董和の息子・董休昭が、宮城をてくてく歩いていると、親友であり、貧乏ともだちの費文偉が声をかけてきた。
「休昭、きのこ狩りに行こう」
「なんだ、いきなり」
「ゆうべ、奇妙な夢を見たのだ。だから、きのこ狩りへ行こう」
「どういう理屈だ。まあ、物価高なことであるし、秋の幸を求めに、ついて行ってもよいが」
そして、二人はきのこ狩りの穴場と言われる山に登って、狩りをはじめたのであるが、成績は、なかなか芳しくない。
「明け方からすぐに山に登り始めて、そろそろ日も暮れる。山を下りねばならないというのに、まだきのこ四本きりだ。今年は秋の訪れが遅いのか」
「銀杏の実も、まだ落ちていないくらいだからな。紅葉もほとんどないし。どうりで隠士を気取った風流好みと、鉢合わないと思ったら」
「紅葉をながめて漢詩を作る連中などは、結局、生活に余裕があるのさ。われら貧乏人は、天を仰いで微笑むよりも、地面をみつめてきのこを探す、と。おや?」
文偉は、前方に、こんもりと盛り上がっている土のそばに、かぐわしい匂いをはなつ、松茸の一群を見つけた。
「おお! 松茸! 自分で食べて、匂いを楽しむのも良し! 売って懐を潤すも良し! まさに天の恵み!」
「文偉、松茸はいいが、なんだかおかしくないか、あの土。人が横たわっているような、奇妙な盛り上がりに見えるのだが…」
休昭の声に、駆けたがる足を抑えて、慎重に近づけば、そこには…
「あっ! 郭攸之!」
見れば、見るも無残に着物も擦り切れた郭攸史が、大木の根のふもとで行き倒れていたのであった。
「ゴールデンウィークにアップしたおばか企画『ニューシネマぱらだいす』以来、ふっつりと消息のとぎれていた郭攸史! なにゆえ山に! わたしがわかるか? 親友(仮)の董休昭だ!」
休昭が駆け寄り、助け起こすと、半死半生、息も絶え絶えの郭攸史は、よわよわしくも、懸命に唇を開く。
「『親友』の後ろに、なんで(仮)がつくの……」
「気にするな! 熊にやられたのか?」
「ちがう…いっつも倒れてばかりだから、身体を鍛えようと思って、山に…そしたら、猿の群れにいじめられて…ゴフ」
「郭攸史! 気をしっかり持て!」
「気をしっかり持った郭攸史なぞ、郭攸史とはいえぬ」
「うしろで冷静にツッコミ入れていないで、おまえも励ませ、文偉!」
「がんばれー」
「ぜんぜん気持ちが籠もってない…どうしていつも、こんな目に…」
「まったくだ。おまえに関する記述が『気が弱くて仕事できなかったみたい』だけだったということで、なぜにこうも虐げられねばならぬのか!」
「励ましになってない……また会う日まで……ガクリ」
「郭攸史ー!!」
郭攸史、秋の山野に死す。
「しかし、これを里に持っていくのも面倒だな。適当に埋めておくか」
「うむ、雪解けのころに、また生えてくるだろう。春の山菜狩りのときに、また来よう。それまで、さよならだ」
そうして二人は、郭攸史を大木のほとりに生め、戦利品がきのこ四本きりだった、とぶうぶう言いながら、山を下りて行った。
やがて、市場に奇妙なきのこが流通する。
それはなよなよと頼りない風姿であるが、匂いがすばらしく良く、『蜀の新種のマツタケモドキ』として一世を風靡することとなる。
ある山の、大木の麓でしか採れない、その茸、わずかな面積に次から次へと、採ってもすぐにまた生えて、だれが言うともなしに、『郭攸史茸(カクユウシダケ)』と名が伝わり、蜀の輸出を助けることとなったのだった。
かくて郭攸史は、はじめて蜀に貢献をすることになったのである。菌類としてであるが……
「……という奇妙な夢を見たのだ。きのこ狩りに行こう、休昭」
「もしかして、これ、オチか?」
そして六行目に戻る。
おわり
(はさみの世界 初出 2005/09/30)