テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

2013-04-14 | ドラマ
(2011/スティーヴン・ダルドリー監督/トム・ハンクス、サンドラ・ブロック、トーマス・ホーン、マックス・フォン・シドー、ヴァイオラ・デイヴィス、ジェフリー・ライト、ゾー・コードウェル、ジョン・グッドマン/129分)


 2001年に発生した「9.11事件」で最愛の父親を亡くした少年が、1年後に父親のクローゼットから花瓶の中に入った鍵を見つける。鍵は小さな紙の袋に入っており、何かヒントになる話を聞こうと行った鍵屋で、『袋の裏に「Black」とメモがある。これは人の名前だろう』と言われた。
 少年は“あの最悪の日”、学校から早めに帰った後、留守番電話に録音された父親の声を聞いた。それは彼が聞いた最後の父の声だった。サヨナラも言えずに逝ってしまったお父さん。少年はNY中の『ブラック』さんを訪ねて回り、“この鍵が開ける何か”を探し出そうと思う。きっとそれはお父さんとの絆をもう一度結んでくれる何かであるに違いないと信じて・・・。

 2005年に発表されたジョナサン・サフラン・フォアの同名小説の映画化。

 主人公の11歳の少年オスカー・シェルを演じたのは12歳のトーマス・ホーン。DVDの特典映像ではトム・ハンクスやヴァイオラ・デイヴィス等が、彼の監督の演出意図の理解度の深さ、演技に入る際の集中力の高さを絶賛していました。TVのクイズ番組に出ていた所を見たプロデューサーにスカウトされた少年は、映画出演は勿論、演技経験も無いズブの素人との事でした。

 「9.11事件」のおよそ1年後が物語の始まりで、オスカーの独白をまじえながら、彼が“あの最悪の日”の忘れ物を取りにいく話であります。

 オスカーは少し変わった少年で、劇中ではアスペルガー症候群の検査を受けたことがある事になっている。検査結果は「不確定」。父親のトーマスは息子の頭の良いのは結構だが過剰な恐怖心はなんとか克服させてやりたいと思っていた。『ブラック』さん探しにはアチコチに行かなくてはいけないが、電車や人ごみが苦手なオスカーは徒歩を敢行し、それでも恐怖心が高まりそうな時にはタンバリンを耳元で鳴らして紛らわせることにした。
 序盤には事件以前のオスカーと父親とのエピソードが盛り込まれ、それは折々にオスカーが思い出す父親の姿だった。父は息子にテコンドーを教え、公園のブランコ乗りの楽しさを示した。矛盾言語の言い合いもした。そして一番の楽しみは、“調査探検ゲーム”だった。

 「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い【原題:EXTREMELY LOUD AND INCREDIBLY CLOSE】」は、“調査探検ゲーム”用のノートにオスカーが付けたタイトルでした。ビビリっ子と同級生に揶揄される彼にとっての周りの世界に対する印象を言葉にしたものなのでしょう。初見時には、こまっしゃくれたオスカーの言動に作為が過ぎるし、心情的に馴染めない感じがあったのですが、2度目を観た時に、こういう特異な少年を主人公にもってきたが故の心のドラマであると納得したのでした。

 トム・ハンクス扮するのが父親のトーマス。NYで店を構えて宝石商を営んでおり、9.11にはたまたま商談でWTCビルの105階にいたのでした。生前にオスカーに語った所では、トーマスの父親はドイツ、ドレスデンからの移民で、何故かトーマスは父親には会ったことが無いとのことでした。vivajijiさんも書かれていましたが、宝石商には見えなかったですね。宝石を扱う人って、感情を表に出さないクールな印象が強いですから。

 母親リンダ役はサンドラ・ブロック。威勢の良かった「スピード」から早十八年。しっとりとした眼差しが母の愛を感じさせる女優になっていました。
 空っぽの棺で夫を弔うリンダをオスカーはお葬式ごっこみたいだと軽蔑しますが、半分は忘れ物をした自分への怒りもあったのだろうと思います。

 オーストラリア出身のゾー・コードウェルはオスカーのお祖母ちゃん役。
 お祖母ちゃんは息子トーマスの入っているマンションに隣接するマンションに住んでおり、そこはオスカーとトランシーバーで連絡が取れるほどの近さだった。彼女は息子が亡くなって3ヵ月後に、マンションの一部屋に故郷の古い友人だという老人を間借りさせた。怖い人だから話しかけないようにとオスカーには言ったが、後にオスカーが偶然に逢ったその人は口の利けないお爺さんだった。昔の恐怖体験のトラウマからかしゃべることが出来ない老人は常に紙と鉛筆を持って筆談をした。

 その間借り人に扮したのが、スウェーデン出身の世界の名優マックス・フォン・シドー。
 口の利けない老人は片方の掌に「YES」、もう片方に「NO」と書いていて、簡単な質問には該当する掌を見せて答えていた。母親にも内緒で鍵穴探しをする少年を見かねて、ある時から間借り人も付き合うことになる。

 オスカーは“パパとの8分間を延ばす為に”鍵穴を探すと言っていました。8分間とは太陽の光が地球に届くまでの時間で、つまり太陽が爆発して無くなったとしても、地球にはまだ8分間は光が届くことになるという事。父親の死を受け入れるのを先延ばしにしようという意味であろうと思います。

 スティーヴン・ダルドリーの映画は「めぐりあう時間たち」についで2本目です。
 時間も場所も違う3人の自殺する人物を主人公にした「めぐりあう時間たち」は、寡黙な主人公達を、今作のオスカーのような独白も無く描いていたので非常に分かりにくい映画でした。僕は元々論理的な作り方の映画が好きなので、雰囲気重視の「めぐりあう時間たち」はどうも・・・。
 「めぐりあう時間たち」も今作も原作小説のある映画ですが、ダルドリーはきっと原作をじっくりと読み込み、ほれ込んだ物のみ映画化するタイプなのではないでしょうか。ほれ込んだが故に原作のニュアンスを盛り込もうとして、原作を知らない人にはかえって不可解さ、曖昧さを生じさせるのではないかと。映画制作の段階でどこかで客観的な視点が緩んでしまうのではないでしょうかネ。今作にも雰囲気優先で作られたようなショットが若干あって、初見でストレートに心に響かなかったのはそのせいでしょう。しかしエリック・ロスの優秀な脚本にも助けられて、観る回数を増やすたびに行間の理解度が増していったのでした。

 2011年のアカデミー賞で作品賞と助演男優賞(シドー)にノミネート。
 放送映画批評家協会賞でも、作品賞と監督賞、脚色賞にノミネートされ、オスカー役のトーマス・ホーンが若手俳優賞というのを受賞したそうです。





ネタバレ備忘録その1
ネタバレ備忘録その2
ネタバレ備忘録その3

※ タイトルの意味を明確に解釈しているサイトにはなかなかお目にかかりませんでしたが、コチラのブログが、ほぼ同じ解釈でした。参考まで。(4月18日追記)

・お薦め度【★★★★=2回以上観るように、友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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6 コメント

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弊記事までTB&コメント有難うございました。 (オカピー)
2013-04-14 21:29:23
鑑賞ベースで昨年のNo.2にした作品ですから、どきどきしながらこちらへ飛んで参りました(笑)が、★4つで安心致しました。
当方の場合は最初から感性と合い【絶対お薦め】だったわけですが、単純に言えば、大変面白かったわけでして(笑)。
僕の評価した点は映画評をお読みいただいている十瑠さんにはお解りですので繰り返しませんが、脚本が巧かったと思います。きっと原作も良いのでしょう。

時間をおいて(勿論おかなくても)何度も観たい作品です。
十瑠さんのご指導通り、最初気に入らなくても二度観れば評価が上がること間違いなし!
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オカピーさん (十瑠)
2013-04-15 08:43:14
現在のロード・ムーヴィー的なストーリーもいいし、折々に入ってくるフラッシュバックのタイミングも良いし、★五つに成るかもと思いながら2回目を見たんですが、フン切れませんでした

>きっと原作も良いのでしょう。

原作者が28歳の時に書いた本らしいですね。
面白そうです。
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ご参考になれば。 (vivajiji)
2013-04-16 19:37:50
http://kinoer.exblog.jp/15488557

私がちょくちょく立ち寄るブログです。
おヒマなときにでも。
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vivajiji様 (十瑠)
2013-04-17 06:30:15
「キノ2」さんは以前ブックマークされてたサイトですよね。
映画ブログで自分の感想だけをポンポンと書いて終わりみたいなのがありますが、それよりもこういう風にストーリーを追って書かれているのは好感を持ちますよね。

今、ネタバレ記事の最後にリンダの事を書いているので、終盤に突然リンダ視点のエピソードが出てきて違和感があるという部分には、少し異議が。ま、それは次の記事で・・・。
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素人だったんですか! (宵乃)
2016-11-17 16:00:22
全然気づきませんでした。きちんと演技できてるから、小さい頃からやってる子役なのかと…。
お祖父ちゃんに留守電を聞かせようとするくだりは鬼気迫るものがありました。熟年俳優と素人少年の演技のぶつかり合い…。すごい才能ですね~。これからの活躍に期待!

最後のブランコのエピソードは映画オリジナルだそうです。父親と母親、祖父との関係など、原作のエッセンスを上手に取り入れて、映画として完成させてましたね。
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トーマス・ホーン君 (十瑠)
2016-11-17 21:47:52
1997年生まれですから来年20歳ですね。
2016年にはショート・フィルムですが、アシスタント・ディレクターを兼ねた出演があったようで、今後の活躍が気になる青年です。

>原作のエッセンスを上手に取り入れて、映画として完成させてました

そうですか。
少年の一人称に、祖父や祖母の手記も交えているらしい原作。エリック・ロスの脚色も素晴らしかったんでしょうね。
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