テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

ランド・オブ・プレンティ

2021-05-12 | ドラマ
(2004/ヴィム・ヴェンダース監督・共同脚本/ジョン・ディール(=ポール)、ミシェル・ウィリアムズ(=ラナ)、ウェンデル・ピアース(=ヘンリー)、リチャード・エドソン(=ジミー)、バート・ヤング(=シャーマン)、ショーン・トーブ(=ハッサン)/124分)


「パリ、テキサス (1984)」しか観てないヴィム・ヴェンダースだけど「ベルリン・天使の詩 (1987)」とか「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ (1999)」とか前から観たいと思っている作品もあって、改めてデータを見てみると「アメリカの友人 (1977)」とか「都会のアリス (1974)」、「アメリカ、家族のいる風景 (2005)」なんていう知っているタイトルも沢山あることが分かった。こりゃのんびりしてられんな。
 何となくジム・ジャームッシュと同じゆるい系のイメージなんだけど、どちらもドイツの血が入ってるんだね。

何年も前に買ったレンタル落ちDVDの鑑賞。
 監督の名前だけで買ったはずでストーリーは知らないと思っていたが、MYブログを検索したら2005年に<ヴェンダースの新作>として記事にしていた。有田芳生氏のHP内にある日記に試写会後の感想として面白かったと紹介されていて、コレは覚えておこうと書いていたのだ。5年前に買ったとしても記事からは十年は経っているんだが、完全に忘れてたネ。

*

 9.11事件から2年後のカリフォルニアが舞台。
 主人公は二人。それぞれのエピソードが冒頭から並行して語られていって、中盤からは二人のロードムーヴィーとなって行く。
 まずは元グリーンベレーの中年男ポール・ジェフリーズ。
 監視用機器を装備した中古のバンに乗って街中を巡回、監視するのが日課となっているポール。日課というよりは生粋の愛国者としてソレが使命だと思っている男だ。ベトナム戦争時代の枯葉剤の影響であちこち激痛が走ったりするが弱音は吐かない。ターバンを巻いた男を見れば怪しいアラブ人として追跡したり、定期的に川の水を採取して生物化学兵器や爆弾製造の兆候がないかを調べたりもする。
 分析をしてくれるのはポールよりちょっと若いジミー。ポールを“曹長”と呼んでいるが戦時中からの知り合いなんだろうか。真面目でどこか心根の優しさが滲み出ているタイプの男だ。
 2001年の9.11後、アメリカにはポールのような男性が増えたに違いないよね。ヒステリックな事件も起きてたように記憶する。今はコロナの影響でアジア人が憎悪の対象だけど。

 もう一人の主人公はラナという二十歳の少女。名字はスウェンソン。
 父親は宣教師で両親に連れられてアフリカや中近東で暮らしてきたが、母親が病死し、その母親の薦めでアメリカに住む伯父を探しにやって来たのだ。母親からの手紙を渡す目的もある。およそ十年ぶりの帰国だ。
 冒頭でテルアビブからロスの空港に到着。迎えてくれたのはロスの貧民街で伝道と慈善活動をしている宣教師のヘンリー。ラナが小さい頃から知っているので今回の帰国の手配をしてくれたのだ。アメリカでホームレスの数が一番多いと言われるカリフォルニアで、彼らを救おうとしているヘンリーの手伝いをしながら伯父を探すことになる。ほぼリュック一つが全財産だがノートパソコンさえあれば世界中の情報が手に入り地球の裏側の人とも話が出来る。パレスチナの友人ともチャットが出来るラナなのだ。

 ラナが探している母親の兄がポールであることは予想がつき、割と早い段階で明らかになるもコンタクトはスムースではなかった。ポールは勝手に私設米国防衛隊の隊長を任じているが、テロリストからも監視をされているかも知れないという意識があるからだ。
 母親に聞いた住所でラナはジミーに出会い、彼に聞いた伯父の携帯番号に伝道所から電話するもポールは出ない。改めて後に公衆電話からその番号に掛けてくるのだ。誰が盗聴しているか分からない、ポールはそう思っている。僕には少し滑稽にみえるポールだが、ラナは勿論真剣に対応する。
 『名前は?』
 『ラナ、ラナ・スウェンソン』
 ポールは伝道所の情報を聞いてきた男を装っていたが、ラナの名前を聞いた後の少しの沈黙にラナは彼が伯父であると気付く。
 『ポール伯父さん』
 用事があればまた掛けると言いながらポールは電話を一方的に切る。

 翌日、ラナの様子を見ようとポールは伝道所の給食部屋にやって来るが、そこで数日前から監視対象にしている一人のアラブ人に遭遇する。洗剤メーカーの箱を抱えて街をうろついていた男だ。バンから男を監視するポール。
 夜になり、ターバンを巻いた男は伝道所のすぐ近くの路上に段ボールを組み立て、数人の男達とドラム缶で火を焚きながら暖をとっていた。
 すると、ポールのバンの反対側から一台の黒い大きな車がやって来て、ホームレスの段ボールに火を放ち、ポールが監視していたアラブ人に弾丸を打ち込んだ。あっという間の出来事だった。
 ラナやヘンリー達が伝道所から出て来てアラブ人を介抱しようとしたが、男はポールの腕の中で死に絶えた。『トロナ』という言葉を残して。

 ここまでで上映時間約45分。
 その後、ジミーの調査で「トロナ」とはソルトレイクの近くの町の名前である事が分かり、警察で被害者の名がハッサン・アフメッドである事を聞いたラナがネットで「トロナのアフメッド」で検索して、親族らしき人物がトロナに一人いる事が分かった。
 家族に遺体を引き渡したいラナはポールに遺体を運ぶことを頼む。ラナ曰く、「トロナ」に行けばテロリストの様子が知れるかもしれないし、遺体を運ぶのだから怪しまれない。
 こうして、二人の短い旅が始まる・・・。

*

お薦め度は★三つ。
 まるで“ごっこ”に見えなくもないポールのエピソードだけど、当時のアメリカ人の焦燥というか9.11のトラウマというか、ただ笑って済ますわけにはいかないモノを感じるんだよね。そして、雑に見えながらエピソードが無駄なく繋がっていくのも良い。
 音楽の使い方も現代風で、時にミュージックビデオの様に見えるシーンもあり流石“ゆるい系“という感じでした。
 後半は二人のロード・ムーヴィーになるって書いたけど、ラナに関していえば最初からずっとそうなんだよね。

特典映像によると全編デジタルカメラでの撮影で、俳優陣からすると小さなカメラだし、準備の時間も要らないので演技に集中できたらしい。監督においてはフィルム撮影のような物理的な制限を気にしなくてよく、NGにも誰もイラつかなかったとの事。ヴェンダース曰く、小さいので殆ど手持ちでの撮影だったがドキュメンタリー風にはならずに映画らしく仕上がった。
 撮影監督はフランツ・ルスティヒ。

ジョン・ディールは「ジュラシック・パークⅢ」に出てたとの事。多分捜索隊の護衛の役だったと思うが覚えてない。
 ミシェル・ウィリアムズは「ブロークバック・マウンテン」でお逢いしましたな。
 「ロッキー」シリーズのエイドリアンの兄貴でお馴染みのバート・ヤングは伝道所の管理人の役でした。


▼(ネタバレ注意)
 トロナの調査の結果はポールの完全なる見当違い。己の勘の鈍ったことにショックを受けたポールはトロナのモーテルで酔いつぶれ、ラナに介抱される。
 ハッサンの葬儀の間、ポールはラナの母親、つまり妹からの手紙を読む。
 かつて考え方の違いで仲違いした兄妹だったが、余命幾ばくも無くなった妹は兄に自分が幼く間違っていた事を誤り、残していく娘の事を託す。ラナには宣教師の父親がいるが、その妻からすると娘の将来を託すには頼りなかったらしい。

 ラナは9.11の時に中東にいて、周りのアラブの人々が歓声をあげていた事にショックを受けたと話す。アメリカやアメリカ人を嫌う人々が世界にはいるのだ。
 9.11でツインタワーで亡くなった一般市民は3000人以上。彼らはテロリスト達への報復を望んでいるだろうか?
 ラストシーンは、バンでニューヨークに向かうポールのラナの姿。そしてグランドゼロを見下ろす彼らの姿でした。

 余談ですがポールの携帯の受信音はアメリカ国歌でした(笑)
▲(解除)






[05.14 追記]
 昨日監督の解説付きバージョンを観たらジミーもベトナム帰還兵という事でした。そしてポールとジミーの家は隣同士だけど、ポールはバンに寝泊まりしてるとの事。
 また、携帯のアメリカ国歌は標準で付いていたそう。なるほど。


・お薦め度【★★★=一見の価値あり】 テアトル十瑠

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 世界的北欧娘 【Portrait Q ... | トップ | スリーピング・アイ 【Portr... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ドラマ」カテゴリの最新記事