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Bechtel (2006) 機構と表示 MechanismとRepresentation の訳

2016年08月19日 16時39分42秒 | システム学の基礎
2016年8月19日-1
Bechtel (2006) 機構と表示 MechanismとRepresentation の訳

William Bechtel (2006) "Discovering Cell Mechanisms"

2.3. 機構の現代的捉え方 Current Conceptions of Mechanism [p.26]

 最近の20年間に生物諸科学への注目がますます増すにつれて、数多くの科学哲学者たちが機械論的〔機構的〕説明 mechanistic explanation 〔訳註1]mechanisticは、「機構的」とは訳さないことにする。機構的はmechanismicの訳に当てることにする。しかし、mechanismは機構と訳す。〕に関心を向け始めた。彼らは適当な枠組みが存在しないことを、初期の提案で述べた。その提案は、いくつかの重要な事項で、また用語、〔論議の〕範囲 scope〔視界〕、そして強調点において、重複していた。(たとえば。bechtel & Richardson, 1993; Glennan, 1996; Machamer, Darden, & Craver, 2000)[^2]。まず、自然界に見られる機構の基本的特徴づけを与え、次にそれを機構的説明のための枠組みへと仕上げよう。すなわち、
 
  一つの機構とは、その構成部分 component parts、構成要素の働き component operations、そしてそれらの編制〔組織化〕 organization によって、一つの機能を遂行する一つの構造である。その機構が調整されて機能すること orchaesrated functioning が、一つ以上の現象を招く responsible for one or more phenomena。

 さらに、

・ 機構の構成部分とは、注目した現象を生じること producing に関わりのある構成部分である。【p.26/p.27】
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  訳註1。mechanistic explanation は機械論的考えを引き継いでいるので、機械論的説明と訳した方が良いだろうと思う。マーナとブーンゲ(2008: ??)が主張する「mechanismic」という語に、機構的と訳して、機械論的な文脈での「mechanism」を「機関」と訳すのも選択肢の一つだろう。機械論的機構は、「machinery」という語を用いて、「からくり」または「機関」と訳す手もあるだろう。しかし残念ながら、「mechanism」という語では区別できないので、とりあえずは「mechanistic」も「機構的」としておく。きちんと論じて訳語を定めるには、機械類比論 などとの区別点を踏まえる必要がある。
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・ 各々の構成要素の働きは、少なくとも一つの構成部分と関与する。典型的には、その働きを開始するか維持する一つの活動的部分があり、その働きによって変化する少なくとも一つの受動的部分がある。その変化は、一つの部分の場所または他の諸性質へ向けられるかもしれないし、あるいはそれを別の種類の部分へと変形するかもしれない。
・ 機構は編制〔組織化〕の多数の水準に関与するかもしれない。
・ 働きは、単純に時間的順序によって編制されることができる。しかし、生物学的機構での働きは、もっと複雑な形態の編制を示す傾向がある。
・ 機構は、動力学的 dynamic であり得るし、個体発生的と系統発生的の両方に変化し得る。

 機構のこのような特徴づけのいくつかの特徴は、洗練が必要である。

   _機構は現象を説明する_ _Mechanisms Explain Phenomena_ [p.27]

 機構の捉え方は最初は、説明の文脈と結ばれている。すなわち、機構は、説明が探し求められる現象によって同定される。論理経験主義的な科学哲学においては、説明を、観察〔観測〕言明を説明するものとして説明を解釈する傾向があった。観察言明は、事象を理論中立的に特徴づけるものと取られたのである。この見解は、Hanson (1948) とKuhn (1962/1970)に由来する論争、観察は理論負荷的であり、科学者たちが観察するものはかれらが従う理論によって影響されるという論争とともに疑わしいものとなった。これは、理論が、試験されるべき理論によってすでに形づくられた観察によって試験される、という循環性を招く恐れがあると思われた。この循環性は不公理だと示す、より簡単なやり方があるけれども[^3]、BogenとWoodward は、観察は科学者たちが説明するものであるという考えそのものに挑戦した。彼らは、観察と現象を対比させた。観察はデータ〔資料〕を提供するが(ただしデータが期待されるものと判明せず、調査者がなぜかを求める場合を除いて)、科学者たちが説明するのはデータではない。むしろ、彼らは_現象_を説明するのである。現象とはつまり、この世界における出来事 occurences であり、その出来事についてデータを入手することができるのである。特異的な〔唯一無二の singular〕現象(ビッグバンや特定の有機体の誕生)はあり得るけれども【p.27/p.28】、科学で注目する現象は、一般化において捕えられるものである。一般化とは、たとえば、変数間の関数関係とか、あるいは一定の種類の事象が他の一定の型の事象が生起したときにだけ規則的に生起するという事実とかに、関与するものである。データは、現象を同定し証拠を提供する際に重要な役割を演じるが、説明の対照でると同定されるのは現象である。
 BogenとWoodward は、現象の事例として、「弱い中性電流、陽子の崩壊、そして人の記憶における新近性効果」(1988, p.306)を提示した。生物学では、DNA〔デオキシリボ核酸〕の複製、またはアルコール発酵は、この事例に相当するだろう。現象を定量的に特徴づけることはしばしば可能である。BogenとWoodward は、鉛が摂氏327度で溶けるという事例を考察している。ガレリオは、地球表面の近くで自由落下する物体が動く距離は、それが落下するときの秒数の二乗〔平方〕の16倍だということを確立した。定量的現象の生物学的事例は、正常の細胞で形成されるアデノシン三燐酸(ATP)の分子の最大数は、費やされる一酸素分子当たりの酸化的燐酸化反応によって、3であるというものである。現象はまた、様々な程度の特異性 specificity によって特徴づけることができる。個々の科学者は、彼女の研究にとっての現象とは、たとえば特定の諸条件下で生きる特定種に存在する特異的な型の細胞における特定の蛋白の合成なのだと同定するかもしれない。或る総説論文の著者は、様々な細胞型と種におけるその蛋白の合成という現象を扱うかもしれない。最も一般的な水準では、教科書の著者は、単に「蛋白合成」について少しばかりの頁を書くかもしれない。
 現象を同定し特徴づけることは挑戦的な科学的活動であり、それは時間、金銭、そして創意工夫のかなりの資源を消費する。主張される現象は、本物であると示されなければならないし、その一般性が同定されなければならない。主張される現象のうち、精査されると成立せず、捨てられなければならないものもある。機構的説明の発展のためには、現象を特定化することの重要性をわたしは強調するであろうが、その現象を招くと取られる機構の研究の過程で、科学者が現象の特徴づけをしばしば改訂することを、最初から注意しておくことは重要である。『複雑性を発見する Discovering Complexity』においてRichardsonとわたしは、このような改訂を現象の再構成_reconstituting the phenomenon_と呼び、事例を提供した。それは、研究者たちは、遺伝子発現の機構を研究する途上で、何に対して遺伝子は符号化するのかという捉え方を繰り返し改訂したという事例である。1860年代にグレゴール メンデルは、 特徴 traitsに対する因子 factorsについて語った。1910年代にトーマス ハント モルガンと彼の恊働者たちは、眼の色といった特徴に対する遺伝子の場所を突き止めようと探し求めた。しかし1940年代に Beadle とTatum のアカパンカビにおける突然変異の探求は、彼ら自身をして、遺伝子を特徴ではなく個々の酵素へと結びつけることとなった。【p.28/p.29】
 もし現象の捉え方の改訂がそんなにも大きいのならば、その機構が何を行なっているかが、いまだに存在すると認められるものは少ししかない。当初に特徴づけられた現象に対する機構を分節するように向かってなされた仕事は、無駄に終わったと証明されたと言えるかもしれない。もっとも、きわめてしばしば、現象の特徴づけにおける変化は、旧来の捉え方の大規模な置換ではなくて、改訂という形態を取り、したがって機構の説明における変化は、より限定されたものである。たとえば、初期の研究者は発酵を、糖を分解して(熱を副産物とするとともに)アルコールを産する異化活動として解釈した。解放されたエネルギーが、他の細胞活動のためのエネルギー資源として使われる高エネルギーの燐酸結合に捕えられると、研究者たちはひとたび認識すると、説明されるべき現象の捉え方は改訂されたのである。それは今や、食料のエネルギーを細胞分裂といった他の活動に役立つ形態へと転換する機構なのである。しかし、糖のアルコールへの異化的分解は、この過程の一部として留まっている。ゆえに、発酵の機構について知られたことの多くは、その現象が再概念化された後もなお、応用されたのである。
 




      Component Parts and Component Operations p.30
      Organization and Orchestration p.32
   2.4. Representing and Reasoning about Mechanisms p.33