(生年月日:1902年7月1日/フランス:ミュルーズ出身/1981年7月27日没/William Wyler)
皆様、明けましておめでとうございます。
昨年2月に開設以来、沢山のコメントやTBを頂戴し、誠にありがとうございました。今年も拙い文章ではございますが、映画について語らせていただきますので、宜しくお願いいたします。
さて、今年最初の記事は、最も敬愛する映画監督、ウィリアム・ワイラーの思い出の作品について書いてみます。
実は先日の大晦日に、近くのレンタル店兼書店で500円DVDが売られていまして、4本買いました。「
嵐が丘(1939)」「
ミニヴァー夫人(1942)」「
我等の生涯の最良の年(1946)」「
三人の妻への手紙(1949)」。最後の
マンキウィッツ作品以外は全てワイラー映画です。
好きなんですよ、ホントに。但し、この三作品の中で観たのは「嵐が丘」だけ、しかもTVの鑑賞でした。売られていた500円DVDにはワイラー作品はこの三つしか無かったのですが、“ミニヴァー”も“我等の・・”も監督賞受賞作品でしたから迷わずに買いました。
ワイラー作品は10本ほど観ていますが、順番は分からなくなっているので、製作年度の古いものから書いていきたいと思います。
「嵐ケ丘」。エミリー・ブロンテ原作の有名な古典文学の映画化で、NHKの字幕放送で大昔に観ました。主演は
ローレンス・オリヴィエと
マール・オベロン。旅人が嵐の中、辿り着いたお城で、怖そうな主人(オリヴィエ)の昔話を執事から聞くという設定で始まったと思います。モノクロ映画。【原題:WUTHERING HEIGHTS】。
内容は忘れてしまいました。原作も読んでいないので、これ以上の説明は出来ません。ただ、映画としては面白かったという印象は残っており、故に今回DVDを買ってしまいました。楽しみにしております。
「探偵物語(1951)」、「ローマの休日(1953)」、「必死の逃亡者(1955)」、「大いなる西部(1958)」、「噂の二人(1961)」、「コレクター(1965)」、「おしゃれ泥棒(1966)」。この辺は全て日曜洋画劇場での鑑賞だと記憶しております。
「
探偵物語」。タイトルは“探偵”となっていますが、主演の
カーク・ダグラスが扮したのはニューヨーク市警の刑事で、元々は
シドニー・キングスレーという人の舞台劇だそうです。これもストーリーは忘れていますが、ダグラスが強烈な鬼刑事を演じていて、奥さん(
エリノア・パーカー)との葛藤が絡む話だったと記憶しております。これも面白かったという印象だけ残っている。
ハッキリ申しましょう。駄作というものがほとんどないと言われているワイラー作品の内、4分の1程度の作品をTVの吹き替え版で観ている訳ですが、それらは全てハズレはなくてどれも面白かったです。あらすじでは紹介できない細かい登場人物の心理描写がどの作品にも生きている、それがワイラー映画なのです。
「
ローマの休日」と「
おしゃれ泥棒」については、別途紹介済みですね。
「
必死の逃亡者」。実話を元にした舞台劇の映画化で、
ハンフリー・ボガードをリーダーとした三人の脱獄囚が普通の民家に忍び込み、仲間とのコネクションがとれるまで居座るという話。一家は
フレドリック・マーチが父親役で、家族は奥さんと娘と息子がいる。一家は誰かが人質になっているので下手な動きが出来ない。通常通りに会社や学校に行かされ、近隣や同僚に気付かれないようにするシーンがヒヤヒヤする。乱暴な大男がいて、尋ねてきた女性を撃ち殺したりする。
ボガードが完全な悪役だが、抜け目のない男なので、心理的なサスペンスが盛り上がる作品です。
「
大いなる西部」は3時間近い西部劇の大作で、オールスター映画の一つでもある。出演者は、
グレゴリー・ペック、
チャールトン・ヘストン、
ジーン・シモンズ、
キャロル・ベイカー、
バール・アイヴス、
チャールズ・ビックフォード、
チャック・コナーズなど。
ビックフォードとアイヴスの両オヤジの確執があって、家同士のいがみ合いにまでなっている。原因は水の領有権の争いで、板挟みになっている土地の所有者がジーン・シモンズだ。
牧場を経営しているビックフォードの娘がベイカーで、東部からやってくる彼女の婚約者がG・ペック。ペックは船乗りという設定。この牧場の牧童頭ヘストンはベイカーが好きで横恋慕する。また、アイヴスの息子コナーズはシモンズをなんとかものにしようとしている。
東部からやって来た新しい文化の象徴ペックは、西部の良識をシモンズの中に見出し、ベイカーの言動に失望する。古い西部の象徴である両オヤジはラストでは、子分や子ども達を巻き込んだ決闘騒ぎを起こすが、片方のオヤジの死(ン?両方?)により確執は消滅するというお話。
ペックとヘストンの夜通しの殴り合いが、ミドル・ショット、ロング・ショット織り交ぜて描かれ印象深いシーンでした。
「
噂の二人」は、ワイラー自身が39年に作った「
この三人」のリメイクで、主演は
オードリー・ヘプバーンと
シャーリー・マクレーン。
リリアン・へルマンの舞台劇の映画化で、小学校の女性教師二人が同性愛ではないかという噂を一人の女生徒がふりまき、悲劇をもたらすという話。
レズ疑惑の表現は前作では曖昧なものだったらしく、同じ本でありながら、時代が表現を変化させた例でしょう。
「
コレクター」。昆虫のコレクター(
テレンス・スタンプ)が、女性のコレクションを始めるというサイコ・サスペンス。中盤では、監禁された女性(
サマンサ・エッガー)とコレクターとの心理的な駆け引きがスリリングで面白い。次の獲物を探しているというラストシーンが恐ろしかった。
現実の日本でも同種の事件が色々発生しましたが、一番戦慄を覚えたのは新潟柏崎の事件でしょうか。
「
友情ある説得(1956)」は、日曜洋画劇場ではなくて深夜の映画劇場で観た映画です。
南北戦争の最中、平和主義のクェーカー教徒一家の苦悩を描いた作品。父親役が
ゲーリー・クーパーで母親が
ドロシー・マクガイア。出征する長男が
アンソニー・パーキンスで、負傷した彼を父親クーパーが助けに行くが、息子と同じく父親も敵との闘いに悩むという話。しかしながら悲劇的なムードはなく、戦闘シーンもほとんど無かったと思う。クーパー家を取り巻く牧歌的な描写の前半が、後半のアンチ戦争というメッセージを浮かび上がらせる。
ワイラー初めてのカラー作品とのこと。1回切りしか観ていないが、とても好きになった作品でした。
上映時間4時間もさることながら、アカデミー賞11部門受賞というのも凄い「
ベン・ハー(1959)」は、ローマ帝国時代が舞台の歴史劇。説明は不要ですよね。
これは、実際に全部観たのか怪しい映画で、TVで流れる度にちょこちょこと観ていて、戦車のシーンは何回観ても凄いのですが、全体としての印象が残ってない映画です。機会があれば、是非とも通してノーカットで見直したい作品です。
以上が私の観たワイラー作品です。
「探偵物語(1951)」から「おしゃれ泥棒(1966)」までほとんど観ているんですが、途中に一作だけ、「
黄昏(1951)」を観ていません。ローレンスオリヴィエと
ジェニファー・ジョーンズ主演の社会派メロドラマとのことで、あまりに地味で暗いテーマのせいかTV放送を見かけない作品です。
セオドア・ドライサー原作の見応え充分なドラマとのことなんですがねぇ・・・。
小道具係に配役係、編集助手に助監督など下積みを重ねて監督になったワイラーは、黒澤ら名匠といわれる映画人と同じく、撮影では妥協を許さぬ「リテイク・メン」だったらしい。
アカデミー監督賞にノミネートされること12回。受賞はキャプラ等と並ぶ3回。ノミネートも受賞も「探偵物語」以降よりも以前の方が多い。私の知っているワイラー映画は、まだまだ一部にしかすぎないという事ですな。
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ワイラー監督のフィルモグラフィーはこちら。