テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

博士の異常な愛情

2017-02-19 | コメディ
(1964/スタンリー・キューブリック監督・共同脚本/ピーター・セラーズ、ジョージ・C・スコット、スターリング・ヘイドン、スリム・ピケンズ、キーナン・ウィン、ジェームズ・アール・ジョーンズ、トレイシー・リード/93分)


 スタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅 (1968)」の前作でありますな。そしてその前が「ロリータ (1961)」になる。寡作だけど実に多彩な題材であります。時々難解な作風になることもあるけれど、これは分かりやすかった。いわゆる風刺ブラックコメディで、今作の風刺の矛先は戦争だ。

 ピーター・ジョージってイギリスの作家の原作があって、原題は【Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb】。この長いのは日本語タイトルにもなっていて、『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』なんて表記することもある。
 Dr. Strangeloveはピーター・セラーズ扮する、ドイツからアメリカにやって来た科学者の名前なんだけど、かといってこの博士が主役というわけでもない。なんでこんなタイトルになったんだろう?ひょっとして原作は博士による記述みたいなスタイルになっているのかな?
 脚本はこのジョージさんとキューブリック、そして風刺と言えばこの人って感じのテリー・サザーンの三人共作であります。

 製作年が1964年だから、米ソ冷戦時代でありますな。北極海のある島でソ連が新兵器の開発をしているらしいというナレーションの後、オープニングタイトルバックでは、アメリカ空軍の戦闘機が飛行しながらの給油を受けている映像が流れていて、そのBGMがまるで『♪ジェットストリーム~』という城達也の甘い声が聞こえてきそうなストリングスの曲。ラストのエンディング・ロールもこのオープニングに呼応するように、画面は衝撃的な映像なのにBGMは女性ボーカルのラブソングが流れるという洒落た作りになっておりました。洒落たというか、背筋が凍るようなキツイ皮肉なんですけどね。

 さて、物語の発端はアメリカ空軍ナンバー2の准将が嘘の攻撃命令を出すところから。冷戦時代だからソ連の周りには三十有余機のアメリカ軍の爆撃機が常時飛び回っているんだけど、准将は本土がソ連の攻撃を受けた場合の反撃を記したR作戦の実行指令を勝手に出しちゃうんですね。勿論アメリカは攻撃されてないのに。
 スターリング・ヘイドン扮するこの准将は、祖国が共産主義者に侵されているという勝手な妄想に取付かれていて、反撃計画は大統領の確認なんか待ってる暇はないから准将の判断で実行できるって所に乗っかっちゃったわけ。准将は空軍のナンバー2だけど、空軍基地のトップに座っている人物なので可能なんだ。
 後でおいおい分かるんだけど、彼の名前がジャック・リッパーって言うから笑っちゃうよね。この名前で直ぐに彼が狂人だというのが分かる。
 ソ連に向かう空軍機は、第三次世界大戦級の話だから一応指令を出した基地に確認するけど、基地の連中もトップ命令でラジオが没収されていてニュースも聞けない状況にされていたので、そのまま攻撃続行になってしまうんだ。

 驚いた政府はリッパー准将に連絡を取ろうとするけれど当然音信は不通。ペンタゴンに大統領以下政府の要人、陸海空軍のトップも揃って核戦争勃発を回避するべく対策会議が開かれる。
 空軍のトップに扮するのがジョージ・C・スコット。この軍人も秘書と懇ろになっているってシーンが出てきたり、会議の流れではこのままソ連を攻撃しちゃいましょうよ、なんて物騒なことをしゃべるといういい加減な人間として描かれている。

 一方、空軍基地ではリッパーの異変にいち早く気付いた副官であるマンダレイク大佐が、彼を諫めようとするが逆に司令官室に監禁されてしまう。このマンダレイクに扮するのがピーター・セラーズで、同盟国のイギリスから派遣されているという設定。後には、ペンタゴンの指令でリッパー制圧に陸軍がやって来るんだけど、マンダレイクもリッパーの籠城につき合わされることになる。彼の運の悪さが笑いを誘う所であります。

 映画は、この空軍基地のリッパーとマンダレイクのやり取り、ペンタゴンの会議の行方、そして嘘の指令を受けてソ連攻撃に向かう一機の爆撃機の様子をパラレルに描いています。
 ペンタゴンの会議中にはソ連の駐米大使が出て来たリ、ソ連の首相に直接電話を掛けたりしてまして、はてホットラインはもう有ったのかなと思ったら、キューバ危機の後だからもう出来てたんですね。電話でしか出てこないあの首相(声も聞こえなくて、大統領の受け答えでしかわからないんだけど)も、酔っぱらいのヒステリー持ちの変な奴だった。

 ピーター・セラーズは一人三役で、マンダレイク大佐とドイツからやって来た科学者ストレンジラブ博士とペンタゴンの会議に出席しているアメリカ大統領を演じています。
 大佐も大統領も賢明で善良な人物でしたけど、博士は不気味な怪演でありました。
 爆撃機の乗組員の一人に若き日のジェームズ・アール・ジョーンズが出ていたのが懐かしかったです。
 スリム・ピケンズは、最後までソ連の攻撃目標に向かっていく爆撃機の機長キングコング少佐の役でした。常識人に見えた少佐が徐々に狂気を帯びていく所も怖かったです。
 ツイッターにも書いたけど、ジョージ・C・スコットの演技は強面の割にはハシャギ過ぎの印象が残ったな。

 1964年のアカデミー賞では、作品賞、主演男優賞、監督賞、脚色賞にノミネート。
 NY批評家協会賞では監督賞を受賞。
 英国アカデミー賞でも、作品賞と美術賞(モノクロ)を獲得したそうです。





・お薦め度【★★★★=友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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2 コメント

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もう忘れ始めてますが (宵乃)
2017-02-21 13:14:19
見応えある作品ですよね。
ピーター・セラーズの一人三役は再見でも気付けなかったです。
名前がジャック・リッパーで狂人とわかるというのも、今読んで初めて気付きました(汗)
面白かったけど、まだまだ分かってないところがたくさんありそうです。また数年以内に再見したいな~。
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5年前ですか (十瑠)
2017-02-21 13:59:11
名前は知っていても、内容もおぼろげながら知っていても、実際に観るとこんなに良く出来たブラック・コメディとは思いませんでした。も少しモヤモヤ感が残るかなって思ってたんですが・・。

>ピーター・セラーズの一人三役

僕も最初は大統領は、?でした。あまりに真っ当な人間だったし、笑わせようという演技も無かったのでね。
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