テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

ヤング・ゼネレーション

2012-05-09 | 青春もの
(1979/ピーター・イエーツ製作・監督/デニス・クリストファー、デニス・クエイド、ジャッキー・アール・ヘイリー、ダニエル・スターン、ポール・ドゥーリイ、バーバラ・バリー、ロビン・ダグラス/101分)


 「ブリット」、「ジョンとメリー」のピーター・イエーツ監督が「ジョンとメリー」の10年後に作った青春映画。あちらでは後にTVシリーズ化されるほどの人気を博したらしいが、日本ではallcinemaの解説曰く、<平凡な邦題のせいで>殆ど話題にならなかったらしい。確かにそれもあると思うが、出演俳優がどれも無名に近かったし、日本人受けするアイドル顔もいなかったせいではないかと思う。4人の若者グループがメインキャストのお話という事で、少し成長した"アナザー”「スタンド・バイ・ミー」みたいだけど、トラウマ体験とは無縁のとぼけたユーモラスな味わいも有り、それはイェーツの8年前の犯罪映画「ホット・ロック」を思い出させた。

*

 物語の舞台は、インディアナ州ブルーミントン。名門インディアナ大学のメインキャンパスを中心とした大学町だが、かつては建築資材用の石が多く産出されて石材業でも賑わったのに、今は閉山した採石場も少なくない。金持ちの子息が多い学生達は、地元の住民を石切工を揶揄する意味で「カッター」と呼んでいて、そんなカッターの子供デイヴがこのお話の主人公だ。
 デイヴと彼の幼馴染、マイク、ムーチャー、シリル。お話の始まりは高校卒業後の半年も過ぎた頃で、彼ら4人組は大学にも行かず、就職もせず、まるで学生時代の夏休みの延長のようにだらだらと過ごしていた。
 冒頭に登場する雨水が溜まって巨大なプールのようになっている採石場の跡地が印象的な光景で、ここはデイヴ達の遊び場所になっており、この後もたびたび登場する。

 デイヴに扮するのは、「いちご白書」のブルース・デービソンを明るく開放的な性格にしたようなデニス・クリストファー。
 自転車が趣味のデイブは、ロードレースが盛んなイタリアに憧れており、部屋の壁はイタリアのレースチームのポスターだらけ、いつもかけるレコードはイタリアン・オペラ、イタリア語の辞書は常に携帯しているというイタリアかぶれだ。小さい頃は身体が弱かったという母親の台詞があるので、自転車を薦めたのはこの母親かも知れない。自転車レースでは入賞の常連にまでなっている。
 元「カッター」で今は中古車販売会社を個人経営しているデイブの父親は、1年間は浪人させてくれと言った息子を容認したけれど、毎日のように自転車の練習を欠かさず、『パパ』『ママ』とイタリア人のように自分達を呼ぶのが癪に障っていた。将来計画を持っていないのならさっさと就職させろと母親には言っている。

 デニス・クエイド扮するマイクは、フットボールの花形選手だった高校時代が忘れられずにいた。地方紙には毎年のように大学のスター選手の話題が載るが、今や自分は唯のマイクであり、やがては忘れ去られる運命であるのが寂しかった。4人組の中で唯一車を持っているが、警官をしている兄には、揉め事を起こしたら車を取り上げるぞと釘を刺されている。

 ムーチャーに扮するのは、子役出身でこの映画の3年前の「がんばれ!ベアーズ」で注目されたジャッキー・アール・ヘイリー。
 ムーチャーがカチンと来るのがチビ(ショーティ)と呼ばれることで、腕っ節では大きな男に負けないようにと家の中ではバーベルを使って身体を鍛えている。自分より少し背の高い彼女がいて、既に働いている彼女とは相思相愛である。

 4人の中で唯一大学受験を経験したのが、この映画がデビュー作のダニエル・スターン扮するシリル。
 受験に失敗した彼を慰めようと、父親はギターを買ってくれた。高校時代、シリルはバスケットをしていた。

 序盤は、そんな彼らの大人への階段を上りたくはないが何時までも子供ではいられないという人生探しの時間が描かれ、その後は、石切場のプールにやってきた大学生との軋轢、そしてデイブが一目ぼれする女子大生キャサリンとの恋のエピソードが絡んでくる。
 原題は【BREAKING AWAY】。「自立」、「独り立ち」みたいな意味でしょうか。

 キャサリンに扮するのはIMDbに仙台生まれと書かれているロビン・ダグラス。嫌味のないアメリカン・ビューティーですが、TVでの活躍の方が多いようです。
 キャンパス内でキャサリンを見かけたデイヴは、彼女がスクーターからノートを落とすのを目撃、すかさずそれを拾って自転車で追いかけて渡す。いつもの癖で、ついイタリア訛りで話しかけたせいで留学生と間違われ、「カッター」よりは都合がいいかとデイヴはイタリアの大家族の漁師の息子を演じてしまう。
 仲良くなってみるとその嘘が苦しくなって、いつかは告白しなければと悩むわけだが、憧れのイタリアのレーシング・チームが町のロードレースにゲストとしてやって来た後、意外な形で踏ん切りが付く事になる。
 一度はビンタを食らったデイヴですが、最後のお別れは爽やかでしたなぁ。

 大学のカフェテリアで乱闘騒ぎを起こしたマイク達と男子学生達の融和を図るべく、もうすぐ行われる学内の自転車レースに町の代表チームも参加することになり、デイヴ等4人組が選ばれる。この自転車レースが映画のクライマックスになるのは言わずもがな。展開は些か予定調和的ではありますが、レーサー出身のイェーツがきちんと描いているので、結末を知っていてもラストはつい拳を握ってしまいますな。

 点描されるデイヴのエピソードの中で、微笑ましいのを一つご紹介。

 町のはずれの大きな道路でデイヴが長距離の練習を開始すると、たまたまなのか、後ろからやってきた「cinzano」のマークをつけたトラックが、デイヴの伴走をしてくれる。
 徐々にスピードを上げるトラックの後ろをデイヴが走り、ドライバーは窓から腕を出して、デイヴに現在のスピードを教えるのだ。40マイルから始まり、50マイル、60マイル(96キロ!)・・・。
 デイヴとドライバーには何の会話もありませんが、スポーツと自転車を愛する二人の気持ちが良~く分かるシーンでした。





 1979年のアカデミー賞では、作品賞、監督賞、助演女優賞(バーバラ・バリー=デイブの母親)、音楽(編曲・歌曲)賞(パトリック・ウィリアムズ)にノミネート。
 この後「ガープの世界」も手がけるスティーヴ・テシックが見事、脚本賞を獲得しました。

・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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4 コメント

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よくこの記事から発見されました! (オカピー)
2012-05-10 21:42:08
書いた本人が殆ど忘れていたのに、よくこの記事から「ヤング・ゼネレーション」を思い出されましたね。
自分で読み直してもなかなか面白い記事ですし、ずらりと並んだコメントも冴えていた気がします。

本作については、なかなか感触の良い佳編ですが、アカデミー主要部門にノミネートされるほどかな、という印象を持った記憶があります。

>ブルース・デービソンを明るく開放的な性格にしたようなデニス・クリストファー。
正に言い得て妙!
僕もそんなイメージを持ちましたっけ。

ブルースと言えば「いちご白書」をもう一度観ないといけない気になってきました。松任谷由実ではないけど(笑)。
ローティーンだった頃よくラジオから主題歌「サークル・ゲーム」が流れてきました。懐かしいな。
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サイト内検索で (十瑠)
2012-05-10 23:13:45
個別の記事があるかなぁと探したら、なつかしい記事を見つけた次第。

>アカデミー主要部門にノミネートされるほどかな

御意。わたくしめもそう思うとります。
正確には★は三つ半という所。
2004年に作品賞なんかにノミネートされた「サイドウェイ」よりは、まだましかとも思いますが。

IMDbでデータを調べていたら、この作品は7.6点で、「ジョンとメリー」は6.4でした。
コチラの方に唖然としました
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Unknown (kiyotayoki)
2012-05-12 19:26:32
この映画、タイトルさえ記憶にありませんから、当時まったく自分のアンテナに引っかからなかったんだろうなと(^_^;)
ピーター・イエーツ監督なら、少しは引っかかっててもよさそうなものなのに。
それにしてもデニス・クエイド若いですね。
デビュー間もない頃だったんじゃないでしょうか。
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kiyotayokiさん (十瑠)
2012-05-12 21:25:15
私のアンテナにひっっかったのが何時かもわからないのですが、とりあえずタイトルは知ってました。
デニス・クエイドは当時25歳。
兄貴と違っていい男なんですが、何故かアイドルにはなれなかった・・のですかね?
腹筋、割れてるし。
allcinemaのデータだと、これが日本デビュー作になるみたいですね。
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