はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

臥龍的陣 花の章 その2 留守番・陳到

2022年07月01日 09時20分48秒 | 臥龍的陣 花の章
関羽は新野の武将たちのかなめである。
その関羽に睨まれてしまうと、新野では、やっていけない。
もっと面倒なことになる。
人攫いの行方を探るなどという大変な仕事は断るつもりであった陳到は、すごすごと引き下がるしかなかった。
娼妓ごろしの『狗屠』のゆくえは張飛が調べることとなった。

趙雲と孔明、それから伊籍の出立は早く、鶏《とり》が鳴くのと同時に新野をあとにした。
劉備のほか、関羽、張飛、そのほか孫乾《そんけん》や簡雍《かんよう》などの文官らも見送りにあらわれた。
劉備は、なんども孔明の手をとって、うまくやってくれと頼み、孔明はそれに応じて頼もしく笑って見せていた。
趙雲は関羽にあとのことを頼み、関羽はそれにうなずきで返したが、関羽の隣の張飛は、どうして自分が趙雲の代理で主騎にえらばれなかったのかとふくれっ面をみせていた。

陳到も見送りに行ったのだが、趙雲の思い詰めた顔が気になった。
おそらく、斐仁のことに責任を感じているにちがいない。
しかし、相手が悪い。
斐仁は、おそらくだましの天才だったのだ。
足が悪いということも、屋敷の外観は質素にして内側では派手に暮らしていたということも、だれにも気づかれずに長年過ごしていた。
片足を引きずる動きには不自然なところはなかったし、言動にしてもおかしなところはまったくなかったのだ。
それゆえに、人を見る目に自信があった陳到ですら、斐仁は有能だが口の重い、平凡な男だと思い込んでいた。
もちろん、趙雲の眼力をもってしても、斐仁の正体を見破るのはむずかしかっただろう。

「叔至《しゅくし》、あとは頼んだぞ」
趙雲は、かれらしくないこわばった顔で陳到に言った。
「分かり申した、おまかせください」
答えると、趙雲はさらに言った。
「関将軍の言いつけをよく聞くのだぞ。それと、夏侯蘭のことも、申し訳ないが、頼んだ」
ああ、そういう面倒もあったなあ、と陳到は内心うんざりしつつも、表面では満面の笑みを浮かべて、
「ご心配なく。この陳叔至、けんめいにつとめを果たしまする」
と言い切った。
趙雲は、よし、とうなずいてから、馬上の人となった。





ご心配なく、と言い切った手前、人攫いの捜索も、夏侯蘭の追跡も、しっかりこなさなければなるまい。
ぶつぶつ文句を言う割に、陳到はやることはやる。
陳到は人攫いを探すために、選抜した部下たちをさらに班に分けて、聞き込みをさせた。
子供を攫われた親たちに話を聞きに行く班、人攫いを見かけたと通報してきた者たちに話を聞く班、それから子供を連れた不自然な集団がいなかったかを聞き取る班。

初日のため、収穫はなかった。
ただ、子供を攫われた親たちに話を聞いた者たちが、里の親を思い出したらしく、悲しげな顔をしているところが困ってしまった。

「それにしても、雲長《うんちょう》どのにも参るわい。人攫いを探せとはおおざっぱで無茶な命令ではないか。どこからどう手を付けたらよいのやら」
趙雲からあずかった兵卒たちの調練を指揮しつつ、ひとりでぼやいていると、部下のひとりが飛んできた。
「叔至さま、喧嘩が起こっております」
「喧嘩なんぞ、てきとうに仲裁しておけばよいではないか」
「ですが、東の蔵の当番をめぐっての喧嘩は、今月で、もう五度目です」

つづく


ブログランキングに協力してくださっている方、ありがとうございます(^^♪
励みになりますので、また遊びにいらしてくださいねー!


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。