テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

訃報:双葉十三郎さん亡くなる

2010-01-17 | [コラム]
21:05 from web
kiyotaさんからの情報で、双葉さんの訃報を。なんというか、いつかこの日が来るのは分かっていても、あまりに突然のことでした。しかも、ひと月前とは。
 「SCREEN」の「ぼくの採点表」で育ったような私なので、今日はホントに悲しい。寂しい。ご冥福をお祈り申し上げます。
合掌
23:46 from web
明日のブログは双葉さんの訃報に関しての追加記事を書く事になるんだろうが、さてさて何から書いてイイものやら。
 ウィキペディアにはペンネームの由来は「トム・ソーヤ」からとしか書いてない。勿論、マーク・トウェインの本の主人公ですな。トム=トミー=十三、ソーヤ=ソーヨー=双葉、であります。
by theatre_jules on Twitter

*

 電車で二(ふた)駅離れた町の高校に通い始めて、その降車駅にほど近い所にあったS書店が僕と「SCREEN」、そして双葉さんとの出逢いの場所だった。入学してまもなくの頃で、以来3年間欠かさず毎月21日には「SCREEN」を買い、「ぼくの採点表」を読んだ。

 スティーブ・マックィーンが好きでシャーリー・マクレーンが好きで、アラン・ドロンをドロン君と呼びイーストウッドをクリント君と呼ぶ。「めぐり逢えたら」の寸評では『現実で、メグに逢えたらなぁ』なんて仰有る。
 ハリウッド映画が好きなのかなぁと思ったら、パゾリーニの「アポロンの地獄」は☆☆☆☆(80点)の傑作評価で、「テオレマ」もそうだったし、「豚小屋」だって70点くらいはあったような気がする。ブレッソンの「バルタザール」も☆四つだったし、ベルイマンなんて殆ど☆☆☆☆(80点)以上だった。イギリス、フランス、イタリア、スウェーデン、インド、ギリシャ、何処の国の映画も公平に観ておられたし、宗教絡みなどで分からない事はそのまま分からないと書かれた。
 フェリーニの「アマルコルド」がお好きで、ジュリエッタ・マシーナもお好みだった。
 フランスではトリュフォーがご贔屓で、「恋のエチュード」、「暗くなるまでこの恋を」、「夜霧の恋人たち」、「アメリカの夜」などは新作として採点表で読ませてもらった。
 ヒッチコックも大のご贔屓で、「フレンジー」、「ファミリー・プロット」の採点表も新作でだった。
 リチャード・アッテンボローが「素晴らしき戦争」を作った時には、なかなかお目にかかれない☆☆☆☆★(85点)を付けられた。ベテラン俳優の監督デビュー作品だったが、素晴らしい、素晴らしいとべた褒めだった。

 スピルバーグもその頃は新人監督だ。
 『映画の優秀な着想には二種類ある。誰も思いつかない奇想天外な話を編み出すケース。平凡な事柄なのに何故今まで思い付かなかったんだろうと口惜しくなるケース。「激突!」は後者の模範・・・』
 そう言って、この新人の作品を誉められた。勿論、☆☆☆☆。

 僕が「採点表」を読み出した頃は既に還暦に近いお歳だったはずだが、段々と増えつつあったポルノまがいの作品も登場した。流石に数年経つと、とてもじゃないがワンパターンで観ちゃおれん、という理由かどうかは忘れたが、そういう作品はコーナーから消えていった。「エマニュエル夫人」とかキャロル・ベーカーの出演したイタリア製ピンク映画などは書かれていたと思う。そうそう、スウェーデン製の「私は好奇心の強い女」なんていう作品は唯のポルノとは言えないものだったようで、先生の評点も可成りよかったように覚えている。

 文芸春秋の文春新書から何冊か双葉さんの本が出ている。「外国映画ぼくの500本」、「日本映画ぼくの300本」、「愛をめぐる洋画ぼくの500本」などなど。どれも「ぼくの採点表」のエッセンスだけを取り出してまとめた本だが、「外国映画ぼくの500本」の巻末には『ぼくの小さな映画史』として氏の子供の頃からの映画との関わり合いが書かれている。小学校の高学年から“一応の意識を持って”映画を観るようになったそうで、1910年(明治43年)のお生まれだから、その頃はまだサイレント映画。チャップリンの「キッド」を新作で観たそうである。なんとまぁ!
 その後のトーキー映画の誕生、モノクロからカラーへの変貌も見届けられ、シネマスコープに70mm、3D映画も「スター・ウォーズ」の特撮も、近年のCGもご覧になっているわけだ。まさに生き字引だったわけです。

 2万本以上の映画を観られたという双葉さん。「ぼくの採点表」も40年以上に渉って書き続けられ、何冊かに分けられて分厚い本になっている。お高いのでなかなか手が出ないが、図書館に行けばいつでも(どの巻かは)読めるので、とりあえずはそれで我慢している。以前このブログでも紹介したが、「映画の学校」という昌文社の著書(1973年出版)があって、これは「採点表」の数倍濃い内容で、オカピーさんが非常に面白いとご指摘の「日本映画月評」も添えられている。今思えば素晴らしい買い物をしたと自負しております。

 享年99歳。
 1歳年上だった淀川さんは11年前、88歳で亡くなった。
 『ぼくの小さな映画史』の中で淀川さんとの出会いについても書かれている。1934年(昭和9年)6月13日、場所は大阪。双葉さんは住友の社員であり、淀川さんはユナイテッド・アーティストの社員だったが、雑誌の投稿欄でそれぞれの存在は知っていた、そんな間柄だったそうだ。
 『あれから70年近く、ずっと仲良くしてきた。映画で言い争うこともなかった。お互いがよく分かっていて「あれがね」と言うと「あれだね」で終わってしまうからだ』
 双葉さんがリリアン・ギッシュが好きだと言えば、淀川さんはパール・ホワイトが好きだと言い、そして二人ともグロリア・スワンソンのファンだった。
 今頃は、やぁやぁとか言いながら旧交を温めておいでではないかと思ってしまうのだが・・・。
コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« エリック・ロメールの死去、ほか | トップ | 双葉先生の著書、購入 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ホロリ (オカピー)
2010-01-17 14:02:51
双葉師匠は超人だから百歳を何年も越えて文章を書かれると信じる一方で、いつかこの日が来ると覚悟はしていましたが、やはり落ち込んでおります。

>「映画の学校」
小林信彦氏との対談も大変興味深く、必読です。

しかし、十瑠さんは文章が上手い。
最後の一段には思わずホロリとしてしまいましたよ。

今はご冥福を祈るのみです。
返信する
オカピーさん (十瑠)
2010-01-17 16:16:01
コメントありがとうございます。
なんだかねぇ。気分が落ち込みますねぇ。

もう一度「ぼくの採点評」も借りて読みたいのですが、色々と所用もありまして、自前の本をパラパラと読み返したりなぞしております。
オカピーさんには是非とも第2の双葉・・・、いやいやプロフェッサー・オカピーとして正しい映画鑑賞法の普及を進めて欲しいものです。

早速今日も新しい映画評がアップされましたね。
返信する

コメントを投稿

[コラム]」カテゴリの最新記事