テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

時計じかけのオレンジ

2023-04-12 | SF
(1971/スタンリー・キューブリック製作・監督・脚本/マルコム・マクダウェル、パトリック・マギー、マイケル・ベイツ、ウォーレン・クラーク、エイドリアン・コリ/137分)


ちょっと前に複数の若者が民家に押し入り住人に暴力をふるって金品を強奪するという事件が頻発したが、そのニュースを見ながらこの映画を思い出した。スタンリー・キューブリックの「時計じかけのオレンジ」。十代に封切りで観たはずで、いつか再見しようと思っていたのでレンタルしてきた。
 日本初公開は1972年。その後リバイバルで2回くらい劇場公開されたらしいが、その題材故にお茶の間でのTV放映は無かったと思うのでおよそ50年ぶりの鑑賞だ。

近未来が舞台なのでジャンルはSFという事になっているが71年当時の近未来だから考えてみれば現在よりは前の時代だろうし、外観にもSF感は希薄だ。1971年にはパソコンも無いし、主人公が聴いているベートーベンもレコードとカセットテープだった。

*

 アレックスをリーダーとする高校生4人組の不良グループは今夜も“ミルクバー”にたむろしていた。“ミルクバー”らしく白い飲み物をグラスで飲んでいたが、中には気分を高揚させるモノが入っているらしく、頭の中では彼等が言う所のウルトラバイオレンスな事を考えていた。
 まずは街に出て違う不良グループが女性を強姦しようとする所に登場し大立ち回り。アレックスチームが勝利した頃にパトカーのサイレンが聞こえてきたので退散する。
 街にはお年寄りのホームレスもいて、アレックス等はホームレスが嫌いなので侮蔑的な言葉をかけながら殴る蹴るの暴力をふるう。所謂“オヤジ狩り”でありますな。
 次は盗んだ車で暴走ドライブして対向車を次々と横転させる。飽きた所で一軒の民家に忍び寄り、ピンポーン。交通事故を装い電話を借りたいと騙して侵入し、応対した作家夫婦を縛り上げ、夫人を御主人の目の前でレイプする。
 こうした悪行の末にアレックスは仲間に裏切られ、殺人事件を犯して収監されるのだが・・・。

 1964年の「博士の異常な愛情」で戦争を風刺したキューブリックが今度は暴力をテーマに風刺劇を展開する。リンゼイ・アンダーソンの「if もしも‥‥(1968)」なんかをみても、およそ半世紀前から人類は犯罪の低年齢化、大人と若者の断絶なんかに悩んでいたんでしょうなぁ。「博士の異常な愛情」と同じく解決策の提言等は有りませんがね。

 全体は3幕に分かれていて、一幕目はアレックス等の傍若無人ぶりを描き、二幕目は捕まったアレックスが12年の刑を言い渡され、その刑期逃れの為に政府主導の暴力に拒否反応を起こす洗脳実験の実験台になるシークエンス。最終幕は実験が成功して刑務所を出るも実家に居場所がなく街を彷徨う内にかつて暴力をふるったホームレスや、警官になった以前の仲間に袋叩きにあい、挙句の果てにはアノ作家の家に助けを求めて・・という因果応報劇になっていく。

 作家の復讐で瀕死の重傷を負うも、それが逆に政府の洗脳実験への批判に発展し、実験の責任者がアレックスのご機嫌をうかがい始める所で終わります。その頃はアレックスはすっかり元の不気味な表情を取り戻しているという皮肉な結末なんですね。

*

お薦め度は★三つ。一見の価値あり。
 強烈なイメージが世界観の広がりを感じさせるけれど、今見ると時々出てくる景色に近未来感がないんだよねぇ。一般人も殆ど出てこないし、観終わるとやはりドラマとして物足りない。50年前はどう感じたか忘れちゃったけど。

SF感は希薄と書きましたが、アレックス等の服装(白の上下に股間のプロテクター)やミルクバーの内装(女性の裸体像がテーブルになっている)が変わっていて、そこが異次元という意味でSF感がありますな。

アレックス等が未来のスラングを使っていて、字幕も訳しようがないので発音通りのカタカナ語になっていて、これは確か原作の翻訳も同じだったと思いますね。意味はなんとなく察せられますがね。





・お薦め度【★★★=一見の価値あり】 テアトル十瑠

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