テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

if もしも‥‥

2013-05-27 | ドラマ
(1968/リンゼイ・アンダーソン監督/マルコム・マクダウェル、デヴィッド・ウッド、アーサー・ロウ、リチャード・ワーウィック、ルパート・ウェブスター、クリスティ・ヌーマン、モナ・ウォッシュボーン、/112分)


<ネタバレあります>

 1969年のカンヌでグランプリを獲ったイギリス映画で、当時、学校に出かける前に毎日見ていたTBS系の朝の情報番組「ヤング720(セブンツーオー)」で紹介されたのを覚えている。なにしろ、高校生が先生や親達に向かって銃を乱射するって話だったから子供心にもセンセーショナルだったんでしょう。
 監督のリンゼイ・アンダーソンの名前もこの時覚えた。カレル・ライスやトニー・リチャードソンと共に、イギリスの新しい波の監督の一人だが、寡作なので今まで観た映画はずっと後の「八月の鯨」くらいしかない。
 封切り時の双葉さんの評価は☆☆☆☆(80点)の傑作。その年の「SCREEN」誌の批評家ベストテンでも確か4位くらいに入ったはずなので、ちゃんと把握したいんだが、旧い時代の異国の話なので、僕には良く分からないシーンが多い映画であります。

*

 さて、「if もしも‥‥」は全寮制の男子校が舞台。
 「小さな恋のメロディ」でも描かれたのでイギリスの学校の厳格な雰囲気はお馴染みだが、「if もしも‥‥」に登場する学校や寮は「ハリーポッター」をも髣髴とさせるような歴史を感じさせる佇まいで、教師も「小さな恋・・・」以上に高圧的だ。日本で言えば中高一貫校の6年制で、上下のケジメももの凄く厳しい。しかも、生徒の中には生徒の言動を監視するような“監督生”という身分の子供もいて、彼等と一般学生との確執もイギリスならではの嫌みを感じる描き方がされている。監督生は特定の下級生を専属の小間使いのように使い、朝には髭剃りをさせ、入浴中にはティーカップを持ってこさせたりする。挙句の果てにはベッドに同衾させたりする輩もいるのだ。先生は答案用紙を投げて返すし、教室の中まで自転車でやってくる。中には授業中に男の子の洋服の中に手を突っ込むオヤジもいたりする。
 そんな名門学校の古くて、嫌らしくて、非人間的な体質を、体制に反抗する三人の上級生を中心にして描いた作品だ。

 反骨精神旺盛な子供の代表がマルカム・マクダウェル扮するミック・トラビス。役柄からでしょうが、3年後の「時計じかけのオレンジ (1971)」を思い出しちゃいますね。
 新学期の始まりが映画のスタートで、トラビスは何かと態度が反抗的なので監督生からも色々と嫌味を言われたり、罰を与えられたりする。オープニングクレジットから、黒澤映画を想起するような不穏なムードのBGMで、ミックと仲間のジョニーとウォレスにも不満が溜まっていってるのが良く分かる。但し、リンゼイ・アンダーソンの視点は彼等の心情に寄り添うというよりは、先生達や監督生のエピソード、新入生のジュートや美少年フィリップのエピソード、学校行事の点描なども入れながら、俯瞰的に全体の流れをじっくりと語っている感じ。僕から見れば、共感できるような大人も上級生も(ミック達も含めて)いませんがね。
 前半はその丁寧さが見応えがあるんですが、後半になって、学校行事を抜け出したミックとジョニーがカフェに入り、そこのセクシーな女性店員が登場する辺りから、夢か現か判断が迷うようなシーンが増えてきて集中力が切れてくる。リアルタイムで観ていればもっとニュアンスも感じ取れたんでしょうが、いかんせん、テーマも古びてる感じがするし、彼の国の風習にも疎いので、何がいいたいんだろうと思うところが段々と増えてくる。

 見せしめのために鞭打ちの罰がミック等に与えられて、ジョニーとウォレス以上に厳しかったので、アレで彼が切れたのが分かるんだけど、その後に乱射のシーンになるかと思ったら、その後の校内の軍事訓練に実弾を使って先生を驚かすという話になる。で、この事件で罰として使っていない校舎の一角の片づけを命じられ、その地下室で武器庫を発見し・・・という流れになるわけです。

 ラストの反乱シーンは、当然ミックらが憎むべき先生や、意地悪が過ぎてた監督生を狙って撃ち殺すんだろうと思っていたら、記念式典に来ていた親や来賓、先生等を漫然と対象にしていて、しかも、これは意図していたのか分からないが、人に銃弾が当たって倒れるショットは皆無に等しく、屋根の上から機関銃を乱射するミックたちと、バタバタと校庭に倒れる人々が写されるだけで、残酷性が殆ど感じられない。ちょっと拍子抜けでした。時代の違いでしょうかねぇ。日本では学生運動が激しくなっていった頃で、あれに参加していた人には分かるかも。つまり、この描き方で伝わる若者の怒りとか憤りの具合が。
 それと、乱射シーンになってそれまで全然ミック達との繋がりが薄かった別の生徒が反乱軍に居たり、学校には何の関係もないカフェの女の子が銃を構えているのも(しかも校長を射殺するし)これは現実なのか妄想なのかと観ている方を混乱させるような描き方なのも気に入らないですな。

 「男と女 (1966)」と同じように、何の前触れもなく、意図も不明のままにカラーフィルムとモノクロフィルムをバラバラに使っていました。あれも当時の流行だったのか?
 ところで、昔はただの「もしも‥‥」だったような気がするが、いつから「if」が付いたんだろう? それに、“if”って必要なのか?





・お薦め度【★★=話の種に観る分は、悪くはないけどネ】 テアトル十瑠

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