るものの、親子の会話はほとんど無く、父親の車で昔のガール・フレンドに逢いに行き、強引に誘ってカー・セックス。秋からはデンバーの大学に行くつもりという彼女の話も上の空で、とにかく下半身をスッキリさせたかっただけというのが見え見え。オナゴ衆からしたら真に鼻持ちならない男でありましょう。
 デイヴをショーン・ペンのような俳優が演じたら、それ見たことかとなるところですが、WASP(ワスプ)然としたレッドフォードが演じるから薄ら苦い味がしてくるわけですね。

 時速100キロを越す滑降場面は「栄光のル・マン」のようにスピード感に溢れ、客観的に描いたシーンと、選手のヘルメットにつけたと思われるカメラでの主観ショットの配合具合もドラマの緩急に合っていて、すこぶる快調。観衆や出番待ちの選手達の描写もセミ・ドキュメンタリータッチでとてもよろしいです。

 カミラ・スパーブはスキー用具メーカーの社長秘書キャロル役。
 美人のキャロルに一目惚れしたデイヴは、ピンポイントでアタック。すぐに懇ろになるが、実は彼女の方が一枚上手の遊び人だったという結末。如何にもスポーツ界にありそうな話だけど、振り向きもせずに去っていく美女の横顔にニュー・シネマらしい味が出ていました。

 ジーン・ハックマンはナショナル・チームのコーチ役。
 「俺たちに明日はない (1967)」の2年後で、こちらは真面目な男の役。ポパイ刑事でオスカーを獲るのは、更にその2年後であります。

▼(ネタバレ注意)
 この映画の最優秀場面は、ラストシーンに見られます。

 冬季オリンピック、アルペンの花形、男子滑降。
 優勝候補のベテラン選手が順当に一位の記録を出すが、15番目に滑ったデイヴの記録がそれを上まわる。ゴールでは観衆やマスコミが彼を取り囲み、コーチも大喜びする。勿論、デイヴも金メダルを確信している。
 そんな光景を写しながら、画面は冷静に次の選手のスタートに切り替わる。ゴールで騒いでいるデイヴ達と、次の選手の滑降シーン。それがカットバックで編集される。16番の選手はドイツの若い選手だったが、中間地点までデイヴの記録に迫っている。いや、デイヴより速い。コーチはゴールに設けてある掲示板でその事に気付く。

 まずい! ぬか喜びだったか・・・

 スポーツの、一瞬先は分からないという運命の悪戯が、カットバックでサスペンス・フルに描かれた瞬間でした。
 そして、その後のデイヴの横顔も、何とも言えない余韻を残す。
▲(解除)

 音楽担当のケニヨン・ホプキンスは、「十二人の怒れる男(1957)」、「ハスラー(1961)」などのベテラン。
 ちょっと、古めかしくて湿った感じのスコアが、内容に合ってないなと感じました。残念!

・お薦め度【★★★=一度は見ましょう、私は二度見ましたが】 テアトル十瑠
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●2007年10月にブログ名を「SCREEN」から「テアトル十瑠」に変えました。
●2021年8月にブログ名を「テアトル十瑠」から「テアトル十瑠 neo」に変えました。姉妹ブログ「つれづる十瑠」に綴っていた日々の雑感をこちらで継続することにしたからです。
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