はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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地這う龍 四章 その18 張飛の咆哮

2024年02月12日 09時51分27秒 | 地這う龍



地平を埋めつくす曹操の兵。
何万人いるのだろうかなあ、と張飛はかんがえる。
何万いようと、関係ないのだが。
それぞれの大将の名を染め抜いた旗がひるがえり、こちらを威嚇しているのが腹が立つ。
兵の中央には天蓋があり、その下に、稀代の姦雄・曹操がいるのはまちがいなかった。
やつはおれを見ている。
おれもやつを見ている。


趙雲が引っ掻き回した戦場は、すでに落ち着いていて、いまは耳に痛いような静寂に包まれていた。
曹操の兵は、橋を突破せんと集まって来たのだ。
しかし、単騎で橋を守る張飛の姿に怖じて、先に進めなくなっている。
おそらく、なにか策があるのではと疑っているのにちがいない。


しかし実際に、張飛には策があった。
橋の背後の木立に兵をひそませ、縄でもって、木立をしきりに揺らさせていたのだ。
そうすることで、伏兵があると、曹操側に疑わせていたのである。
一定の距離を置いて、曹操が進んでこないところをみると、策は当たったようだ。


張飛は蛇矛をぶうんとふりまわし、空気を斬った。
それから、腹の底から曹操に呼ばわった。
「張益徳である!」
ぴんと糸を張ったような緊張した空気のなか、張飛の銅鑼のような声は、わんわんと隅々まで良く響いた。
「曹操の軍兵たちよ、聞け! おまえたちのなかに、このおれと矛を交えんとおもう者はおるかっ!」
張飛の声は、無言の戦場に染みわたっていった。
遠くの一兵卒にまで届いただろう大音声に、曹操軍が凍り付いたのが、気配で分かる。


しんと静まり返った戦場で、残響だけがある。
ほかに声を上げる者はない。


と、天蓋の下の曹操が、なにかを合図したのが遠目に見えた。
それを機に、なんと、橋を取り囲んでいた数万の騎兵が、来た道を戻っていく。


土煙をあげて消えていく曹操軍のすがたを、張飛の背後で隠れていた兵士たちが唖然と見つめていた。
張飛は喜ぶでもなく、誇るでもなく、ふんっ、と大きく鼻を鳴らすと、部下たちに下知した。
「よしっ、橋を燃やせ、兄者たちに合流するぞ!」
まだキツネにつままれたような顔をしている部下たちだったが、張飛の命令に、弾かれたように動き出した。







趙雲は劉備と対面したあと、糸が切れたように昏倒してしまった。
そこで、台車に乗せられ、さらに移動することとなった。
もはや意識は朦朧として、自分たちがどこへ逃げているのかすら、わからない。
あとは劉備の判断に任せるほかなかった。


ボンヤリしたまま横になっている趙雲に、声がかかる。
「よくやったよ、ほんとうに、こんな男を見るのは初めてだ」
なつかしい声が聞こえたような気がした。
趙雲はおもわず、返事をする。
「俺はおまえとの約束を守ったろう。かならず生きて帰ると……」
「うん? 約束なんてしたっけね」
と、その声で目を開くと、隣で並走していたのは孔明ではなく、例の旅装の大男であった。
「水を飲むかい、疲れただろう」
自分をいたわってくれるその旅人のいうがまま、趙雲は水をもとめた。
そして、気づいた。


この旅人は、孔明とおなじ徐州の人間なのだ。
言葉の端々になまりがある。
孔明とおなじなまりだ。
「あんた、すごいことをやってのけたんだよ。
まったく、こんなのを見たことがない、たいしたものだよ」
褒めちぎる旅人に、趙雲はうなるように答えた。
「約束をしたのだ。軍師と、かならず生き延びると」
「そうかい、そうかい、約束を守れたってわけだね。
いまは休むといいよ、曹操の兵もまだ追ってこないから」
まだ追ってこない、か。
いずれは追ってくる。
それまでに、体力を回復させておかねば。


趙雲はガタガタ揺れる台車に身を任せた。
そして、いまは東の地にいるであろう友の姿を思い浮かべた。


孔明のことを思い出すと、ひどく心配になってくる。
船がまだ来ない。
孔明は劉琦のいる江夏に、きちんとたどり着いたのだろうか。
かんがえているうちに、何度目かの睡魔が襲ってきた。




つづく

※ いつも閲覧してくださっているみなさま、ありがとうございます!(^^)!
今回で四章がおわり。次回から最終章の五章となります。
どうぞ最後までお付き合いくださいませね!

でもって、赤壁編、急ピッチで「箱書き」なるものを作っております。
まだそんなところか……と呆れられた方もいらっしゃるかも。
なんとか「毎日更新」目指して、奮励努力してまいりますよー!
引き続き応援していただけるとさいわいです♪

ではでは、次回をおたのしみにー(*^▽^*)


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