はさみの世界・出張版

三国志中心(蜀漢多め)創作小説のHP「はさみのなかまのホームページ」の出張版です。
旧作多数掲載中!(^^)!

おしらせ。

2018年12月12日 20時20分28秒 | Weblog
寒い日がつづきますねえ。
みなさま、お変わりないでしょうか、はさみのです。

東北くくりでガンガンに全国放送されているため、東北にある仙台も雪の中かと思われているかも。
いや、東北って広いし!
そもそも、仙台市って、毎年、雪が少ないんですよ(東北のわりに)。
今朝もちょっぴり、うっすらと積もった程度なんです。
これから雪の降る日も多くなりましょうが、わたしも負けずに外に出て、体力づくりをしよう、などと思っています。


さて。
以前に、『秘密の新ブログを作った』と、怪しげな記事を書きました。
じっさいに、はてなブログで作ってみましたが、運営してみると、とりたててきわどい内容を書けるものでもなく。
「あ、これならふつうにリンクを貼って公開したほうがいいな」
と思い直しました。

そんなわけで、サイトにはブログ「こんがらかるる日記」へのリンクを貼りました。
こちらのブログにもリンクを貼りますので、お時間ありましたら、覗いてみてください。
主に、創作状況や創作への想いを書いています。
近況もちょっぴり。
ちなみに、ネタがけっこう出てくるので、毎日更新しています。

ではでは、あらためまして、どうぞよろしくです(*^^)v

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実験小説 塔 その13

2018年12月12日 09時35分43秒 | 実験小説 塔


「風がきついのは、山肌に当たった風が、こちらに跳ねかえってくるからだと宿の主が言っていたな。冷えてしまうが仕方ない。庭に出てやっとひとりになれた。
記憶がないと、あんなに口数の多い男だとはな。雛の親になった気分だ。それとも、単に心細さが先に立ってしまうのか。あたりまえのことだが、子龍も人の子というわけだな。
やれやれ、宿の窓からこちらを見ている。ほかに見るべきものがあるだろうに」
「石でも投げてやったらどうだ」
「やはり、ずっとついて来ていたのだな、赤毛。そのまえに、おまえに石を投げてやりたい気分だな。勝手に石を二つも押しつけていった。いきなりご神体のなくなった村では、暴動が起こっているのではなかろうな」
「それもまた、『反動』だろう」
「おまえに名前がないというのも不便だな。名前を忘れたのか、それとも捨てたのか。まあ、どちらでもよいわ。不便であるが、あえて名づけてやるつもりもない」
「俺もかまわん。見届ける者。それだけでいい」
「そのわりには、口を出すわけだ」
「おまえには、なんとしても『塔』に向かってもらわねばならぬからな。それより、面白いことになっているじゃないか。あの男を取り戻したければ、おまえも石に願いをすればいい」
「そんなことをしたら、石の災禍はますます広がりつづける、ということではないか。第一、矛盾しているぞ。わたしが『塔』に行くことができなくなっても、おまえにはどうでもいいとでも」
「願いが叶う反動は、どうやって訪れるかは、俺にも予想がつかないのさ。案外、おまえたちには累が及ばない形で、まるく納まるかもしれないぞ」
「となると、だれかが不幸になるということではないか。いちいち不愉快なやつだ」
「そういう性分なのさ。それよりも、おまえは、あいつが何を願ったか、気づいているのだろう」
「それがどうした」
「故郷にあいつを返してやって、どうするつもりだ。常山真定の趙家は、いまや零落の一途をたどっているのだぞ。おまえはそれを知っているだろう。
あの男が帰ったところで、食い扶持が増えると困ると、厄介者扱いを受けるのが関の山だ」
「そうだろうか。子龍の大きな障壁となっていた父親は死に、長兄という男との確執も、記憶がなくなったのであれば、もしかしたら解消できるかもしれない。いや、子龍ならば解消できるであろう。
それに記憶をなくしたといっても、能力そのものは失われていないのだ。子龍ならばきっと、故郷の家を再興させることができよう」
「そんなことになると思うか?」
「なる。子龍は、いつまでも父や兄のことに捕らわれている。わたしに向けている心も、父や兄の不品行に対する反発が、大きく歪んだものなのだ。
苦しかっただろうよ。どうであれ八方塞だ。未来がみえない。
記憶がないことで不安にとらわれるのと、記憶にとらわれて、いつまでも明けることのない夜のなかに閉じ込められたような思いのまま生きていくのと、どちらが苦しいだろうか。後者であろう。
だからこそ、石に願いをこめたのだ。
自分を苦しむすべての心を取り去ってほしいと、子龍はそう願った。
だから、側室だった母親や、ほかの女たちを苦しめていた父、父親の妾を盗んでいた兄を憎んでいた少年のころの記憶、ほかならぬ主君に憎まれ、師匠たる男にすら妬まれ、苦境に立たされていた公孫瓚のもとにいたころの記憶、そして、そのあと、流浪者として、あまり口外できないような生活をくりかえしていたあいだの記憶、さらには、わたしと出会って以降の記憶がなくなっているのだ。
思い出してしまうと、苦しいから」
「つまり、おまえは、やつの人生の傷のひとつとして、あっさりと切り捨てられてしまったというわけだ。気の毒に、同情するよ。だから、あんなに冷たい態度をとっていたのだな」
「勝手に判断するといい。おまえにわたしのなにがわかる」
「言っただろう、俺は見届ける者。人外の者なのだぞ。
そうか、わかった。冷たい態度をとっているのは、女々しく捨てられたことを恨んでいるのではない。
おまえは傲慢なやつだな。せっかく記憶をなくしたあいつが、また同じような心を持ってしまうことがおそろしいのだろう」
「だまれ」
「そう思いたい、というのが本音なところなのじゃないか? あいつがおまえに心を傾けるようになったそもそもの要因は、常山真定の家にあるのだ。それを忘れているということは、同じことが起こる可能性は、ひくい」
「だまれというのだ!」
「ふん、笑わせる。天下の智者と謳われるやつにしては、ずいぶん女々しい考えだな。
おい、石を使ってみたらどうだ。二つもある。反動が来たら、もうひとつの石で反動を食い止めればいい」
「くだらぬ手を。ひとつの願いに対して反動が起こるのであれば、『反動を止めてくれ』という願いにも『反動』がくる、ということだろう。
わざとわたしに石をつかわせて、残りの三つをなんとしても探させようという魂胆か」
「疑い深いやつだ。ひとが親切を言ってやったのに。石は石を呼ぶ性質がある。ただし、石を使わないやつに、石は惹かれる。おまえが石を使っちまったら、なんにもならないのさ。
どちらにしろ、おまえはこの状況からぬけだせないぜ。
おっと、あいつが来た。しかも女を連れている。
どうだ、おまえの下手な気遣いは無用なようだぞ。あいつのご面相なら、ほうっておいても女のほうから寄ってくるであろう」





「熱があるやつが、どうしてこんな風のつよいなかに立っている!」
「赤毛の男と話をしていただけだ」
「赤毛の男? どこにいるのだ、そんな奇妙なやつが」
「………消えたか」
「まったく。やはり、あんたからは目が離せんな。広い部屋が空いていると言っていたし、宿の主人にいって、やはり相部屋にしてもらう。もう決めたからな、いやだといっても、そうするぞ」
「そこの女はどうする。女と一緒に相部屋なんぞ、ご免蒙る。あなたはあなたで、好きに楽しめばよかろう」
「は? ああ、この女か。この女は、たまたま宿に泊まっていた薬師だ。病人がいると宿の主人に説明したら、紹介してくれたのだ」
「薬師? 呪師か巫女のまちがいではないのか。どうみても漢族ではなさそうであるが」
「ああ。西域のほうから流れてきて、この近辺をまわって稼いでいる女らしい」
「まだ若くてきれいな女だから、よろこんで連れてきたのではあるまいな?」
「それも少しある」
「あちらへ連れて行ってくれ。医者というのならばともかく、薬師なぞ、わたしには不要だ。
すっかり忘れているようだが、わたしも琅邪の古い巫子の血筋を引く家の長なのだぞ。薬の知識は十分にある。医巫同源というわけだ。ひとつ利巧になったな、女好き。相部屋は取り消してくれ」
「なんでそんなふうに怒るのだ? あんた、俺の女房みたいなやつだな」
「は?」
「ああ、言い間違えた。俺の女房がいたと仮定して、もしいたら、似たような反応をしたのじゃないかと言いたかったのだ」
「だれがあなたの妻だ、気味の悪いことを。おかしなことを言うから、その女も、見ろ、わたしを、おかしな目で見ている!」
「すまん、俺の言葉が足りなかった。そう怒らないでくれ。でないと」
「でないと?」
「ますます熱が上がって、たいへんなことになるぞ。あんたは見るからに丈夫そうじゃないからな」
「………」
「どうした? なにか変なことを言ったか?」
「言ってない」
「ならばいいが」
「ふん、どうせ、旅の道連れが病人だと、面倒だと思っているのだろう」
「ひねくれたやつだな。そうじゃない」
「そうだ、わたしはひどいひねくれ者なうえに、あなたに災難ばかりあたえる人間だったのだ。構うな! 一人にしてくれ!」
「あんたが災難だというのなら、もしかして、もうすでに反動は十分に起こっているのではないか」
「うるさい!」

つづく……
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実験小説 塔 その13

2018年12月12日 09時35分43秒 | 実験小説 塔


「風がきついのは、山肌に当たった風が、こちらに跳ねかえってくるからだと宿の主が言っていたな。冷えてしまうが仕方ない。庭に出てやっとひとりになれた。
記憶がないと、あんなに口数の多い男だとはな。雛の親になった気分だ。それとも、単に心細さが先に立ってしまうのか。あたりまえのことだが、子龍も人の子というわけだな。
やれやれ、宿の窓からこちらを見ている。ほかに見るべきものがあるだろうに」
「石でも投げてやったらどうだ」
「やはり、ずっとついて来ていたのだな、赤毛。そのまえに、おまえに石を投げてやりたい気分だな。勝手に石を二つも押しつけていった。いきなりご神体のなくなった村では、暴動が起こっているのではなかろうな」
「それもまた、『反動』だろう」
「おまえに名前がないというのも不便だな。名前を忘れたのか、それとも捨てたのか。まあ、どちらでもよいわ。不便であるが、あえて名づけてやるつもりもない」
「俺もかまわん。見届ける者。それだけでいい」
「そのわりには、口を出すわけだ」
「おまえには、なんとしても『塔』に向かってもらわねばならぬからな。それより、面白いことになっているじゃないか。あの男を取り戻したければ、おまえも石に願いをすればいい」
「そんなことをしたら、石の災禍はますます広がりつづける、ということではないか。第一、矛盾しているぞ。わたしが『塔』に行くことができなくなっても、おまえにはどうでもいいとでも」
「願いが叶う反動は、どうやって訪れるかは、俺にも予想がつかないのさ。案外、おまえたちには累が及ばない形で、まるく納まるかもしれないぞ」
「となると、だれかが不幸になるということではないか。いちいち不愉快なやつだ」
「そういう性分なのさ。それよりも、おまえは、あいつが何を願ったか、気づいているのだろう」
「それがどうした」
「故郷にあいつを返してやって、どうするつもりだ。常山真定の趙家は、いまや零落の一途をたどっているのだぞ。おまえはそれを知っているだろう。
あの男が帰ったところで、食い扶持が増えると困ると、厄介者扱いを受けるのが関の山だ」
「そうだろうか。子龍の大きな障壁となっていた父親は死に、長兄という男との確執も、記憶がなくなったのであれば、もしかしたら解消できるかもしれない。いや、子龍ならば解消できるであろう。
それに記憶をなくしたといっても、能力そのものは失われていないのだ。子龍ならばきっと、故郷の家を再興させることができよう」
「そんなことになると思うか?」
「なる。子龍は、いつまでも父や兄のことに捕らわれている。わたしに向けている心も、父や兄の不品行に対する反発が、大きく歪んだものなのだ。
苦しかっただろうよ。どうであれ八方塞だ。未来がみえない。
記憶がないことで不安にとらわれるのと、記憶にとらわれて、いつまでも明けることのない夜のなかに閉じ込められたような思いのまま生きていくのと、どちらが苦しいだろうか。後者であろう。
だからこそ、石に願いをこめたのだ。
自分を苦しむすべての心を取り去ってほしいと、子龍はそう願った。
だから、側室だった母親や、ほかの女たちを苦しめていた父、父親の妾を盗んでいた兄を憎んでいた少年のころの記憶、ほかならぬ主君に憎まれ、師匠たる男にすら妬まれ、苦境に立たされていた公孫瓚のもとにいたころの記憶、そして、そのあと、流浪者として、あまり口外できないような生活をくりかえしていたあいだの記憶、さらには、わたしと出会って以降の記憶がなくなっているのだ。
思い出してしまうと、苦しいから」
「つまり、おまえは、やつの人生の傷のひとつとして、あっさりと切り捨てられてしまったというわけだ。気の毒に、同情するよ。だから、あんなに冷たい態度をとっていたのだな」
「勝手に判断するといい。おまえにわたしのなにがわかる」
「言っただろう、俺は見届ける者。人外の者なのだぞ。
そうか、わかった。冷たい態度をとっているのは、女々しく捨てられたことを恨んでいるのではない。
おまえは傲慢なやつだな。せっかく記憶をなくしたあいつが、また同じような心を持ってしまうことがおそろしいのだろう」
「だまれ」
「そう思いたい、というのが本音なところなのじゃないか? あいつがおまえに心を傾けるようになったそもそもの要因は、常山真定の家にあるのだ。それを忘れているということは、同じことが起こる可能性は、ひくい」
「だまれというのだ!」
「ふん、笑わせる。天下の智者と謳われるやつにしては、ずいぶん女々しい考えだな。
おい、石を使ってみたらどうだ。二つもある。反動が来たら、もうひとつの石で反動を食い止めればいい」
「くだらぬ手を。ひとつの願いに対して反動が起こるのであれば、『反動を止めてくれ』という願いにも『反動』がくる、ということだろう。
わざとわたしに石をつかわせて、残りの三つをなんとしても探させようという魂胆か」
「疑い深いやつだ。ひとが親切を言ってやったのに。石は石を呼ぶ性質がある。ただし、石を使わないやつに、石は惹かれる。おまえが石を使っちまったら、なんにもならないのさ。
どちらにしろ、おまえはこの状況からぬけだせないぜ。
おっと、あいつが来た。しかも女を連れている。
どうだ、おまえの下手な気遣いは無用なようだぞ。あいつのご面相なら、ほうっておいても女のほうから寄ってくるであろう」





「熱があるやつが、どうしてこんな風のつよいなかに立っている!」
「赤毛の男と話をしていただけだ」
「赤毛の男? どこにいるのだ、そんな奇妙なやつが」
「………消えたか」
「まったく。やはり、あんたからは目が離せんな。広い部屋が空いていると言っていたし、宿の主人にいって、やはり相部屋にしてもらう。もう決めたからな、いやだといっても、そうするぞ」
「そこの女はどうする。女と一緒に相部屋なんぞ、ご免蒙る。あなたはあなたで、好きに楽しめばよかろう」
「は? ああ、この女か。この女は、たまたま宿に泊まっていた薬師だ。病人がいると宿の主人に説明したら、紹介してくれたのだ」
「薬師? 呪師か巫女のまちがいではないのか。どうみても漢族ではなさそうであるが」
「ああ。西域のほうから流れてきて、この近辺をまわって稼いでいる女らしい」
「まだ若くてきれいな女だから、よろこんで連れてきたのではあるまいな?」
「それも少しある」
「あちらへ連れて行ってくれ。医者というのならばともかく、薬師なぞ、わたしには不要だ。
すっかり忘れているようだが、わたしも琅邪の古い巫子の血筋を引く家の長なのだぞ。薬の知識は十分にある。医巫同源というわけだ。ひとつ利巧になったな、女好き。相部屋は取り消してくれ」
「なんでそんなふうに怒るのだ? あんた、俺の女房みたいなやつだな」
「は?」
「ああ、言い間違えた。俺の女房がいたと仮定して、もしいたら、似たような反応をしたのじゃないかと言いたかったのだ」
「だれがあなたの妻だ、気味の悪いことを。おかしなことを言うから、その女も、見ろ、わたしを、おかしな目で見ている!」
「すまん、俺の言葉が足りなかった。そう怒らないでくれ。でないと」
「でないと?」
「ますます熱が上がって、たいへんなことになるぞ。あんたは見るからに丈夫そうじゃないからな」
「………」
「どうした? なにか変なことを言ったか?」
「言ってない」
「ならばいいが」
「ふん、どうせ、旅の道連れが病人だと、面倒だと思っているのだろう」
「ひねくれたやつだな。そうじゃない」
「そうだ、わたしはひどいひねくれ者なうえに、あなたに災難ばかりあたえる人間だったのだ。構うな! 一人にしてくれ!」
「あんたが災難だというのなら、もしかして、もうすでに反動は十分に起こっているのではないか」
「うるさい!」

つづく……
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実験小説 塔 その12

2018年12月08日 09時58分48秒 | 実験小説 塔
「成都にもどらなくて、本当によいのか。武都を一歩出たら、そこは完全に敵地だぞ。あんたの名前がどれほどのものか知らないが、隠密に向いている風体をしておらぬようであるし、危険が増すのではないか」
「へえ、そういう心配はしてくれるのだな。うれしいけれど、大丈夫だよ」
「なぜそんな確信を持っている」
「『石』のせいさ。わたしは、あと三つの石を集めて、『塔』に向かう指名を帯びている者。あの赤毛の男の言を信じるならば、石を持ちながら、その誘惑に乗らないでここまでいられる者は、わたしだけだったようではないか。もし『石』たちにこころがあるのなら、自分たちの目的を達することができるかもしれないわたしを、きっと守ろうとするはずだ。問題は、あなたのほうだよ。忘れているようだから教えるけれど、あなたは有名人だから、身元がばれたら捕獲される危険が高い」
「俺はなにをしたのだ」
「そんな苦虫を噛み潰したような顔になることはない。あなたはね、とても優秀な人材だから、天下に勇士として名前が轟いているのだよ。それにわたしを目立つ、目立つというが、あなたの目立ち方もなかなかたいしたものだ。魏の人間のだれかが、あなたを見つけた場合、あなたを捕縛しようとするかもしれない。その場合、子龍、わたしのことは構わず、あなたは逃げろ」
「待て。あんたも軍師将軍という高位にあるのなら、捕縛される危険が高いのではないか。それを守るために、俺はあんたに同行しているのだろう」
「………」
「ちがうのか?」
「いや、そうだよ、合っている。あなたはとても腕が立つので、こうした隠密行には欠かせない人なのだ。だから、一緒にいるのだ」
「そうか。ならば勤めを果たさねばなるまい。逃げろというが、そのろくでもない『石』が、あんたを守ってくれるという保証はなにもないのだから」
「たぶん大丈夫だろう。こういうときの勘は、おそろしくよく働く。あなたは、記憶をうしなっているわけだから、わたしのことなんていちいち気にしないで、自分のことだけを考えていればいいのだよ」
「そういうわけには」
「だめだ、自分のことだけを考えるといい。あなたは、わたしに金で雇われた用心棒というわけではないのだから、そこまで義理立てする必要もない」
「しかし、主騎であったのだろう?」
「記憶があるままの、以前の『趙子龍』であったなら、わたしもいろいろわがままを言ったかもしれないが、あなたはもうそうではない。子龍、わたしの身の安全や、わたしの向かう旅の行く末など、なにも考える必要はない。あなたは、ひたすら、自分のことだけを考えていればいいのだ」
「妙なことを。旅の行く末を考えるなということは、俺に引き返せというつもりか」
「そうだよ。ずばり言おうか、あなたの願いを石が叶えた以上、きっと反動がやってくる。わたしには目的があって、あなたの身にふりかかるであろう『反動』は、その目的の邪魔となろう。だから、あなたとともにこれから先の旅を続けることはむずかしいのだ」
「なるほど。俺は危険な道連れというわけか。あんたが、そう簡単に切り捨てられるということは、俺はあんたにとって、たいして重要じゃない人間だったのだな」
「友の一人だ。だが、それとこれとは別だ。まして、われらは怪異に操られている状態なのだ。情になどかまっておられぬ」
「冷たいやつだな」
「そうさ。それでも付き合ってくれたいままでに、感謝はしているが、これから先は別だ」
「では、成都にもどれというのか?」
「いいや、成都にもどることは許さぬ。あなたの身に、いつかかえってくる『反動』が、主公に悪影響を与えてはこまるからな。
主公のことは覚えているのだろう? 主公に真の忠心を誓うのであれば、成都にはもどることはできないはずだが?」
「あんた、いやなやつだな」
「とっくに知っていると思っていたが」
「主公に挨拶もさせないつもりか」
「当たりまえだ。主公に災難が降りかかったら、あなたは責任をとれるか?」
「とれないな」
「そうだ。わかったなら、わたしとともに北ヘ来い。途中まで送ってやる」
「途中までとはどういうことだ。それに、北ヘ行ってどうする」
「あなたは記憶がないという。それも、わたしに関する記憶がまるごとないというのであれば、それはもう他人も同然と言うことだ。
つまり蜀将としての趙子龍はいなくなったのだよ。
逆にたずねるが、成都にもどって、なんとする。成都には、あなたの家族はいないのだぞ」
「そうなのか? 俺は成都に妻子がいるのではないのか」
「いない。なぜそう思った」
「俺の年ならば、ふつういるだろう。それに、たしかに記憶はないが、なぜか成都に心残りがあるような気がしてならん」
「それはたぶん、馬のことだな。安心するがいい。もしも馬を届けてほしいというのであれば、ちゃんと手配する」
「馬、なのだろうか。というよりも、待つがいい。俺を北のどこへ向かわせようとしているのだ」
「蜀将としての立場を守らねばならない趙子龍はいなくなった。ならば、あなたは人の子として、常山真定の一族のもとへと帰るがいい」
「常山真定の一族のことも忘れているのだぞ」
「それでも血族であろう。戻れば、たとえ記憶が戻らなくとも、自然と気心が知れるのではないかな。
ああ、名前は変えるのだぞ。主公やほかの者たちには、あなたは旅先で死んだことにするからな」
「常山真定の家族といわれてもぴんとこない。あんたは、むかしの俺から、俺の家族のことを聞いていないか」
「さあ。残念だが、なにも聞いていないよ。
すまないが、野宿したせいか、体調が思わしくない。早めに宿をとりたいのだが、かまわないだろうか」





「おい、熱があるのか」
「すこしあるかもしれない。あんまりそばで、わあわあと言わないでくれないか。頭痛もするのだよ」
「それはすまなかった。いや、もう昼も過ぎる頃なのに、気づかなくてすまない」
「………」
「だから口数も少なかったのだな。ほら、町が見えてきた。街道沿いの町だから、宿のひとつくらいはあるだろう。早く休んでおけ」
「そうさせてもらう。それと」
「なんだ」
「わたしとしては、たいへんに大回りではあるが、下弁から街道沿いに、北東の陳倉まで付き合おう。陳倉では衣裳をあらため、名を変え、そのままあなたは東の故郷をめざすのだ」
「つまりは、陳倉にて、俺の葬式がおこなわれる、ということか」
「つまらぬ冗談だな」
「すまない」
「生れ変われるのだと、素直によろこべ」
「…………」

つづく……
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実験小説 塔 その11

2018年12月05日 09時52分43秒 | 実験小説 塔


「悪い冗談をいうものだ。あんな怪異のあったあとに、そういう冗談は悪趣味だぞ。やめてくれないか」
「その口ぶりでいうと、あんたは俺のことを知っているようだな。弟……ではなさそうだな」
「手鏡で自分とわたしの顔を見比べるとは、芸のこまかいことを。ふん、ならば名乗ろうではないか。わたしの名は諸葛孔明。徐州は琅邪の出自で、劉左将軍により左将軍府事および軍師将軍を任じられておる。年齢や、家族構成もいおうか?」
「俺は、なんという名前の男なのだ。あんたの何だ」
「これまた冗談が過ぎる。あなたは姓は趙、名は雲、字は子龍。冀州にある常山真定郡のそこそこ名前のとおった家の出身。ふるくは趙王の血筋に遡れるらしいと自分でいっていたことをくわえておこうか。
でもって、あなたはわたしの主騎で、おなじく劉左将軍にお仕えする同僚である。称号は翊軍将軍。その主な勤めは、成都の守備。
どうだね、ほかになにがひつようだ」
「ここはどこだ」
「これは本格的に物忘れがひどいようだな。ここは陽平関からはずれたところにある山道で、陽平関が土砂崩れで通れなくなっていたので、わたしたちはここを回って、天水を目指していたのだよ。どうだ、寝ぼけ将軍、思い出したか」
「諸葛とは、めずらしい姓だな」
「なんという反応の悪さ。いまさらそれを指摘されるとは」
「俺の身分は、なんとなくわかった。いや、じつをいうと、さっぱりわからぬが、俺はあんたの敵ではないし、あんたは俺の敵ではない、ということだな」
「敵なものか。わたしが、敵と同宿すると思うか」
「そうだな。ふつうは、敵と同宿することはない。ならば、なぜここにいる」
「………ほんとうに忘れているのか?」
「敵ではないのなら、なぜ一緒にいる。ここが陽平関のそばで、天水にむかっているというのなら、敵地にむかっているということではないか。
あんたの説明でいけば、俺は蜀の将ではないのか。なぜ、魏の領域に入ろうとしているのだ。もしや、亡命を考えていたのか」
「そういうことはおぼえているのだな。亡命ではないよ。何度も話したではないか」
「なんと?」
「いや、だから、夢で見る『塔』を探しに西域へいくのだと」
「『塔』とは、どこのことだ。あんたは、自分が軍師将軍だといったな。要職にある人間が、なぜ従者のひとりもつけずに、俺だけをつれてそんな旅に出ている」
「それは、旅先で手に入れてしまった石のせいで」
「石?」
「おぼえていないのか?」
「だからたずねている。俺はだれだ」
「………」
「………」
「………これが『反動』なのか? 子龍、石になにを願ったのだ?」





「つまり、だいたいはつかめた。俺は公孫瓚のもとを去ったあと、うまく劉予州の部下となった。そこまでは覚えている。忘れているのはそのあとだ。荊州は新野でおまえと会い、主騎になって、いまに至る、と」
「わたしのことから、忘れてしまっているのか? かなり細かい部分をはしょったが、来歴の大筋はそんなものだ」
「ぼんやりだが、いわれて見れば、なんとなく思い出せるという程度だな。あんたのその顔から察するに、俺は、公孫瓚のところで、あまりよい働きをしなかったようだな」
「ちがう。逆だ、逆。働きがよすぎて、公孫瓚と衝突し、身の危険をおぼえたために実家の不幸を理由にして出奔したのだよ。
公孫瓚は袁紹によって滅んだ。その袁紹も、曹操によってほろび、いま、天下に残っている勢力はだいたい三つ。
曹家の魏と、江東の孫家の呉、そしてわれらが劉左将軍の率いる蜀だ。まだ北に公孫氏だの南に蛮だのがいるが、これは頭数に入れなくても、とりあえずはよかろう」
「それも説明されると、なんとなくわかる。地理や国勢はおぼえている。だが、奇妙だ。自分がどんな人生を歩んできた男で、あんたがだれか、それがわからない」
「主公のことはわかるのか?」
「ぼんやりとだが。俺は、十五のときに、主公にお会いしたのではなかったか。最初は仕官を断られたが、そうだ、袁紹のところに身を寄せていた主公のところへ赴いて、ようやく家臣になることを認められたのだ。
だんだん思い出してきたぞ。だが、それ以前もわからない。
常山真定の出だというが、家のことも忘れているし、公孫瓚のもとにいた、という事実はおぼえているが、細かいことも消えてしまっているし、劉左将軍のところへたどり着くまで、なにをしていたのかも、思い出せない」
「つまり、十五までの年月と主公のもとにたどり着くまで、それから、わたしと出会ってからのことが思い出せない、ということか……じろじろ見るな」
「見なければ、思い出せないだろう。いや、しかし、奇妙なことだ。あんたのように、派手やかな者の姿を忘れてしまうとは」
「そりゃどうもありがとう」
「あんたのことを、俺はなんと呼んでいたのだろう」
「『軍師』だよ。ただ『軍師』と」
「そうか、軍師将軍を拝命していると言っていたな。だからか」
「ぴんと来ないのであれば、呼び捨てでかまわぬぞ。亮でもかまわぬし」
「あんたは、俺の義兄弟というわけでもないのだろう。それなのに、名を呼び捨てにするのはおかしい」
「そういうところだけは律儀だな。変わらないというか」
「なんだか変な質問になるが、なぜ俺は、あんたと二人だけでこうして旅に出ているのだろう」
「答えるのも変な感じだが、つまり、わたしたちは義兄弟ではないけれど、とても仲よしでね、それにあなたはわたしの主騎であるから、わたしの旅に同行したというわけだ」
「従者もつけずに? ふたりだけで? なんでまた?」
「さてねぇ、なんでだったろうねぇ」
「そこをごまかすな。もしや」
「なんだ?」
「やはり、亡命か?」
「ちがう! この旅は、劉左将軍の許可をいただいているものだ。
まったく、本当になにを願ったのだよ。さあて、あなたに関するあらかたの説明を終えたところで、今回の旅についての説明をするぞ。よーく聞くがいい」





「つまり、俺は、石が本物かどうかを試すために、わざわざ怪しい石に、願をかけてしまったというのだな。
で、おまえの見立てでは、どうやら、『願い』の反動がおこって、俺は物忘れがひどくなっている、と。俺はなにを石に願ったのだろうな?」
「それはわたしが知りたい。まいったな。このまま成都に帰って、医者に見せるべきだろうか。しかし、これは医者の領域ではないような気がする」
「うん、ちがうだろう」
「自分で言うな! ああ、困ったな。そうなると、高名な道士に見てもらうのがよいのだろうけれど、趙直は夢見が専門で、退魔の力はない、と自分で言っていたし、ほかの怪しげな有象無象に、あなたのことを任せるのも不安だし。
ほんとうに、何をねがったのだ」
「だから、わからないのだと言っているだろう。それより、肝心なことを聞いていいか」
「なんだね、言ってみるがいい」
「俺は、どういう男だったのだ」
「どう、って。そうか、世の仕組みや情勢などはおぼえているが、自分の記憶だけは、すっかりなくしてしまっているというわけか。自分がどんな人間であったかもわからないだなんて」
「落ち着かなくて困る。俺は、どういう人間だったのだ。それがわかれば、あんたとの付き合い方もわかるであろうし」
「自分が何者かなんて、そんなこと」
「『そんなこと』? どうした、なぜ答えぬ」
「もういちど確認する。幼少の頃から十五までの記憶、それから主公にお仕えするまでの数年間の放浪の記憶、さらにわたしに出会ってからの記憶が、根こそぎなくなっているのだな」
「うん。そうだ。ずいぶん顔色がわるいが、俺はそんなに、口にしにくい男だったのか」
「そうではない。あなたはとても立派な人だったよ。いや、これでは故人を語るようだな。不安になる要素なんてひとつもない、ほんとうに立派な人だ。
あなたほどに、完璧ということばに、もっとも近い人はいないだろうと思う」
「誉められているのだろうが、すまぬ、漠然としすぎていて、さっぱり参考にならぬのだが」
「すこし動けば思い出すのかもしれない。ここでこうしていても埒が明かぬ。出立しよう」
「どこへ行く。成都にもどると言っていなかったか。南へ向かうならば、山を下らねばならぬだろう、ええと、軍師、だったかな?」
「孔明でいい」
「ならば、孔明、なぜ山を登る?」
「北ヘ行くのだ。石を集めて、『塔』へ行く」





「三回に一回」
「なんだ、それは」
「あんたが、俺が話しかけて、あんたが答える回数がだ。こうしておなじ道を歩いているというのに、自分が何者かわからないうえに、あんたがどういうやつかもわからないまま、よくわからぬ『塔』へ向かっている、俺の身にもなってくれ」
「それはすまなかった。あなたは、いつもわたしが黙り込むと、どうしてくれていたかな。一緒に黙ってくれていたかな。それとも、ぜんぜんちがう話をして気を紛らせてくれたかな」
「すこし手がかりが出たな。俺はあんたに合わせるのがうまい男だったのだな」
「合わせる、というのとは、すこしちがう。あなたは、ほんとうに、ふつうにわたしのとなりにいてくれる人だった」
「その『ふつう』の度合いがわからん」
「困ったな。言葉にして伝えるのがむずかしい。あなたと会話するときには、こんなふうに困ったことは少なかったよ。あなたは口で『わからない』とは言っても、ほんとうはわかっている人だった」
「俺はあんたに似ていたか?」
「似ていると、人は言うけれど、わたしからすれば、正反対だよ。得意とするところがまったくちがうし、なにひとつ取っても、あなたの受け止め方はわたしとちがっていた」
「それでは、よく衝突をした?」
「衝突は、それはたしかにすこしはあったけれど、深刻なものになったことはなかったな。
これは、あなたが言ったことだけれど、わたしたちは、物の見方や捉え方が多少ちがうだけで、根本は同じなのだろうと。だから、突き詰めていけば、結局同じ結論を引き出せた。
衝突といっても、悪いものじゃない。あなたといろいろと、たがいの意見を突き合せて、それぞれに考えるのは、楽しいことだったよ。
わたしだけではなく、あなたもそう思っていたからこそ、ずっとうまくやっていけたのだと思っていたけれど、もしかしたら、わたしは、あなたに、かなりの無理を押し付けていたのかもしれないな。
どうだ、なにもかも忘れた状態で、わたしと言葉をかわすのは、きつくないか」
「不安さが先に立って、そこまで気が回らなかった。きついことはない。むしろ楽だ。俺はあんたと、ほんとうに仲が良かったのだな。ところで聞いていいか」
「なんだ」
「あんた、俺がなにを石にねがったのか、わかったのではないか」
「わからないよ。さあ、きつかった山登りも、そろそろ終わりだ。さあて、あとは一路、下弁を目指そうか」

つづく……
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