はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

遅れましてすみません、近況報告です。

2024年07月29日 22時48分13秒 | Weblog
さいごの「お休みのお知らせ」から、一か月以上空いてしまいました、すみません……!

お休みしたのは、いろいろ家庭内での問題が持ち上がったためでした。
創作もぜんぜんできない一か月でありました;
さすがに一か月も音沙汰ナシと言うのは不味いなと思い、今回、更新してみました。
今回の近況報告は、申し訳ありませんが、連載再開のお知らせではありません。
待っていてくださった方、ほんとうにすみません(´;ω;`)ウゥゥ

問題はぜんぜん解決していないのですが、少しずつそれと距離をとることがうまくなりつつあります。
おかげで余裕もできてきて、そろそろ創作を再開したほうがいいのでは、という気持ちにもなってきました。
ありがたいことに、少しだけ、自分の作品を客観視する余裕もできました。

奇想三国志を含む創作活動のあれこれについてのくわしくは、今後、更新するだろう近況報告でする予定です。
が、結論だけ言うと……
「奇想三国志、改造しようかな」
と思っています。
何度目だ?! と引っくり返りかけた、あなたは正しい。
しかし、じっさい、バランス悪くありませんか、いまの状況……
わたしなりにいろいろ現状を考えました。
「なんでか定期更新にこだわり過ぎていたなあ……妙に焦りすぎて、なんだか『赤壁編』が微妙なものになっている……奇想三国志のシリーズ全体の構成で考えても、一番最初のエピソード(三顧の礼前後の話)がないのも気になるし……」
と(「小説家になろう」で作品を見ると、作品全体のバランスの悪さが際立つ……)。
とくに『赤壁編』については、当初は必死に書いていましたが、一か月のブランクのあいだに、
「自分はほんとうにこの『赤壁編』を楽しんで書いているかな?」
というのも考えるようになりました。

どうも、自分は、自分の未来について、過度な期待をかけすぎていたのでは、と言うことも考えました。
つまり、
「明日以降の自分は、もっともっとうまく面白く早く書けるようになっているはず!」
と、かなり欲張りなことを本気で思っていた節がある……!
ただ書いているだけだから、そんなにすごい成長をするわけないのになあ。
それで、自分にはきついスケジュールを組んで、できる、できると思い込んでいたところへ、困った問題が起こり……にっちもさっちも行かなくなってしまったのかなと、自己分析しています。
もっと余裕を持たせていれば、ここまで休まずにすんだかも……

なんで書きたいのかなあと、そもそもの問題を考えてもみました。
これまた結論を書きますと。
「遠い将来の自分が読み返して、『よく書いてきたなあ』と面白く読めるものを残したいな」
いまはそんな気持ちです。
むかしは欲張りすぎて、公募に出せるレベルのものを書いて、ステップアップしたい、などと考えておりました。
ステップアップしたいという気持ちはいいとは思うのですが、そこまで至る道のりを単純に考えていたところもあります;

もちろん、自分の書いたものをみなさんに楽しんで読んでもらえたら嬉しいですが、
「第一の読者は自分自身だな。それを忘れていたなあ」
と反省もしました。
つまり、自分が書いていて楽しい作品を書きたいな、と思ったのです。
「赤壁編」を仕上げなければと焦っていた自分は、どうもそれを忘れてしまっていた気がする。

焦んなきゃいいじゃん、というところなんですが、要するに初心を忘れたんですね;
PVを維持したいという欲をかいてしまったのです。
いやあ、ほんとうに学ばないというか、忘れっぽいというか……

一か月のあいだ、休まざるを得なくなったわけですが、これでかえってよかったのかもしれません。
このまま我武者羅に進んでいたら、奇想三国志を含む創作活動全体が、間違ったほうへ行っていたかもしれない、と思い始めています。
とはいえ、家庭の問題なんて起こらないほうがいいわけですが……

これから、創作活動を再開させるにあたり、ちょっとずつ近況(主に創作活動の現在地)も報告しようかなと思っています。
創作活動を再開できるようになってから、ブログを更新すればいいのに、というご意見もあるかもしれません;
まー、温かい目で見てやってくださいまし。
不定期ですが、いろいろ書いていきますので、更新していたら、見てやってくださいませ。

あんまり長くなってもいけないので、そろそろここでおしまいにします。
めちゃくちゃ暑い日がつづいています。
みなさま、どうぞお体ご自愛くださいませ。
なにより、みなさんがたっぷり眠れますように。
祈りつつ。

ではでは、またお会いしましょう('ω')ノ

牧知花


お休みのお知らせ

2024年06月24日 09時47分13秒 | Weblog
急ですみません!
本日からしばらく、連載をお休みさせていただきます。
申し訳ありません……
事情がいろいろ重なってしまいました。
後日、落ち着いたら、またブログにて近況報告を書きます。
ほんとうにごめんなさい!

牧知花

赤壁に龍は踊る 三章 その17 脱出と再会

2024年06月21日 09時50分42秒 | 赤壁に龍は踊る 三章
「大丈夫か、あいつら」
思わず言うと、梁朋《りょうほう》が答えた。
「あの方は、壺中《こちゅう》のなかでも一、二を争う使い手です、大丈夫ですよ!」
「なんだって? 壺、中……?」
なんだそれは、と聞き返そうとしたところで、梁朋の脚が止まった。
行く手の木陰で、じっとこちらをうかがっている人物がいるのだ。
笠をかぶった背の高い男だった。
その男の衣は、昨日見た、梁朋と会話をしていた男と同じだ。


敵か、味方か?
戸惑う徐庶に対し、梁朋は表情を明るくした。
その者は、笠を軽くあげて、梁朋に叫ぶ。
「梁朋、逃げるぞ、こちらへ!」
その声を聞いて、徐庶はぎょっとしたが、考えている暇もなく、梁朋は徐庶を連れて、その笠の者のほうへ向かう。
笠の者は、梁朋に優しい口調で言った。
「よくやったな、逃げ道は作った。急ぐぞ」
「ありがとうございます! さあ、元直さま、おれが負《お》ぶります! 逃げましょう!」
どこへ、と聞くより早く、梁朋は徐庶に背中を見せる。
笠の者も、
「お早く!」
と急かすので、徐庶は梁朋の背中に身を預けた。


とたん、非力かと思っていた梁朋は、思わぬ胆力と脚力を見せて、その場から走り出した。
おどろいたことに、梁朋に並走して、笠の者も付いてくる。
背後では、呼子《よびこ》の甲高い音が聞こえた。
おそらく衛兵が劣勢をくつがえすべく、仲間を呼ぼうとしているのだろう。
だが、それはすぐに途切れてしまった。
黒装束の一団が、呼子を吹いた者を始末してしまったのか……


梁朋の背中で、がくがくと徐庶は揺れた。
揺れながら、ものすさまじい勢いで風景が流れていくのを見る。
梁朋と笠の者は、走りに走って、やがて要塞の果てまでやって来た。
背丈以上もある高い塀が、縦にも横にもそびえている。


行き止まりじゃないかと徐庶が思っていると、笠の者が素早く要塞の塀の一部を叩いた。
すると、外から合言葉を求める声が聞こえてくる。
笠の者がそれに応じると、おどろいたことに、塀の一部が動き、取り払われた。
ひゅっ、と外からの風が入り込む。
同時に、外にいた者が、小さな顔をのぞかせた。
「みなさま、よくご無事で!」
「うむ、船は用意してあるか? 隠れ家に急ぐぞ」
はい、と返事をしたちいさな声は、少女のもののように聞こえた。


笠の男の主導で、外に出た徐庶たちは、外で待機していた少女と合流した。
松明を持っていたその少女は、ほっかむりをして髪を隠し、男装をしている。
「船はこちらです、お早く!」
少女は松明《たいまつ》を持って、笠の者と梁朋、そして徐庶を気にしながら、烏林の葦の原を慣れた風に抜けていく。
それに合わせて、徐庶を負ぶった梁朋と、あれほど長距離を全速力で駆けたのに、ほとんど息を乱していない笠の者とで、岸辺に向かう。


岸辺に小舟が浮かんでいるのが、松明のあかりで見えた。
迷いのない動作で、少女と笠の者が乗り込み、さらに梁朋が慎重に徐庶を船に下ろす。
四人がしっかり船に乗り込むと、梁朋は自ら櫂をとって、船をこぎ出した。


「あんたらの仲間は大丈夫なのか」
黒装束の者たちはどうなるだろう。
徐庶がたずねると、梁朋が振り向きかけた。
だが、それより先に、笠の者が、笠を脱ぎつつ、答えた。
「おそらく問題はないでしょう。あの程度の敵に始末される子たちではありませんから」


やはり。
だが、なぜ?


徐庶は、笠を脱いだ人物の顔をおどろきをもって、唖然として見つめた。
ゆらゆらと揺れる船の先を照らす松明のあかりに浮かぶその顔は、まぎれもなく、孔明の妻である黄月英《こうげつえい》のものだった。
おどろきのあまり、立ち上がってしまいそうになったが、なんとかこらえて、おのれを保つために、ぐっと船べりを手でつかむ。
それから、あらためて、月英を見つめた。


孔明の妻女で、まちがいないか?
いや、まちがいはない。
何度も顔を合わせたことのある、孔明の妻女、月英。
襄陽《じょうよう》にまだ孔明がいたときなどは、街の酒店で飲み明かして徹夜をしたあと孔明を送っていくと、きまってこの女人が待っていた。
そして、どうしようもない人たちね、などと笑って出迎えてくれたものだ。
変わり者の孔明に似合いの、変わり者の妻と世間では言われていたが、二人の相性はぴったりだった。
さまざまな学問を習熟している賢明な妻女ということで、孔明はいつもいい妻をもらったと自慢をしていたほどだ。


その月英が、いま、申し訳なさそうな顔をして、こちらを見ている。
この、戦場の最前線から逃げんとしている船の中で。


「驚かせてしまいましたわね、申し訳ございませぬ」
こころからすまなさそうに言われて、徐庶は気勢をそがれた。
何と答えていいのかわからない。
黙っていると、男装の月英は、さらに言った。
「詳しい話は、隠れ家についてからいたしましょう。それより、怪我の程度は?」
「あ、ああ、大丈夫だ、ちょっと蹴られたくらいだし、きっと痣になってるくらいだろう」
「ひどい目に遭いましたね。あなたを拷問にまでかけようとするとは、徳珪《とくけい》(蔡瑁)どのも、いよいよ畜生以下の人間に成り果てたようす。
まったく、見下げはてたやつらです」


その蔡瑁は、この妻女の親戚だったはず?
それにしては、口調に、ありあまるほどの憎しみが感じられた。


「元直さま、もうすこし我慢しておくれね。じきに隠れ家だよ」
梁朋の声に振り向くと、前方の葦の原にぽつんとある、年季の入った小屋が見えてきた。
近在の村の漁師が使っているものだろうか。
やがて、小屋のそばにあるはしけに船は接岸した。


「まずはご安心ください、元直どの。いまは、曹操も徳珪どのたちも、周瑜の軍と戦うのに手いっぱいで、われらを追うことまで手が回らないでしょう」
月英に言われて、徐庶は、蔡瑁と張允の会話を思い出していた。
曹操が、江東の軍の力を測るために出撃するとか、なんとか。
いま、このときに、戦が起ころうとしているのだ。
小屋の入口から、長江の東を見やるが、そこには月の光に照らされている水面と、さわさわと揺れる葦の原があるだけである。
「目立つといけません、早くお入りになってください」
月英にうながされ、徐庶は小屋に入った。


つづく

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おととい、ウェブ拍手を押してくださった方も、かさねてありがとうございましたー!(^^)!

私事ですが、いろいろと状況がよくありません。
すぐにではないですが、近々、お休みさせていただくことになりそうです。
前回も書きましたが、くわしくわかりましたら、お知らせさせていただきます、どうぞご了承ください。

次回は月曜日の更新です、どうぞおたのしみにー(*^▽^*)

赤壁に龍は踊る 三章 その16 驚きの中で

2024年06月19日 09時36分19秒 | 赤壁に龍は踊る 三章
まさに万事休すかと思ったとき。


目の前に、ぱらぱらと埃《ほこり》と木くずの雨が降ってきた。
なんだろうと思う間もなく、ばきばき、めりめりっ、と派手な音がして、壊れた木材と一緒になって、人間が降って来た。
あっと声をあげることもできなかった。
降って来た人間は、剣を一閃させると、徐庶と大男の前に割って入ってきた。
そして、風のようにくるりと身をひるがえすと、迷うそぶりもなく、大男のどてっ腹に、手にしていた剣の切っ先を突き立てる。
大男は呆然と、おのれの腹に深々と突き刺さった剣を見つめた。
それから、がふっと血を吐いて、その場に崩れ落ちた。


「て、敵だっ、こっちにも敵がいるぞっ」
鍾獏《しょうばく》が慌てふためいて叫ぶが、応援がやってくる気配はない。
床に転がったままの徐庶は、唖然として、突如としてあらわれた助け手の背中を見上げた。
その頼りなさそうな、やせっぽちの背中。
その者は、顔を頭巾で隠していた。
振り向くと、その顔を覆っていた布をずらす。
そして、にっ、と人懐っこく笑った。
「元直さま、ご無事でなによりです!」
「おまえ……」
梁朋《りょうほう》だった。


皿洗いの少年・梁朋は、表情をふっと消すと、鍾獏のほうへ向き直る。
鍾獏は自分も大男と同じ運命をたどるのだと気づいたらしく、大男の落とした焼き鏝《ごて》を拾い上げると、めちゃくちゃに振り回しはじめた。
「来るなっ、あっちへ行け! わたしはただ、都督に命令されただけだっ」
梁朋は、無言で剣をかまえ、鍾獏にゆっくり近づいていく。
一気に襲われるよりも、よほど恐ろしい思いをしているらしく、鍾獏はひいひい言いながら、焼き鏝をいっそう大きく振りまわした。
と、逃げ回っているうちに、火桶に足が躓く。
「危ないっ」
徐庶が思わず叫ぶが、間に合わなかった。
火桶のなかにあった熱せられた炭や燃えカスが、地面にどっとぶちまけられる。
そして、その中に突っ込むようにして、鍾獏の身体が倒れ込む。
鍾獏は熱さにはじかれるように起き上がろうとしたが、それよりさきに、鍾獏の衣に火が燃え移った。


「う、うわあああああっ」
鍾獏は慌てて、動き回る。
しかし火の勢いは激しく、あっという間に鍾獏の全身を焦がしていった。
悲痛な叫びが拷問部屋に響く。
ものすさまじい焦げた臭いがあたりに漂い、さすがの徐庶も思い切りむせた。
吐き気もするし、視界は煙いし、ひどいものだ。
やがて、鍾獏は真っ黒こげになってその場に崩れ落ち、動かなくなった。


この凄惨な状況においても、梁朋はまったく動じることなかった。
かれは拷問部屋の壁にかけられていた器具のなかから手斧を取り出すと、素早く徐庶の手枷《てかせ》を打ち壊した。
「さあ、早く逃げましょう!」
言いつつ、傷ついた徐庶に肩を貸す。
徐庶は驚きの連続で、生返事しかできない。
これが、ほんとうに、あの痩せっぽっちの梁朋だろうか。
何度もまぶたをぱちくりさせて、目の前の少年を見るのだが、どう見ても、やはり梁朋なのだった。
「どうなっているのだ」
「詳しくは、あとでお話します。さあ、早く外へ! 曹操の応援が来ちまうとやっかいだ」
梁朋にうながされて、けんめいに足をうごかす。
そして拷問部屋の外に出て、徐庶はまた驚くことになった。


拷問部屋の外に配置されていたとおぼしき衛兵たちが、梁朋とおなじ黒装束の一団と激しく戦っていた。
衛兵のうちの目のいい者が、徐庶と梁朋が部屋から出てきたのを目ざとく見つけて、
「逃げるか!」
と大音声をあげて斬りかかって来た。
剣を両手で振り上げてくるその男にたいし、徐庶に肩を貸している梁朋はすぐには動けない。
その代わり、徐庶をかばって、覆いかぶさろうとする。
逃げられたと思ったのに、と徐庶が悔しく思っていると、梁朋を|袈裟懸《けさが》けに斬ろうとしている男の手が止まった。
縄鏢《じょうひょう》が絡みついたのだ。
縄鏢を投げつけたのは、やはり黒装束の一団のひとりで、かれは、
「おまえの相手はわたしだっ」
と言いながら、素早く衛兵に斬りかかっていく。
さすがに曹操軍の衛兵らしく、縄鏢に絡みつかれてもあわてず、力任せにそれを引いた。
衛兵は剣を持つ手を入れ替えて、斬りかかってくる相手をいなす。


それからは激しい剣戟のはじまりだった。
小柄な黒装束の人物は、大柄な衛兵に、一歩も退かない。
どころか、その華麗な剣さばきで、相手を翻弄し始めている。
仲間の衛兵がやってきて、劣勢をくつがえそうと二人がかりで斬りかかるが、それでもなお、黒装束の人物はひるまない。
剣だけではなく、足蹴りも有効に使って、相手を徐庶たちから退き離そうとしている。
さらには、黒装束の人物は、周りがよく見えているらしく、梁朋に叫んだ。
「このままこの場は、わたしたちに任せろっ! おまえは行くのだ!」
「で、でも」
「いいから行けっ」
叱咤されて、梁朋が徐庶に肩を貸したまま、動き出す。


徐庶は張允に強かに蹴られて痛むろっ骨を気にしつつ、けんめいに動いた。
振り返ると、黒装束の一団が、どんどん衛兵たちを圧倒しているのがわかった。
しかし、ここは要塞の真っただ中だ。
このまま騒ぎが大きくなれば、応援がつぎつぎとやってきてしまう。


つづく


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さて、ちょっと事情が変わってきまして、近々、すこしお休みをいただくことになるかもしれません。
楽しみにしてくださっている方、すみません!
ハッキリわかりましたら、またご連絡させていただきますね。

ではでは、また次回をおたのしみにー(*^▽^*)

赤壁に龍は踊る 三章 その15 万事休す

2024年06月17日 09時57分41秒 | 赤壁に龍は踊る 三章
蔡瑁は、拷問部屋に入ってくるなり、張允《ちょういん》に踏みつけられている徐庶を無感動な顔で見つめてきた。
「訴状は取り上げたのか」
「もちろんでございます。こんなものが丞相の手元に渡ったら……」
「わかっておる。さすがにわしもおまえも御終いじゃ。
しかし面倒な。出撃の前に、こやつに、おのが罪を認めさせねばならんとはな」
出撃、と聞いて、張允が徐庶を踏みつけていた足を止めた。
「出撃と申しますと?」
「聞いておらぬのか、のんきな奴め。おまえもすぐに支度をせよ。
丞相は夜明けとともに江東へ出撃することを決められたのだ」
「なんと。では、いよいよ決戦で?」


問われて、蔡瑁は訳知り顔になって、よく手入れのされたあごひげを手で弄んだ。
「そうではあるまい。じつはさきほど、陸口《りくこう》に派遣されていた使者が帰って来たのだ。
それが、周瑜のやつにかなり愚弄されて帰って来たようでな。
さすがの丞相も怒り心頭で、目にもの見せてくれると出撃を決められたのだ。だがな」
「だが?」
「お怒りなのは、おそらくそうわれらに見せているだけのもので、本心は、単に江東の軍の実力を測りたいというところではないのかな」
「なるほど。江東の水軍の実力がどれほどのものか、曹丞相はご存じありませぬからなあ。
さすがは徳珪《とくけい》(蔡瑁)どの、そこまで丞相のお心を理解されているとは」
と、張允はみごとな腰ぎんちゃくぶりを見せて、蔡瑁の明察を褒めあげた。
蔡瑁はまんざらでもない様子で、笑みを浮かべつつ、徐庶を見下ろす。
「われらはこの戦で、だれにも替えが効かない人間だと軍中に知らしめねばならぬ。
こやつに邪魔されるわけにはいかんのだ」


「おれを消したところで、流行り病が広がるのは、止められぬぞ」
徐庶がうめくように言うと、蔡瑁は厳しい顔で応じた。
「おまえを生かしたら、おまえは丞相にあることないことを吹き込むであろうが!」
「事実しか言わぬ。おまえたちが、あの建屋に病人を押し込めて、流行り病を隠蔽していることをな」
「黙れっ! 流行り病なんぞ、ないのだ!」
叫べば、言葉がそのまま真実になると信じているような勢いだった。


「呆れるぜ、あんたら、ろくな死に方しないぞ」
徐庶が憎まれ口をたたくと、それを黙らせるべく、張允がまた徐庶を痛烈に蹴飛ばしてきた。
その痛みに耐えかねて、徐庶がうめくと、蔡瑁は唇をゆがめて笑う。
そして、部屋の隅っこで成り行きを見つめていた医者の鍾獏に命じた。
「鍾獏《しょうばく》よ、こやつが『おのれの罪』を認めるまで、拷問にかけよ。
自白するならそれでよし、自白せぬようならば……わかっておるな?」
「心得ております」
鍾獏が慇懃《いんぎん》に礼を取ると、蔡瑁と張允はそれぞれ拷問部屋から出て行った。


ふたりの背中をじっと見つめていた鍾獏が、徐庶を振り返る。
その目は冷たく、徐庶のために面倒ごとを抱えたことを恨んでいるのは、あきらかであった。
鍾獏は、さきほどの卑屈なまでの低姿勢をあらため、大男に命じた。
「聞いていたな? こいつを適当に痛めつけろ」
「適当って、どういうふうですかね?」
やはり、あまり賢くない様子の大男が、きょとんとした様子で尋ねるのを、医者の鍾獏は苛立って答える。
「そこの火桶にある焼き鏝で、肌を焼いてみろ。たいがいはそれで吐く! 
すこしは知恵を働かせろ、馬鹿者めっ」
「おいおい、おれは牛や豚じゃないんだぜ」
徐庶がまぜっかえすと、鍾獏は鼻の上に皺を寄せて、憎々し気に言った。
「黙れ! 貴様のせいで叱られる羽目になったではないかっ! 
わたしとて、こんな役目はしたくないのだ」
「じゃあ、やらなけりゃいいだろう」
「やらねば、わたしに害がおよぶ。蔡都督に逆らって、この荊州でうまくやってこられた人間はおらぬ」
「あんたが最初のうまくやれた人間になりゃいいじゃないか」
「減らず口を。わしを心変わりさせようとしても無理だぞ。
ほれ、ぼおっとしておらんで、そこの焼き鏝《ごて》を持ってこい! そいつをこいつの腕に押し付けるのだ!」


大男は妙に素直に、焼き鏝をじっくり火桶であたためてから、その真っ赤に熱された鉄のかたまりを徐庶のからだに近づけてくる。
その熱さは、衣のうえからもはっきりわかるほどだった。
『くそっ、こんな目に遭うとはな!』
さすがに焼き鏝を押し付けられたことは、生涯で一度もない。
徐庶はぎゅっと目をつむり、やってくるだろう激しい痛みに耐えることにした。


しかし、さいわいというべきか。
その真っ赤に熱せられた焼き鏝は、徐庶の身体に押し当てられることはなかった。
拷問部屋の表で、騒ぎが起こったのである。
鍾獏と大男は、騒ぎにつられて、顔を外に向けた。
きん、がん、と金属のぶつかり合う音が聞こえてくる。
はっきりした声で、だれかが「敵襲だっ」と叫んでいるのが聞こえた。


「敵だと? なぜこんな要塞の内部に?」
鍾獏がおろおろしているのを見て、大男もまた、どうしたらよいかわからなくなったらしく、焼き鏝を持ったまま、つぶやいた。
「困ったな、それじゃあ、敵が来る前に、さっさと仕事を片付けちまわないと、また叱られちまう」
ありがたくないことに、鍾獏が外に気を取られているというのに、大男のほうは、粛々と拷問のつづきをしようとする。


徐庶は今度は目を開き、芋虫のように地面に這いずって、男の手から逃れようとした。
しかし、なかなか体が思うように動かない。
足だけを頼りに、けんめいに後ずさる。
大男は、
「逃げるなよ、面倒なやつめ」
と悪態をついて追いかけてくる。


つづく

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どうなる徐庶? 
次回は水曜日です、どうぞおたのしみにー(*^▽^*)

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