テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。

チルソクの夏

2006-05-22 | 青春もの
(2003/佐々部清 監督・脚本/水谷妃里、上野樹里、桂亜沙美、三村恭代、淳評、高樹澪、山本譲二、金沢碧、夏木マリ、谷川真理、竹井みどり、イルカ、福士誠治/114分)


 NHK-BSにて放送。タイトルに見覚えがあったので録画した。韓国映画だと思っていたら日本の作品だった。アニメでない久しぶりの邦画である。

 “チルソク”とは韓国語で“七夕”のことだそうだ。
 山口県下関市と韓国の釜山市は姉妹都市の関係にあり、開催地を1年交替として、毎年高校生の陸上競技大会を親善事業として行っていたらしい。
 時は1977年。釜山での競技会で知り合った下関の女子高校生と釜山の男子高校生との一年をかけた純愛の物語である。競技会が七夕の時期に開催されていて、最初の出会いから次の七夕までの話がメインなのでこういうタイトルになっている。
 『来年の七夕に、もう一度逢おう。』それが二人の約束だった。

 主人公郁子は走り高跳びの選手で、仲良しの陸上部女子部員は、800m走、幅跳び、やり投げの3選手。最初と最後は彼女達の26年後の話で、「初恋のきた道」と同じように現在をモノクロ、過去の部分をカラーで表現している。

 26年後の郁子は地元の高校の教師をしていて、その夏は10年ぶりに釜山の高校との親善競技会が行われていた。最終日、ハードルのスターターとしてスタート台に立った時、韓国選手の中に懐かしい人に似た顔を見つける。名簿を見ると名前もその人と同じだった。走りゆく選手達を見ながら、彼女は自分が高校生だった頃の淡い恋物語に思いをはせるのだった。

 郁子17歳の時のお相手は釜山の高校生 安大豪(アンテイホウ)くん。77年の出会いでは、最初は郁子の友達が安くんに目を付けたのだが、郁子と同じ高飛びの選手だった安くんはフィールドで郁子に惹かれる。競技会が終わり韓国での最後の夜、戒厳令の為に外出禁止だったにもかかわらず安くんは郁子達の宿舎にやって来る。そして、二人は来年の競技会での再会を誓い、文通が出来るように郁子は彼に日本の住所のメモを渡す。

 宿舎の窓に小石を投げたり、バルコニー横の立木に登った安くんとバルコニーの郁子が会話をするというシーンは、まるでロミオとジュリエットのよう。ただ、その前の安くんが郁子に惹かれた部分は思いの外あっさりと描かれていて、「初恋のきた道」までとは言わないが、一目惚れした恋心をもう少し表現してもらいたかった。

 郁子の父親役は地元出身の山本譲二。なんと、仕事はギターの流し。夜の繁華街をギターを抱えて店を廻り、酔客に歌を聴かせたり、カラオケ替わりに伴奏をしてまわる仕事だ。77年頃にはスナックにもカラオケが出回り始め、流しの出番も段々少なくなっていった時代らしい。高校生の恋物語だけではなく、こういった大人の生活も描かれていたのが嬉しかった。
 郁子の早朝の新聞配達のシーンが繰り返し出てきたり、(郁子の家には風呂が無い為に)銭湯に行くシーンも出てきたりして、ここにも生活感が溢れていた。
 父親は当時の大方の親がそうするように、韓国人との付き合いに反対する。『外人でも何でもいいが、朝鮮人だけは許さんけぇのぉ!』
 下関の言葉は北九州によく似ております。(注:十瑠は北九州生まれであります)

 安くんの父親は外交官。日本にも2年ほど住んだことがあり、その為に安くんも少し日本語が分かる。
 戦時中に血縁者を日本人に殺された安くんの母親は、息子が日本人と付き合うのに反対する。日本以上の学歴社会である韓国では、兵役に付くのを遅らせる為にも大学進学は切実なものだった。78年には受験生になる安くんに、母親は部活を止めて勉学に専念するように願う。儒教の国韓国では親の意見を尊重するように教育されていて、安くんも陸上を止めようかと悩むのであった。

 安くんからの手紙が滞るようになったある日、安くんの母親から手紙が届く。そこには、彼女の息子を思う気持ちが綴られており、受験勉強があるのでこれ以上手紙を出さないで欲しいと書かれていた・・・。


▼(ネタバレ注意)
 78年の下関での競技会。出場者名簿に安くんの名前はなく、“チルソク”の再会を諦めた郁子だったが、彼は来た。最後のタイムトライアルに出て出場できるようになったらしい。決定が遅かったので名簿の印刷に間に合わなかったとのことだった。

 競技中に安くんが郁子に声をかける。韓国語だったので意味は分からない。

 大会は終了。友人達の計らいで郁子と安くんは二人だけのデートをする。
 下関港を望む高台で二人が会った時に、花火が上がるシーンが美しい。夜の観覧車に乗ったり、関門トンネルを歩いたり。トンネルの中では福岡県と山口県の県境の線を跨ぐ。(コレ、北九州の子供は皆やりました)

 別れが近づく。
 郁子が、競技中に安くんがかけた言葉について聞く。それは『5番ゲートで待っている。』という意味だったらしい。
 安くんが言う。大学受験をして20歳になったら兵役に付く。だから4年間は逢えない。4年経ったら又逢おう。それが二人の2度目の約束だった。

 翌日、夜間の外出がバレた郁子達は先生の説教を聞く羽目になる。安くんが帰る船を見送る約束だったのに、おかげで郁子は彼に顔を見せることが出来ない。遅れて着いた岸壁で安くんから預かったと郁子に小箱が渡される。中には、『ありがとう』のカードを添えて、可愛いブレスレットが入っていた。それっきり、二人は逢うことはなかった。

 場面は変わって26年後の競技会の会場。
 大会終了後、かつての恩師や友人達に労をねぎらわれる郁子。恩師の一人が、韓国側の役員から預かったと郁子にメモを渡す。そっと開いたメモにはハングルでこう書かれていた。
 『5番ゲートで待ってる。』
▲(解除)

 ラストシーンが余韻を残してとてもイイのですが、途中に幾つか、観てる方が気恥ずかしくなるような“青春ドラマ”お約束のシーンがあって、そこは残念でした。ああゆう風にしか描けないんですかねぇ。可愛いっちゃ、可愛いけど・・・。

 この映画に使われた懐かしい当時のヒット曲は、「♪あんたのバラード」「♪横須賀ストーリー」「♪カルメン'77」「♪津軽海峡冬景色」etc・・・。
 カラオケの件で店とトラブってギターを壊された父親に、郁子が質流れのギターをプレゼントする。『お父さんの歌声を待ってる人もいるよ。』
 ♪およばぬことと~ あきらめました~
 ギターを弾きながら「♪この世の花」を唄う父親。ここは山本譲二へのサービスカットと見ましたな。

 下関の大会では、「♪カルメン'77」を唄い踊った郁子達へのお返しに安くんがアカペラで「♪なごり雪」を唄う。しかし途中で韓国側の先生に止められる。韓国では日本の歌を唄うことは禁じられた時代だった。

 セピア色の映画のシーンがバックのエンドクレジットでは、その「♪なごり雪」をイルカが唄う。最初は韓国語で、次は日本語で。囁くような新しい録音の「♪なごり雪」はセピア色のスクリーンにとてもマッチしておりました。

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2 コメント

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ぼくの採点表 (オカピー)
2006-08-02 15:58:43
TB致しました。

先日の話の続きですが、70年代初めに双葉先生(双葉さん、とは気安く言いたくないのです)と出逢われたのなら私とほぼ同じ時期ですね。年齢的にも私と近いでしょうか。

とにかく星の数と映画を比べて何故そういうことになるのか研究しているうちに、娯楽映画に関しては8割位の割合で同じ☆★が付けられるようになりました。文章を読み返しても同じようなことを述べていることもままあり、そういう時は嬉しいものです。

感覚派の淀川先生ですと、そうはいかないですね。感覚は盗むことはできませんから。



話が変わりますが、viva jijiさんのところにURLを入れるとコメントができなくなってしまいました。怒らせてしまったのか不安で仕方がありません。
双葉先生 (十瑠)
2006-08-02 16:44:39
そうお呼びしたくなりますが、そのように書くと、ブログ来訪者にも強要しているような錯覚を与えてもいけないし、もしご本人に会えることがあったとしても『“先生”なんて呼ぶな!』と言われそうな気がしています。なので、基本的には双葉さんと書かせていただいています。



>8割位の割合で同じ☆★が付けられるようになりました。



点数付けは高校時代の一時期にやってましたが、確かに好評、不評は重なるものが多くて嬉しくなったものです。



viva jijiさんの件、危惧されることは無用だと思いますよ。ブログの数も多くて無限大の情報が行き交っているでしょうから、機械的な不都合でしょう。特に、livedoorはエロサイトからのスパムが多いようですし・・・。

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☆☆☆☆(8点/10点満点中) 2004年日本映画 監督・佐々部清 ネタバレあり